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も〜っと!発熱外来24時

今週も更新日の夜に記事を書いている。とにかく時間がない。

発熱外来の状況が一向に良くならない。先週の日記を書いた時点でも患者数や問い合わせの数が多くて相当しんどかったのだが、今週は輪をかけて状況が悪くなっている。

・PCRの結果が届かない

少なくとも先週までは濃厚接触者のPCRの結果は翌日には届いていた。今週に入ってから、検査から3日が経っても結果が到着しなくなった。

外来でも投与可能なラゲブリオという薬剤は糖尿病などの重症化リスクを抱えた人が投与対象となる。ただし、発症から5日以内に投与する必要があり、PCRの結果判明まで時間がかかると本来投与できたはずの薬剤が投与できない可能性が出てきてしまう。ラゲブリオはCOVID-19による重症化リスクを下げるとされているので、本来救えたはずの人がPCRの結果判明が遅いせいで救えなくなる。

・芋づる式に濃厚接触者が増加する

家族のうちの1人に陽性が出ると、同居する全ての人間に検査を行う必要がある。臨床症状のみで診断が可能とのお国からの通達が今週火曜日ごろにはあったが、これは自治体によって判断が異なるし、また、患者さん自身が検査を受けないと納得できないケースも相当数ある。インフルエンザですらそうだった。検査をして、陽性の二文字を見て初めて納得する患者さんはかなり多い。

臨床症状と接触歴から診断が可能となったことは医学的には正しいことなのだが、実臨床ではクリアすべき問題が多い。つまり結局は濃厚接触者全員の検査をやることになる。私が勤務する病院では、陽性と判明した患者の同居家族の検査はなるべく当院で行うことにしており、例えば父親が陽性になると自動的に母親と子供たちも当院での検査対象になる。

午前中に陽性者が出ると、午後はその家族の対応で手一杯になる。入院対応と並行して、午前中に陽性が判明した患者さんのご家族の検査を発熱外来や駐車場のテントでやることになる。その度に繰り返される病棟からの行き来、マスクやフェイスシールド、ガウンの着脱。必要なことだと分かっているが、本当に面倒だし息苦しいし、着脱を適当に済ませたくなる気持ちをなんとか押さえ付けて基本に忠実にやるように努めている。家にはワクチンをまだ打てない3歳児がいるし、発熱外来の担当医師が1人でも欠ければ勤務先の診療体制は崩壊する。感染したら全てがおしまいになってしまう。

・電話対応がとにかく多い

これは私が直接対応しているわけではないので看護師からの又聞きになるが、発熱外来受診を希望する患者さんからの問い合わせがとにかく多い。

発熱外来は無限に枠があるわけではなく、検査キットの数であるとか、外来ブースの清掃に必要な時間であるとか、様々な制約の下で行っている。午前11時くらいの時点でその日に受付可能な上限を迎えてしまい、あとはひたすら受診をお断りするフェーズに入る。

受診をお断りすると、”じゃあどうすれば良いんですか?”と訊かれることも多いらしい。確かに、どうすれば良いんだろうか…。他の病院を勧めるしかない。しかし、大抵近隣の病院でも同じことが起きており、そもそも電話が繋がりにくい上にどの病院からも断られまくっている患者さんの苛立ちは凄まじく、理不尽な罵倒を受けることもある。体調が悪いのにどの病院も受け入れてくれない不安感は相当なものだろうが、どうすることもできない訴えを電話口で傾聴し、時には慰めねばならない現場のストレスもどんどん嵩んでいく。

・発熱外来における不平等

お気づきの方もいるだろうが、上記につらつらと書いてきた発熱外来の対応は全く平等ではない。その日の発熱外来の枠が埋まれば以後の問い合わせは全て断っているが、午前中に陽性が出た患者の家族は午後に無理にでも診察したりしているわけで、問い合わせをした側がその事実を知れば、随分不平等に感じるだろうなと思う。

発熱外来をやっていると患者の要望を飲むべきなのか、病院が独自に決めたルールに従うべきなのか迷うことがある。例えば、予約もせず、直接来院してしまった発熱患者にどう対応すべきなのか。初診の軽症者であればきっぱりお断りできても、かかりつけで重症リスクを抱えた患者を無碍に断るわけにも行かない。半ば無理矢理に枠を開けたり、駐車場の車の中で待機してもらって検査をすることもある。でも、本来であれば発熱外来には予約が必要というのが病院の決めたルールだし、診療についてくれる看護師さんだって絶対に良い顔はしない。

こういう時、病院のルールはあれど、結局どうするかを決めるのはその場にいる医者だ。つまり、不肖私が決めねばならない。どんな選択をしても絶対に誰かからは不満が出る状況で、この1週間、板挟みになってウンウン悩むことが本当に増えた。断った無数の電話。予約もなしに直接来院し、発熱外来を受診できなかった無数の患者さんたち。正直、恨まれているだろうなと思う。夜間救急外来をバリバリやっていた時期ですら、こんなに短時間で大量の要請を断る経験はなかった。そもそも発熱外来なんて担当しなければ、こんなに迷ったりわざわざ恨まれたりすることはなかったのにとすら思う。特に帰宅した後の夜なんかは。

でも、やるしかないのである。身についた習性の悲しさで、朝出勤して白衣を着ると、ヨシやるぞ!と根拠のない闘志が湧いてきてしまう。決断をすることは何かを選んで他を切り捨てることだなとつくづく思う。人助けと言えば聞こえは良いが、コロナ禍の発熱外来にはそういう一面もある。

Big Love…