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漫画のトレーニング?

SNSをやっていると、アマプロ問わず皆さんクロッキー会に参加したり、毎日デッサンを義務付けていたり、背景美塾のようなところへ通ったり、ご自分のスキルを上げるため本当に熱心に努力されています。
原稿制作をアナログからデジタルへ移行する際、私も背景美塾のデジタルクラスにはお世話になりました。
アシスタントさんの中には、背景クラスへ通った経験がある人もいましたね。

私は経験ないですが、今はプロとして活躍されている方の中にもネームタンクなど、内容に関わるスキルを学ぶ場所へ通った方も多いようです。
すごいなと思いますが、率直に言って、私はあまり通う必要はないと思っています。

デジタルクラスへ行った時も、時間を節約するため1回で済むクラスに2クラス(入門とパース定規のクラス)足を運んだだけで済ませました。
パソコンやiPadでデジタルアプリを扱うのは純粋にデジタルスキルの問題で、取説代わりです。
時間をかければ自分で調べたり本を読んだりしてだんだんスキルを身につけることはできたでしょう。
(アナログでそうしたように)
ただ、当時は商業誌に描いていましたので時間が惜しいですし、流石にプロの講師の方は効率よく必要最低限のスキルを伝授して下さるわけです。
絵は描けるので、アプリの操り方だけを教えて頂ければ良いのです。

長くなりそうなので今日は「絵」について書きますね。
絵は、確かにおいそれと身につくスキルではないかもしれません。
漫画において「絵」にはざっくり2種類あり、一つは人物などのメインキャラクター、もう一つはそれ以外(主に背景)です。
前者を磨くために漫画家はデッサンの鍛錬をし、後者をものにするためにアシスタントさんなどが背景クラスを受講したりします。

後者の方が、よりスキルの問題です。
私はアシスタント生活が長く、10年とは言いませんが、それに近いくらいやっていました。
先生方に恵まれ、嫌な思いをすることなく、スキルが上がるにつれギャラも上げて頂き、良い経験をさせて頂きました。
元々はあまり絵が得意でなく、効果線(集中線、かけあみ、点描、花など)専門でしたが、それでもだんだんに覚えて行き、最終的にはほとんどのものをそれなりに描けるようになりました。
どうしても描けなかったのは、ギターくらいですね(笑)
フラメンコ漫画を描くにあたってギターが描けないでは通用しないので、こちらは3D素材デザイナーの方に特注して、そちらを使っています。


背景一つとっても個性があると思います。
私はアシスタント2年やってプロデビューしたので、自分の原稿と並行してアシスタントをやっていました。
そのためやはりプロ目線になってしまい、モットーは
「速く。完成度より、速く仕上げることが正義。そして先生の絵に都合をつけてあげること」
でした。

最も優れたアシスタントさんは、十を言わなくても先生の絵に合わせて適正に仕上げてくれる人です。
先生もいつも完璧な絵を書けるとは限りません。
ある時、ロング気味の空間に数人のキャラクターが正座しているシーンで、それぞれ人物の角度が微妙にあっていなくて背景に苦労したことがありました。
こういう絵は、そもそも難しいのです。
通常のアシスタントさんだと、漫画家が人物画を書き直すか、一つ一つ背景を自分の絵に合わせて直してもらうよう、指示しないといけないでしょう。
優れたアシスタントさんは、先生の手間をかけさせず、自分で考えて最も問題を感じさせない境界を見つけ出し、なんとか都合をつけます。
今であれば、デジタルでもっと楽に修正できたでしょうが(^_^;)
私も自分の原稿を(プロとして)描いていたので、自分の頭で考えながら仕事をすることができました。
テクニック的には私よりずっと優れたアシスタントさんでも、自分で考えて描くのは大変難しいことです。
しかし、背景を描くために最も大切なのは、この「自分の頭で考えて、最適に処理する」能力ではないかと思います。

もちろん、少年誌、青年誌ではあたりまえの凝った背景の場合は描写自体のスキルがとても大切かもしれません。
私はあっさりした背景ですし、自分を追い込まないためあっさり描くよう努めてきました。
プロの漫画家として、原稿は締め切りまでに仕上げなくてはならないからです。
背景を描くこと自体が目的で、漫画家をやっているわけではありません。
長らくアシスタントを経験し、ほとんどなんでも描けるようになった私からして、

