映画『サバカン SABAKAN』の感想(ネタバレ有り)

 8月下旬頃にうちの長男坊(小学3年生)と一緒に見に行こうと約束してからなかなか時間が合わず見に行けなかった映画『サバカン SABAKAN』を、9月9日にようやく見に行くことができてそれで感想を語りたくて仕方がないのでここに書いていく。
 ただ自分は、映画を年間で1,2本くらいしか見ない人間なので、そういう人間が思いついたままに書いた勝手な感想となるけども。

 見てる間の感想としては、事前に思ってたのと違うなということだった。もっと少年二人の夏休みの冒険とそこで育まれる友情みたいなのを描いた映画なのかと思ったので、正直な話、途中ではちょっと映画選びを失敗したかなと思ったくらい拍子抜けした。まあ、息子と二人で行く予定が家族四人で見に行くことになって、ちょっとした週末の家族イベントになってしまってハードルが上がってしまったのと、映画の前半部分では原田君演じるタケちゃん(竹本健次)に対してちょっと勝手な子やなと全然共感できなかったことも大きい。
 けれど、タケちゃんが実は友達作りに臆病な子であることがわかって(本当は、初めの部分から自分の家を秘密にしていたりと気付かせるようなつくりにはなっていたのだけれど)からは彼にすごく共感できるようになり、クライマックスだけでなく見落としていたそれまでの部分も思い出して感動できた、いい映画だった。

 印象に残ったシーンとしては、クライマックスの部分である二人の別れとそこからの帰りのシーンは当然なのでそれは除くとして、ブーメラン島から帽子のお兄さん(金山)に軽トラに乗せてもらって帰ってくるのだけれどそのお帽子の兄さんが別れるときタケちゃんに「負けるなよ」と言って自分の帽子を被せてやるシーンと、タケちゃんがサバカン寿司をヒサちゃん(久田孝明)にふるまうシーンとが特に印象に残ったかな。

 自分がこの映画を見た時の感想の一つが、国語の教科書みたい、というものだった。基本的に言葉で直接的には説明しない、だけれどもそれを読み解くヒントとなるシーンはきちんと用意してあるという感じ。
 そのなかで帽子のお兄さん(金山)の言う「負けるなよ」がすごく直接的だったので印象に残っている。
 海で救ってくれたお姉さん(由香)は在日コリアンであることが示唆されていて、彼女が連れてきた金山もおそらく在日コリアンなのではないだろうか。70年代以前よりはいくらかましになってたけども80年代の在日コリアンに対する差別は今とは比べものにならないくらいひどく、就職や結婚の場面ではこそこそではなくあからさまに差別されるような時代だったと思う。由香も、なんか密漁まがいのことを日常的にしてるんじゃないかという感じで、由香と金山の二人も現在進行形で苦しい生活をしてるんじゃないだろうか。
 でも、その二人は、優しくかっこよく生きている。
 その金山が言う「負けるなよ」は重く、タケちゃんへというだけではなく見てる子供たちへのメッセージでもあるのかなと感じた。「苦しいことを言い訳にしてヤンキー三人組みたいなカッコ悪い人間になるなよ」

 草彅君演じる大人ヒサちゃんがなぜさばの缶詰を見るとタケちゃんを思い出すのか、というのは冒頭からのひっかかりだった。イルカでもなく、夏の海でもなく、自転車でもなく、ミカンでもなく、なぜサバカンなのか。
 ブーメラン島への冒険を経て一つ大人になり、二人の間に友情と呼べるようなものが芽生え始めたころ、タケちゃんがヒサちゃんを自宅に呼んでサバカン寿司をふるまう。タケちゃんは勇気がいっただろうなと。亡くなってしまったお父さんがよくつくってくれたというサバカン寿司を、はじめて家族以外の人に食べてもらい「めっちゃ旨い」と喜んでもらったタケちゃん。
 それで、お互いの夢、すし職人と物書き、を口にする。クライマックスでヒサちゃんがタケちゃんにサバカンを渡すが、あれはお互い夢を追い続けようというヒサちゃんのメッセージなんだろう。そして、その思いを持ち続けるかぎりたとえ何十年と会えてなくてもずっと友達なんだ、というのが映画製作者のから映画を見た子供たちへのメッセージなんだろう。

 他にも、まだがんばれるのにあきらめるなとか(言葉にするとすごく陳腐になってしまうね)、子供たちへの応援やメッセージがいっぱい入った、感動だけではない良い映画だった。
 子供たちと見に行けてよかった。

 


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