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天敵彼女 (34)

「それで、佐伯って奴が、早坂の事いきなりちびっ子って呼んだんですよ。俺、ショック受けて、とにかくこいつを引き離さなきゃって強引に連れて行
ったんです」

「そう。なかなか面白い子ね」

「いやいやいや、あいつは洒落にならないんですよ。他人との距離感が狂ってて、いつだってズカズカ他人の心に土足で踏み込んでくるような奴なんで
す」

「そう……でも、峻君は困ってるの?」

「えっ?」

「何だか楽しそうよ」

「そう……なんですかね?」

「不服そうね」

「さすがにあいつの行動は楽しめないですよ。やることが一々ムカつくんで
す。どうやったらあんなに他人の神経逆撫で出来るのか、人格疑っちゃうく
らいですよ」

「そうなの? でも、何だかんだ言って峻君はその子と一緒にいるんでしょ
う?」

「えっ? ま、まぁ、たまに役に立つことがありますから……」

「そう。峻君は、他人との間に壁を作る所があるから、そういう空気を読ま
ない子が近くにいると、却って賑やかでいいかもしれないわね。人生、それ
なりの刺激は必要よ。単調な生活ってその内飽きてしまうから」

「そうなんですかねぇ……あいつの場合、刺激というより粘着……いや、むし
ろ胸糞って感じだと思うんです。俺、早坂の件で一瞬心臓が止まるかと思っ
ちゃいましたから。さすがに、二度と言うなって佐伯に結構きつめにいっちゃいましたよ。一応、もう言わないって約束させましたけど」

「そうなの? 確かに、女の子の見た目を弄るのは良くないかもしれないけど、そんなに心配する事はないんじゃないかしら?」

「どうして……なんですか?」

「女子校ってね、結構えげつない所があるから、他人の言葉に一々傷付いていたら、とてもやっていけないのよ。都陽ちゃんなら大丈夫。あの子、ああ見えて結構しっかりしてるから」

「そうですかねぇ?」

「そうよ。だって、奏って前の高校で人気あったのよ。都陽ちゃん、奏と一緒にいるだけで結構風当たり強かったはずだし、それでもへこたれなかったから、今も奏の友達でいてくれているんだしね」

「そんなもんなんですか?」

「そうよ。だから、心配しないで。あの子達は大丈夫だから」

「そうですか。何だかホッとしました。まぁ、佐伯には感謝してる部分もあるんです。母親が怖くてやってるだけかもしれませんが、早坂と一緒に帰ってくれたみたいなんで」

「そう。良かったわね」

「ええ、俺は早坂の事まで手が回らないんで、性格は歪んでますが、あいつの行動自体は……その、助かってます」

「そっかぁ、そうなんだね」

「ええ、まあムカつく事に変わりはないんですけどね」

「ハハハ、今日は、色々話が聞けて良かったわ。また、奏の学校での様子とか教えてね。ごちそうさま」

「あっ、八……おばさん。俺がやっときますからいいですよ」

「ありがとう。お願いね……あと、縁さんでいいわよ。もうたまに会う感じじゃないんだし、いつまでも八木崎のおばさんじゃ言いにくいでしょ?」

「あっ……分かりました。縁さんですね。了解です」

「お願いね。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

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