「背景にそんなに投資してはならない。背景は1円にもならない」

というのが正直な気持ちです。

漫画家は大変な経費を背景にかけています。
私も45pの原稿なら、アシスタント代に20万円近くを使っていたと思います。
123pなら50万くらい?
デジタルを導入し始めると少しずつ削減することができるようになったので、漫画家がデジタル化するのはむりからぬことなのです…

背景はお金を稼いでくれませんが、下手なものを書くと作品の評判を落としかねません。
そこで漫画家は大金を投じて背景のレベルをキープするわけですし、そのギャランティで食べていけるアシスタントさんも存在します。
しかし、先に書いたようにデジタル導入でかなりの背景を描かずに済むことも可能になってきました。
(ファンタジーなど存在しない背景を描かなければならない方はご愁傷様ですが(^_^;))

今、私は『Arriba! 2nd season』をほぼ一人で描いています。
一度だけ、3pほどアシスタントさんにお願いしましたが、その方にお任せした方が良い背景になるし、アドバイスも頂きたかったのでお願いしました。
それ以外はほとんど素材を使い、それで足りない部分は自分で描いて背景を埋めています。
素材も無料ばかりではないですが、360日コースで画像素材を購入し(7万くらい?)、都度都度個別の素材を購入して、アシスタントさんをお願いすることを思えば10分の1くらいの経費で済んでいるのではないでしょうか。

素材を扱うのに必要なのは、noteにも描いたことがありますが「設置の能力」です。

背景の正しい位置がわかる、これは確かにセンスか経験を要します。
アシスタントさんのほとんどは、これが身についておらず苦労します。
私もセンスはあまりないですが、プロの漫画家でもあったため、必要に迫られて身についたのかなと思います。
他人の原稿を言われて描いているだけでは、なかなかそこまで切羽詰まらないということでしょう。

人によっては、背景クラスへ通う方が効率よくスキルを身につけられると思います。
しかし、理論ばかり身につけて、実際の仕事場では
「遅い」
「言われないと間違いに気づかない」
「センスが悪い」
ということが頻発します。
漫画家は
「速い」
「言われなくても理解して適正に描く」
「思った以上に素敵に仕上がる」
ということを期待しています。
自分なら、できるからです。

この溝を埋める方法は人の数だけあると思います。
しかし、何事もそうですが
「塾(など)へ行けばすぐに解決する」
ことはありません。

絵が好きな人なら吸収も早いでしょう。
アシスタント仕事が好きな人も。
自分の原稿を描いている人は、取り入れるのが楽しくて成長するでしょう。
結局は、その人が学んだスキルをどのように飲み込み、使用するかにかかっています。
そして、やはり背景は漫画家にとってお金にならないということを理解しておくべきでしょう。
漫画家が心血を注ぐことは別にあります(稀に背景も作品価値の中の大きな要素であるという漫画家さんもいると思います)。

長々と書きましたが、漫画家であれば全体を俯瞰してみなければならないため、一部でしかない背景に大きな労力とお金を投じるのは割りに合わない、これが私の考えです。
アシスタントさんはそのスキルを売るため、上手な絵を描けるに越したことはありませんが、クラスを受けるにしても並行してプロの現場か自分の原稿を描き続け、理論を早く身につける努力をすること。
できるだけ投資を短期・少額で済ませるべきです。

率直に言えば、商業誌時代の私の仕事場に通った方が、背景クラスを受けるより速くセンス良く描けるようになります(笑)
テクニックは背景クラスの講師の先生の方が遥かに高いのですが、実際の現場で求められるスピードやセンスは、やはり現場でしか実感できないからです。

ここまで書いて思いましたが、そうは言っても現在はデジタル時代。
アシスタントさんも在宅仕事が圧倒的に増え、なかなか現場で先生や先輩から学ぶ、というのも難しくなってきましたね。
現場でお金をもらいながら勉強できた私は、時間がかかったようでかなり効率的だったのかもしれません。
だから背景クラスも存在価値が高まっている面はあるでしょう。
それでも、漫画家としてアシスタントさんが現場で必要とされていること、自分に必要なことはまたちょっと違う話なのでは?と思うことがしばしばあったので、自分の考えを書いてみました。

YouTube、SNSなど、現在はお金をかけず学ぶことも可能な時代。
必要な努力だけして、実力を身につけるのが最もスマートです。
効率よくいきましょう(^ ^)

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