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不条理絵本6選

こんばんは。木曜日の更新です。
皆さんは絵本を選ぶとき、どんな基準で選んでいますか?

絵が綺麗だからとか自分が幼少期に読んだからとか子どもが好きなキャラクターが出ているからとか、いろいろな理由があると思うのですが…

私はとにかく不条理で意味の分からない絵本が好きです。最初から最後まで通しで読んでも何が言いたいのか全く分からない、そういう絵本だけ読んでいたい。

しかし、不条理絵本はそう多くはないのが現実です。本屋に行くと大体は子どもの正常な発育を促すような、教育的な絵本が大量に平積みされている。
私はそういう絵本を掻い潜って不条理絵本を探すのが好きなので、ここで何冊か紹介します。不条理絵本好きの皆さんは参考にしてください。

①『変なお茶会』 佐々木マキ作

幼少期好きだった絵本代表、変なお茶会。村上春樹の『羊男のクリスマス』などの挿画で有名な佐々木マキ作です。

”ドレスデンから シノッブから キャンベラから コイリンから 山を乗り越し 海をわたって 年に一度のこの日のために”

年に一度の素敵なパーティーに招かれたゲストたちが珍道中を経て一同に会す、それだけのストーリーなんですが文章のリズムと絵が良くて何度でも読みたい。上の引用の部分を読むとき、毎回歌うように弾みを付けて読んでしまう。絵本なのに難しい言葉が多用されており、私はこの絵本で公証人という言葉を知りました。

クライマックスで岩山から天然のココアが湧くのですが、見せどころのはずの美味さの描写がさらりとしていてそれもまた良い。重要な情報が読み手の想像力に委ねられている絵本が私は好きなのかもしれない。

②『じごくのそうべえ』 たじまゆきひこ作

これは不条理とは違うかもしれない。筋はしっかりしている絵本です。
上方落語の「地獄八景亡者戯」を題材に、関西弁を駆使して書かれた本で、これもとにかく読んでいて気持ちが良いので紹介したくなってしまった。

”ここ、どこやろか。死んでしもたんや。えらいことに、なってしもたわ。この道、どこへいくんやろか。
手にはおがらのつえを持ち 糸よりほそい声をあげ おおおおい”

このあたりは読んでいて本当に気持ちがいい。3歳児相手に”死んでしもたんや…”と情感たっぷりに言うのは読み聞かせでしかできない芸当です。

そして何より、後半は幼児の好きなうんこだの便所だのという(下品な)単語が何度も出てくる。3歳児は鬼が怖いくせに、この本は何度も読んで欲しがるので恐怖と笑いは面白さの肝なんだなあと思います。

③『カニ ツンツン』 金関寿夫・文 元永定正・絵

意味の分からなさで優勝が狙える絵本。
徹頭徹尾全く意味が通っておらず、言葉の響きと挿画の可愛さだけで勝負を挑んでくるかなりピーキーな絵本で、私は大好きです。

”カニ ツンツン ビイ ツンツン
ツンツン ツンツン
カニ チャララ ビイ チャララ
チャララ チャララ”

これが1ページ目なんですが、全ページに似たような文言が書いてある。全く意味は分からないのに、響きの愉快さで読ませる。表紙にも描いてあるカニのデザインが可愛い。カニの横に小さな文字でツンツンと書いてあったりして、なんともいえない愛嬌があります。

読み聞かせは主に私の仕事なんですが、たまに夫が3歳児にせがまれて読み聞かせをすることがあり、『カニツンツン』を読まされて悲鳴をあげていた。言葉を舌の上で転がして楽しめる人向けの絵本です。

④『ねずみの おいしゃさま』 中川正文・作 山脇百合子・絵

言わずと知れた『ぐりとぐら』の山脇百合子の絵本。
ねずみのお医者さんが夜中に呼び出しを受け、雪の中スクーターを走らせて患者の家に向かうが…という筋立てで、教訓めいた要素が全くないのが好印象で何度も読み聞かせをしている。

”のんきな おいしゃさまですね。
そとでは たくさんの ひとが、ねないで しごとを しているというのに”

という一文が(私に)刺さる絵本。

患者の家に到着するのが遅すぎて既に患者は全快していたり、雪の中でスクーターを走らせたせいでお医者さん自身が熱を出して寝込んだりというどうしようもなさと一切の教訓のなさが良い。
それにしてもねずみのお医者さんが夜間オンコールをしている世界、あまりにシビアすぎる。

