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ただの虚構に魅せられて

毎週言っている気がするが、週に3回も書くことがあるわけがない。
本当に今週何もないな。仕方がないので夏休みの話をします。

先日、炎天下のディズニーに行ってきました。多分前回の訪問から3ヶ月も経っていない気がする、こんな短期間で複数回ディズニーに行ったのは初めてです。

身長が100cmに満たない子どもと一緒に遊びに行ったので、センターオブジアースとか大きめのコースター類には一切乗れず、前回来訪時に子どもも乗れるタイプのめぼしいアトラクション(タートル・トークなど)は大体乗ってしまったので、今回は主にショーを観ました。

かつて恋人とディズニーに遊びに行っていた頃は、とにかく大きめのコースターに全部乗りたいと思っていたし、そもそもショーがいつ頃どこで開催されているのかもよく分かっていなかった。ショーの最中はみんなそっちに行くから、アトラクションから人が減ってラッキーだなあくらいの感覚。

もっと小さい頃は、ショー自体に欺瞞を感じて嫌だった。これは完全に私が嫌な子どもだというだけの話なんですが、とにかく観る者全員を巻き込んでハッピーになろう!みたいな姿勢が苦手で…キャストの笑顔が明るすぎて怖い、音楽に合わせて身体を動かさないと浮きそうで嫌だ、そういう自意識の強い、嫌な子どもでした。

今回観たのはランドのクラブマウスビートで、ミッキーとその仲間たちが音楽に合わせてダンスを繰り広げるショーだった。34歳になった今でも自意識が強く根暗な人間なので、明るい音楽と楽しい雰囲気に一瞬気圧されたのだが、推し(ミッキー)の登場に3歳児が大喜びしていたので連れてきて良かった…と思った。
近くの席に座っていた男の子がライトニング・マックィーンが描かれた旗を持参しており、一体何に使うんだろう…?と思っていたのだが、ショーの途中で突然ライトニング・マックィーンがステージ上に登場したので驚いた。

ダンスと歌のショーの最中にステージに突然デカい車が入ってきたら誰だってびっくりするんじゃないだろうか。ライトニング・マックィーンが登場した途端、男の子は大喜びで何度も旗を振っていた。推しの登場に喜ぶオタクだ!と思った。そうか、そういう楽しみ方もあるのか…。

今までディズニーはアトラクションを楽しむための場所で、朝から晩まで駆けずり回って一つでも多くのアトラクションに乗ることが一番の目標だった。しかし、キャラグリにせよショーにせよ、よくよくパーク内を見てみると、好きなキャラクターに会うためにディズニーを訪れているファンは結構いるみたいだ。特にシーは雰囲気が良いから、フォトスポットで写真を撮ったり、ただ園内を歩くだけでも楽しめるようになっている。

今回は泊まりがけで遊びにきたので、閉園後のパーク内の様子が見れるホテルに泊まった。信じられないくらい暑い炎天下を幼児と丸一日歩いていたので死ぬほど疲れていた。21時にパークが閉まり、その後もしばらくは園内には陽気な音楽が流れていた。窓を薄く開けて生ぬるい風を浴びながらビールを飲んだ。翌日も予定があったので早く寝ないとなあと思いつつ、メディテレーニアンハーバーを眺めていると、真っ暗闇の中に昼間にはなかった大きな木のようなものが見えた。

あまりに大きいので、幻覚か…?と目を凝らした。でも、確かに港の水の上にデカい木のようなものがある。日中もあったのに私が忘れているだけか?と思いつつビールを飲んでいると、突然ショーのリハーサルが始まった。

パーク内の様子が見えるホテルに泊まっていると、運が良ければリハーサルを見ることができると聞いたことはあったが、まさか自分が泊まっているときにリハが始まるとは思っていなかったのでかなりびっくりした。
ここから先は秋から始まるショーの若干のネタバレになるのかもしれないので(公式サイトに載っている程度の記述しかありませんが)そういうのが嫌な人はここで引き返してください。

建物を利用したプロジェクションマッピングと人工の港であるメディテレーニアンハーバーの水上で繰り広げられるショーを組み合わせたプログラムで、真夜中だったので音楽こそないものの、かなり迫力があって感動した。リハーサルではあったが、プロジェクションマッピングは色鮮やかで物語性に溢れ、水上のショーはリハーサルでこんなに派手に演じて良いのかと思うほど豪華だった。一晩のリハーサルでとんでもない金額が動いている…という印象だった。観客もいないのに、とんでもなく贅沢な話だ。

終盤になると何度も花火が上がった。大きな音とともに閃光が弾け、ほんの一瞬、港の全貌が真昼のように明らかになった。港にはリハーサルを見守るスタッフの姿が見えた。港でショーを見守るスタッフは派手なショーを眺めながらも冷静な様子で微動だにせず、水上で繰り広げられる一夜の豪華な夢とはあまりに対照的だった。

新型コロナウイルスの流行や戦争、元首相の殺害など、ここ数年どんどんこの世界が悪い方向に向かっているように思われて、実際そう思うだけで平穏な日常を過ごしているわけだからこんなのは甘ったれた感傷にすぎないんだろうが、それでもやはり暗い気持ちにはなる。3歳の娘を育てているが、彼女が生まれてこの方あまり明るいニュースはない。とんでもない時代に子どもを産んでしまったのかもしれないと思うことも多い。

そんな中で一夜の夢のようなショーを偶然目撃して、その壮大さになぜか涙が出た。派手な演出も鮮やかな色彩も、実際何の役にも立ちはしない。新型コロナウイルスの影響でエンターテイメントは足止めを喰らった。戦争が起きた時、エンタメはどれほどの役に立つだろう。

それでも、本当は無力かもしれなくても、エンタメという虚構の成立に夜を徹して全力で取り組む人がいるという事実に、私はあの夜胸を打たれた。幼い日の私が感じたように、ディズニーにあるのはただただ虚構である。しかし、煌びやかなショーや愛らしいキャラクター、まるでこの世は誰もが手を取り合って平和に生きていけるとでも言いたげな理想郷を成立させるために、ひとりひとりの人間が、地道にただ努力しているのだという事実が私の胸を打った。
あの人工の港が花火で照らされた一瞬、リハーサルを見つめるスタッフの真剣な表情を思い出す。秋から始まるショーを、私はきっと観に行ってしまう。

Big Love…