やさしいあやまちカバー用作業

2019年 個人出版漫画家になった年

何度も書いて来たように、2019年は32年にわたる商業漫画家から、完全に個人出版だけを行う漫画家に移行しました。
翻訳版を手掛けたこともあり、気分は新しく「MANGA ARTIST」という感じですね(^ ^)

移行した経緯は過去の記事をお読みいただくとして、この漫画業界と言うそこそこ歴史を紡いできた「場」にいる私たち漫画家が、もう一つ得た新たな「場」について、今の私の総括めいたことを書こうと思います。
特に個人出版にご興味のある方、長らく商業誌で描いてこられたベテラン漫画家の方、今は引退されている元漫画家の方、是非ご覧下さい。

これまで漫画家になると言うと、商業誌に掲載されているか、出版社から単行本が発売されていることがなんとなくの条件でした。
今私がやっていることは、自分の作品を個人で配信(配信代行さんを通して)しているため、内容的には同人誌作家と同じです。
要するに、これまでの認識ではアマチュア活動、アマチュア漫画家です。

私はむしろ同人誌などのアマチュア活動に疎く、そちらからの認識は詳しい方にお譲りしますが、商業漫画家の認識としては、しかしこれはアマチュアではなく、プロの漫画家だと思っています。
同時に、オリジナル作品を描いてそれをある程度生活の糧にしているならば、一度も商業誌の仕事をしたことがなくても、それはプロの漫画家なのだと思います。

つまり、漫画家として対価を得る手段がかつては出版社にしかなかったものが、今では電子書籍という方法で個人で問題なく可能になったと言うことです。
そして、こちらに移行して、私が強く感じていることがあります。
それも、長く商業誌にいたからこそ感じることだと思います。

『Arriba! 2nd season』と言う、私が今書いている新作のフラメンコ漫画は、現在2話まで配信されています。
かつて小学館で『Arriba!』と言う前段のお話を書いていた頃の担当さんは、今では読者の立場で読んで下さっているのですが、2話には

「商業誌に書いていない作品ならではですね」

と言う感想を下さいました。
2話はほとんど踊ってばかりいる回だったので(笑)、私が商業誌でそんなことを延々やっていたらとてもアンケートは取れなかったでしょう。
そう、商業誌には常に厳しい評価と責任がついて回ります。
一回一回冷徹にアンケートをとられ、単行本が出れば発行部数を見積もられ、成果が出なければ次にきっちり響きます。
私もいつも、最大多数に評価されることが命題でした。
そんな中ではどうしても書けないもの、挑戦できないものがあり、またまだ続けたいのに打ち切られる…つまり、他者の都合で作品が評価され、運命を決められると言う宿命がありました。

前にも書いたかと思いますが、そういう環境で鍛えられたことは大きく、商業誌で頑張って来たことに後悔はありません。
私は平凡な漫画家なので、商業誌でなければ逆に生き抜いて来られなかったでしょう。
商業誌で足掻いて来たのは、成長したい、成長して魅力を増して、漫画家として成功したいと言う気持ちがあったからでした。
成功といっても名をなしたいと言うよりは、描きたいものを自由に描く場所を得たい(これは売れてないと無理)、そして多くの方に読んでいただけたら幸せ、と言うのが私の成功だったと思います。
そういえば私が漫画家になったのは、私が本当に読みたい漫画を他の誰も描いてくれなかったから自分で描こう、と思ったからでした。

個人出版の世界では、まさに自分の思い通りのお話を思い通りの長さで書くことが出来ます。
今でも読者の方の評価は大切ですが、あまり評価をいただけない時があっても、描きたいものの信念に殉じて思いを通す自由があります。
商業誌で長らく頑張って来たからこそ、もうこれからは収入や知名度より描きたいもの、描かなければならないものを優先するぞ、と思うことが出来ました。
私もこれからは個人出版で食べて行けないと困るのですが(笑)、ありがたくもこれまで商業誌で積み重ねて来た旧作や、応援してくださって来た読者の皆さんというかけがえのない財産があります。
これら無くして、個人出版へ舵を切ることはできませんでした。

まだ商業誌の実績がない方、若い方などが個人出版へチャレンジするにはまた別のご苦労があるかもしれません。
また、私たちロートル(^_^;)にはないアドバンテージがあるかも。
この記事は、主に私のような商業誌での掲載作品をお持ちの方に読んで頂きたくて書きました。
出版業界の変化は止めようもありません。
特に実力、ファンをお持ちの方にはマイペースで自由に世界を広げることができるチャンスでもあります。
出版社に自分の漫画家生命の全てを委ねる時代は終わりました。
是非、保管しっぱなしの旧作の埃を払い、個人出版という新しい手段に目を向けて頂ければと思います。

そして、最初は演劇の感想を書こうと思って立ち上げたnoteがだんだん漫画関係の記事で埋まり、また多く読んで頂けるようになり、訪ねてくださった皆様にも心から感謝しております。
創作の世界がますます深く、広く広がりますように。

どうぞ良いお年をお迎えください。


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