⑤『バスがきた』 五味太郎・作

五味太郎の作品は幼少期から大好きで、これも何度も読み返した絵本です。

”バスが きた お墓まいりのひとが おりた”

幼児向けの絵本で、なんの説明もなしにお墓という単語が出てくるところが五味太郎の良いところだと思う。死が悲しいとか怖いじゃなく、当たり前のようにそこにある。

幼少期は五味太郎の絵本ばかり読んでいた。説教くさくなくて、次に何が起きるか分からなくて一番ワクワクするから。

https://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/12-91/

”五味太郎”で検索したらこんなインタビューが出てきた。

どこでだれと話してても、相手によって態度が変わらない人がおれの好みだし、おれ自身、そういうことを絵本でやってる。おれはこういうのが好きなんだってこと以外、言ってないし、言っちゃいけないと思ってるわけ。子どもたちに夢を……とか、子どもたちの将来を……なんてこと、考えてないよ。ただ好きだから、絵本やってるだけ。だからおれ、子どもたちには信用されてるんだ。五味さんは裏切らないって。

この一節を読んでかなり胸が熱くなった。子どもをさらりと一人前扱いしてくれる人だ。特に気負いもなく、淡々と当たり前のように子どもを1人の人間として扱える人はとても少ない。
こういう人に幼少期から私は絵本を通して見守られてきたんだなと思うと、その愛情の深さに涙が出た。五味太郎さん、絵本を書いてくださってありがとうございます。既に400冊以上の絵本を出しているらしく、本当に書くのが楽しくて仕方がないんだろうなと思う。

この本も大好きだったな。右のページにことわざ、左のページに現存のことわざに基づいて五味太郎が勝手に作った創作ことわざが載っている。言葉で遊ぶことを覚えたのはこの本がきっかけかもしれない。

⑥三びきのやぎのがらがらどん

超有名絵本。これがどうして推薦図書みたいな顔をして図書館や本屋に置かれているのか全く分からない。圧倒的な暴力で全てを解決する筋立て、一番でかいヤギが出てくる前の展開の不要さ、木っ端微塵にされて殺されるトロルの哀れさなど、一切の教訓がない絵本。

”さあこい!こっちにゃ 二本のやりが ある。
これで めだまは でんがくざし。”

でんがくざしなんて単語、がらがらどんでしか目にしたことがないよ。

不条理はこれくらいにして、最後に私が好きな絵本の話をする。

ろくでなしの飼い猫ラルフが家主のお父さんを怒らせてしまい、家から叩き出されるというなかなかシビアな展開の絵本。家から叩き出されたラルフは仕方なくサーカスで下働きをするんだけれど、労基が存在しないタイプのサーカスだったのでゴミを投げつけられたり虐められたりしてラルフは病気になってしまう。

酷い!と思うかもしれないが、ラルフの”あくたれ”ぶりも相当なもので、今までよく捨てられなかったな…と思うほど。物は壊す、飼い主のセイラちゃんに嫌がらせをする、お母さんが飼っている鳥を追い回していじめるなどなど…。

でも、セイラちゃんはそんなラルフが大好きで、お父さんを怒らせて追い出されてしまったラルフを遠い遠いゴミ捨て場(ラルフはサーカスの仕事に耐えかねてゴミ捨て場で寝泊まりしていた)まで迎えにきてくれる。

”セイラが さがしにきたとき、ラルフは ごみの ばけつのうえに すわっていました。
「まあ ラルフ、私 いまでも あんたが だいすきなのよ!」とセイラはいいました。”

ラルフが改心したかどうかは全く関係なく、あくたれのままで、しかもゴミ捨て場でくさくて汚くなったラルフでもセイラちゃんは大好きだった。
子どもって色々な悪いことをして親とか周りの人間に叱られると思うんですが、それでも愛されたくて仕方のない生き物で、”そのままでも許されるし愛されるんだよ、あなたは”というメッセージが強烈なこの絵本が私は大好きでした。

そういう意味ではこれもかなり良い。『うそつきの天才』は小学生向けかな。これも深い赦しが書かれた本です。

いい子になりましょう!というこの世のルールは、子どもだってよくわかってる。でも本当は大人だって、好き放題やってありのままで愛されたいじゃないですか。本の中でくらいは夢を見させてほしい。私は教訓がなく、読み手を信頼してくれるタイプの絵本が好きな子どもでした。そしていまだに、そういう本の選び方は変わっていないように思います。

Big Love…