スペシャルは六月
四半世紀も生きちゃった。
誕生日前夜、
いつもの稽古を終えて、いつものメンバーで食事をとることになった。トレーナーのセイルさんが宿泊しているゲストハウスの居間で食事をしていると、そこのオーナーさんと、偶然居合わせたお兄さん二人がきてくれてみんなでいろんな話をした。
ひょんなことから生まれた年の話になって、私が明日誕生日だというと、皆さんがハッピーバースデーを歌ってくれるという。
古民家のような、至る所に魅力的な古道具が置かれているそのゲストハウスの奥から、オーナーさんがおもちゃの楽器を持ってきてくれて、みんなで歌ってくれたんだ。
あんなにシブいハッピーバースデーを歌ってもらうことは、これが最初で最後かもしれない。めちゃくちゃいい時間。
また来ます、と皆さんにお別れをして家路に着く。お風呂から上がると0時を回ったところだった。
食事のときオーナーさんに、やっぱり生まれた月の六月は好きですよね〜?と聞かれた時、はい、まあ、、と曖昧な返事をしてしまったことを考えていた。
オーナーさんは、自分の誕生月が嫌いな人を探しているのだそう。。
六月、嫌いじゃないけど好きな季節は秋なんだよなあ。
嫌いじゃないんだけど、、なんだか気持ちが沈むことの多い季節だ。
でもそんな六月のことも、さいきん少しだけ調子を合わせられるようになってきた気がする。
どんよりと低い空も、肌にまとわりつく湿気も、夏に向けて生きものたちが英気を蓄えている時なんだと思うとちょっと許せるようになった。
長く降る雨も、もう降るだけ降ってしまえ(我慢しないほうがいい)と思ったり、
雨の前の匂いには小学校の中庭の風景を思い出すようになった。
そんな六月の景色に私の姿を思い出してくれる人がいてくれることが嬉しかった。
0時を回って携帯に届いた、大学時代のお友だちからのラブレター。
嬉しくって何度も読みたくて、すぐにスクショしてプリントアウトした。
大事なものは、形のあるものにして残しておきたいと思ってしまう。
わたしも手帳に挟むことにしたよ。
節目節目で大事な言葉を贈ってくれて、そんな人たちに救われながら生きている。いつも心の近いところにいてくれる人たちだ。
誕生日には自分のスペシャルを過ごすと決めている。
ずっと行きたかったPURPLEで木村和平さんの『石と桃』の展示をみる。
不思議の国のアリス症候群と名付けられているそれに思い当たる節があって、気になっていた写真展。
三面の壁に散りばめられた作品たち。
しゃがんだり、少し離れてみたり、空間ごと楽しめるから写真展は大好きだ。
思わず触れたくなる写真の数々にずっと没頭する。切実な瞬間が写し出されていると感じた。
イベントギャラリーであるPURPLEはさまざまな本が置かれていてとても心地の良い空間。。天気が良くって、窓から入る光がとても暖かくて、いつでも来たいと思った。
いくつか気になる本があって、そのうちのいちばんを持ち帰ることに決めた。今日はなんてったってスペシャルだから。
手に取った瞬間ビビッときたGOTO AKIさんの『TERRA』という本。
ページをめくるたびに目に飛び込んでくる美しい写真たち。
私は何故だかずっと水や光や木々の活動に魅せられて生きているので、そのアンテナがどうしてもこれが欲しいと思ってしまった。
全部を見てしまわないようにそっと本を閉じて、カウンターに持っていく。
レジでお姉さんから、ちょうど今日まで『TERRA』の写真展がやっていることを教えてもらった。今日はスペシャルだ。
少し離れた同時代ギャラリーに着いたのは、終了時刻ギリギリだった。
さっきPURPLEで本を開いた時のわあっという感動が再び訪れた。
地球が生きていることをいろんな距離から感じさせてくれる写真の数々。
この本の編集や写真展のディレクションをされている方がちょうどいらしていて、
私が『TERRA』の入った袋を下げていることに気づいて声をかけてくださった。
その向こうにはGOTO AKIさん本人もいらして、偶然手に取った本の作者に会えてしまった。
今日はじめてGOTOさんの写真に触れたこと、私が水や自然の姿に惹かれていることを話すと、とても丁寧に作品のことについて話してくださった。
歌や絵画、映像では表せない、人間の目では追いつかない、何千分の一という世界に写る
生きた地球の姿が本当に美しいと思った。
目で見て話して体感して、一つの本との出会いが新しい巡り合わせを与えてくれたことがとても嬉しかった。
ほんとうはこのあとみなみ会館でゴダールの映画をみようと思っていたけれど、もう心がいっぱいでこんなことを書いていたら上映時間が過ぎてしまっていた。
それでも今日はとてもとてもスペシャルな1日だった。
秋が好きだけど、
わたしはちゃんと六月生まれ。
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