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幼児と行く、10日間自宅隔離の旅 後編

療養期間から既に1ヶ月以上が経過しており、記憶が曖昧になりつつある。10日間の自宅隔離は娘が生まれてから一番しんどいのではというくらいハードだったのだが、喉元過ぎれば熱さを忘れるようで、記憶が生々しいうちにnoteを書いておくべきだったなと後悔している。あまりにしんどすぎたので、療養期間中に書くとただの愚痴になりそうで、記述を控えていたのだ。

それでもまあ、書く。前編と名付けた以上、後編を書かざるを得ないからだ。

10日間の自宅隔離が決まった瞬間から私の戦いは始まった。
普段週末の2日間だけでも3歳児と2人で過ごすとぐったりしてしまうのに、10日間…?しかも家の外に一歩も出られない…?正直大変とかそういう言葉を超えて、どうなってしまうのか想像もつかなかった。

とりあえず、食料を確保する必要があった。こんなことになるとは思ってもいなかったから、冷蔵庫や納戸にはいつも通りの量のストックしか食べ物がなく、長い自宅隔離期間に備えて買い物に行く必要があった。しかし、陽性になってしまった私はもちろん、濃厚接触者である夫も家の外に出ることはできず、完全に詰んでいた。
地震などの有事に備えてレトルト食品はいくらか買ってあったが、数日しか持たない上に味があまり期待できない。3歳児が喜びそうな食料は家にひとつもなく、これはまずいな…と思い、近隣に住む友人に連絡して買い物をお願いした。

買い物を頼めるくらいの関係の人間がいることはすごくラッキーだった。私と夫だけならレトルト食品とUberEatsで10日間を過ごしても良いのだが、3歳児がいると流石にそうもいかない。野菜や肉に加えて幼児の好きな惣菜パンを大量に買ってきてもらい、玄関先に置いてもらってことなきを得た。


私は神経質な人間なので、育児に関してうまく手を抜くということができない。
なるべくテレビは見せないし、アプリは問題外、1日に1回は必ず1時間以上の外遊びをするという決まりを課して今まで過ごしてきた。しかし、10日間の自宅隔離が決まった瞬間に、それらは全てどこかに吹っ飛んだ。なるべく3歳児が快適に過ごすことを第一の目標とし、第二の目標が私が3歳児にイラつかずに済むためにはなんでもする、ということだった。

なんでも、というのは文字通りのことだ。観たがればテレビ番組は無制限に観せ、無数のアプリをダウンロードし、Amazonを駆使して3歳児が喜びそうなおもちゃや学習ドリルを買い続け、なんとか10日間を乗り切った。

このnoteを書いている時点で療養期間から1ヶ月以上が経過しているのだが、不思議なことにあれほど恐れていた3歳児と2人きりで過ごす週末があまり怖くなくなっている。私は元来神経質な人間ではあるのだが、一度糸がふつりと切れると神経質さが途端に失われる性質があり、10日間の隔離生活で身についた”適当でもいいや”の精神がその後も続いている。

以前は1日でも3歳児を外に出さない日があると、”私はダメな親だ…私が外に出たくないばかりに、娘を今日も家で一日を過ごしてしまった…”と後悔していた。しかし、10日間も強制的に自宅に隔離されていると、案外娘も家の中の生活を楽しんでくれることが判明し、かなり気が楽になった。別に週末2日くらい、外に一歩も出なくても死んだりはしない。私自身が外出があまり好きではない性質であるが故になんとなく、1日に1回くらい外に出るべきだという意識があったのだが、別に1日中家にいても良いのだと思えたことは大きな収穫だった。

幼児と過ごす10日間自宅隔離生活は本当に長かった。1日が終わるたびに、Amazonで箱買いしたストロングゼロを飲みながら(※療養期間中の飲酒はなるべく控えましょう)、あと●日…と残された日を指折り数えた。自宅にずっと隔離されていると、目にする景色が全く変わらない。生活の中に存在していた一切の意外性が排除され、全ては想定内の範疇に押し込められて、相当窮屈だった。

隔離が終わって再び仕事場に出た時、働くのって楽しい…!と改めて思った。10日間、夫と3歳児の顔しか見ていなかったので、それ以外の人間に会えることがしみじみ嬉しかった。今まで診療が難しいという印象しか抱いていなかった新型コロナウイルスの後遺症についても、自分の身で体験したことで、より親身になって診療にあたれるようになった気がする。

療養期間の後半くらいから食欲が落ちてしまい、匂いがわからなかったり倦怠感が強かったりするせいかなと思っていた。ウイダーインゼリーを買ってきてもらっていたので、一時期はそればかり飲んでいた。しかし、療養期間が明け、家の外に出た瞬間に嘘のように食欲が元に戻ったので、どうやら家に閉じ込められて子どもの相手ばかりしていたせいで食欲がなくなっただけだったらしい。療養期間中に気がおかしくならないためにも、家の中でできる楽しみがあった方が良いと思う。私は療養期間の最後の方はNetflixで映画を映画を観たりしていた。『パラサイト 半地下の家族』、めちゃくちゃ面白かったな…。かなり良い気晴らしになった。

10日間の療養期間を終えて思うのは、3歳の娘が重症化しなくて本当に良かったということだ。娘はワクチンを打たずに罹患してしまったので、重症化や後遺症の残るリスクが高く、特に熱が高かった数日は気が気ではなかった。普段は勘弁してくれと思うくらい元気いっぱいなタイプの娘が、相当熱がしんどかったのか”もう寝る…”と小さな声で訴えてきた時は寝かしつけながらちょっと泣いた。1秒でも長く起きていたがる子なのに、本当にしんどかったんだと思う。

10日間も幼稚園に通っていなかったので、通園を再開したら嫌がって泣くかな…?と密かに心配していたのだが、10日ぶりに外に出られた娘は喜びを爆発させ、”いってきまーす!”と大声で叫んで走って行ったので完全に杞憂だった。
療養期間中、たまに”お外出たい…”と口にしていたものの、風邪を引いているからダメなんだよと諭すと黙って頷いてくれたこと、私が自宅で仕事をしていると仕事部屋にレゴブロックやらプラレールやらを持ってきて遊んでいたこと、3歳児なりに状況を理解して10日間を過ごしてくれたことに本当に感謝している。ありがとう。いつか大きくなったら10日間のことを話そう。その頃には新型コロナウイルスの流行が終息していますように。

Big Love…