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すずめの戸締まり感想

『すずめの戸締まり』が…マジで良かった…という日記を書きます。ネタバレ全開で行くぞ。こんばんは、火曜日の更新です。

すずめの戸締まりを観に行くにあたって、予習として前日の月曜日に『君の名は。』と『天気の子』を一気に観ました。両方大ヒットしたのに観ていなくて…。

どちらも悪くはなかったのですが、あまりピンとは来なかった。ただ、二つの作品を観て感じたのは、新海誠監督はありのままの現実をニヒルに描き出すというよりは、"現実が、こうだったらいいなあ!"というピュアな願いを映画にするひとなんだなということでした。

『君の名は。』も『天気の子』も、思春期の男女がお互いを思い合う気持ちが物語の核を担っており、世界はそのためだけに存在している。だからある意味ご都合主義と感じられる展開も多く、新海誠作品がピンと来ない人はそのあたりが引っ掛かるんじゃないかな?と思いました。
2作品とも"お互いを想い合う気持ち"の成就が最重要課題で、そこに世界の救済がついてくるのが『君の名は。』で、災厄を背負って生きていくことを選ぶのが『天気の子』でした。

今回の『すずめの戸締まり』は災厄が起きた後の世界を描いています(入場特典で貰えるパンフレットには、”災いが日常に貼り付いた終末後の世界”という記述があります)。モチーフは3.11だったけれど、新型コロナが流行し、戦争が以前よりもずっと身近に感じられるようになった2022年の今、日常生活の至るところに災厄の種が潜み、それが容易に噴き出すという世界観に違和感はなく、すぐにスクリーンの中の世界に没入することができました。

そしてまた、噴き出す災厄を戸締まりで封じ込めている人がいるという設定が新海誠らしくて良かった。2作品しか観ていないのに何を…と思われそうだけど、新海誠はピュアな理想を描く監督です。美しい青年と少女が災厄から私たちの生活を守ってくれているとしたら、そりゃあ、いいなあ…と思うじゃないですか。そういうピュアな気持ちを映画にしてしまうところは前作2作と同じで、この人は本当に理想を描く人なんだなと思いました。

少しだけ、予習段階で抱いた新海誠作品に対する不満の話をします。
『君の名は。』でも『天気の子』でも私が不満に感じたのは、"子どもを産んだ女、死にすぎじゃない⁈"ということで、実際今回も主人公の母親は既に死去しており、"またか…"感は否めませんでした。
でも、それはある意味仕方のないことで、ボーイミーツガールに一番不要なものって親の存在です。腹を痛めて子どもを産んで、口うるさく小言を言ってくる母親は新海誠の理想の世界にとってはどう考えても邪魔者でしかない。

それは仕方がない、仕方がないんだけど新海誠が母親を描くならどう描くのかなというのが前作2作を観て抱いた私の期待のひとつで、『すずめの戸締まり』はそれに対して答えを出してくれたように思います。

主人公の育ての親である環が感情を吐露するシーン、良かったなあ…。子どもがいなければもっと自由なのに…と思ったことのない親なんていないと思うんですが、どんな親にも少なからずある子どもに対する負の感情をちゃんと描いてくれていました。

実際環はかなりキツいことをすずめに言っていて、その後すぐに"上位存在に操られてたんだよ〜、だからあんなに酷いことを言っちゃったんだよ〜"というエクスキューズがあり、観客を安心させてくれるという仕組みにはなっています。

でも、そこで終わらせなかったのが凄かった…。酷いこと言ってごめん、さっきのはウソだよ、でおしまいにしたらがっかりしただろうと思う。だってあれは、どの親の中にもあるはずの本当の気持ちだから。環は実の娘のように愛しているすずめに対してネガティブな感情を抱いていることを認めた上で、"でも、それだけじゃないよ"って言うんですよね…。

上映中、一番泣いたのはこのシーンだった。すずめに対するネガティブな感情を本物だと認めつつ、"でもそれだけじゃない"って言わせたのは、私としては理想の親の描き方に近かったです。親という存在は愛だけで成立してるわけじゃないし、いわゆる毒親的な要素はどの親の中にもある。愛か毒かどちらかだけの描き方をすると、親は単なる物語の中の装置になってしまう。それは人間の描き方じゃない。

今まで新海誠が描いてきた歳上の女って、都合の良い女だな〜と思うことが多かった。とはいえ私だって都合の良い男ばかりが出てくるコンテンツを全力でエンジョイしているので批判するつもりは全くない。でも、『君の名は。』も『天気の子』も、私のほうを見てくれない作品だなあ…とは正直、思った。ノットフォーミー。ピュアな理想の描き方は好きだけれど、新海誠は私のほうは見ないんだろうなと…。

でも、『すずめの戸締まり』で初めて新海誠と目が合った感じがしたのは、やっぱり環の存在が大きかった気がします。優れた語り手とスクリーン越しに目が合うこと以上の幸福ってなかなかない。ありがとう、新海誠…。

ボーイミーツガールに強く焦点を絞り、世界は2人のために存在しているというのが大前提の『君の名は。』と『天気の子』を前日に観たばかりだったから、同じ監督からこんな作品が出てきたことに本当に感激してしまった。そう、世界には恋以外の奇跡も溢れている!ボーイミーツガールを捨てずにそれを描き切ったことに凄みを感じました。天才だあ…。

映像と音楽で圧倒してくる手法は以前の作品と変わらずで、デカいスクリーンと良い音響設備のある映画館で観る価値のある作品でした。本当におすすめです。新海誠作品にあまり良い感情を抱いていない人も、すずめの戸締まりは観て欲しいな。


…おそらく最も多くのオタクを狂わせた男、芹澤朋也の話を少しだけして良いでしょうか。オタク特有の早口、失礼します。

ヤバい男が出てくるとは聞いていたが、とんでもない柄のシャツ(黒地に赤い薔薇って正気か?)とピアスに丸眼鏡で登場した時点でげぇっ!と仰け反り、教員志望、面倒見がめちゃくちゃ良い、懐メロ好き、と要素にヒットされ続け、2万円の嘘で完全にノックアウトされた。それは狡いよ…。エンドロールで声が神木隆之介だと知ったときには、ニッコリしてしまったね。新海誠、本当に神木隆之介が大好きなんだな…。


最後にこの映画を観た時の座席の話を。TOHOのラグジュアリーシートに初めて座ったんですが、最高の映画体験だった。通常の鑑賞料金に上乗せされる金額は+3000円。これだけで映画が何回観られると思ってるんだ…と躊躇したが、滅多に映画館を訪れない(多くても月に1回程度)ので、えいやっ!!と予約してしまった。

ふかふかのリクライニングシートを楽しみに入場したのだが、良かったのは映画への没入感だった。目の前に腿くらいの高さの遮蔽物があり、自分より前に座っている観客のシートが全く目に入らないように設計されている。座ると目に入るのは完全にスクリーンのみ。荷物置きや小さな机もあるので、膝の上にバッグやパンフレットを乗せることもなく、映画に集中できる。高かったけれど、料金を上乗せする価値がある体験でした。かなりおすすめです。

Big Love…