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好きだったアイドル

 僕が好きだったアイドルは、純白で周りに羽根が舞っているようにたおやかで優しかったのだ。優しい歌声に反して愛想はなくいつも伏し目で控えめで、それがなんとも言えない儚さを演出していた。ダンスもそうだ。バレエをやっていたのだろうか、ゆったりとしたダンスは体幹がしっかりしていないとできないと思う。ふらつくことはなく、天命を告げる天使のように神々しい。
 そんな凪●様は弱小アイドル高校の、地下アイドル以下のアイドルグループに属していた。ジャ●ーズJr.にハマるオタクではないが、僕はまだ全国的知名度すら低いお遊びのようなアイドルグループで一点輝く彼に魅了されていたのだ。
 f●ne(凪●様が所属していたアイドルグループの名前だ)の握手会のときにカタコトの日本語で(凪●様は日本人っぽいが海外かどこかで育ったらしい?ので日本語が上手く喋れない、とファンの噂で耳にした)「オ、応援、してくれて、ありがとう……ございました。ます」と言ってくれるのが幼子のように可愛くて、図体は僕よりもでかいけれど、そこが好きだった。吃音って馬鹿にされるけど、凪●様レベルになると吃音すらも魅力になるのだなと思った。感情が乏しくて浮世離れしている、彼のことが好きだった。
 だから、いきなりf●neが解散したときは驚いた。f●neはどうやら期間限定グループだったらしい。そんなの聞かされてないし、凪●様が歌って踊る姿をもう見れないと思ったらとても悔しかった。でも、形あるものはいつか無くなる。諸行無常からは誰も逃れられないから。
 今消えるのが一番美しく、凪●様が僕の中で伝説になれるタイミングだと思って諦めた。真っ白な衣装に包まれて、癖毛を青いリボンで一つ括りにして、少年と青年の過渡期にある彼のことが好きだったのだ。



 一年後、凪●様は再びアイドルを始めていた。f●neに属していた面々は一人を除いて見えなかった(彼は凪●様といっそう仲が良かったメンバーだ)。凪●様が新たに属したアイドルグループは少々特殊な形をしていて、詳細は割愛するが、主に二人組の、タッ●ーand●のごとく体制で活動している。隣に立つ赤髪の長髪メガネ。誰?
 コイツが僕の好きだった凪●様を全てぶっ壊した。本当にセンスがないと思う。まず、凪●様に黒を着せる時点でセンスない。凪●様のゆるやかな一つ括りは、今やオールバックにして高いところでポニーテールにされている。凪●様の良さを壊しすぎではないか。
 極めつけは、キャラ変だ。凪●様は先述した通り浮世離れした不思議な青年だった。それなのに、まるで俺様、世界の覇者のようにぶっきらぼうで傲慢なキャラになってしまった。絶対に隣のクソメガネの指示だ。クソメガネは「敬礼!」とかめっちゃ言うし、ミリタリー趣味があるのだと思う。素材を生かす和風料理がf●neの方針だとしたら、あのクソメガネは、ジャンキーなハンバーガーにマヨネーズとケチャップをぶっかけてかぶりつくようなナンセンスさ。味覚障害を疑う。こちらは胃がもたれてしまう。
 ともかく、あの隣に立つクソゴミメガネのせいで僕が好きだった凪●様はいなくなってしまった。こんなことならA●amとか結成しない方がよかったと思うんだけど。僕が好きだった凪●様の思い出が壊され、クソメガネのクソダサいミリタリー趣味で無理をさせられている凪●様、いや、「ナ●サ」に上書きされるくらいなら。
 凪●様がかつて握手会のときに僕にくれたよく分からない、そこら辺の河原に落ちていそうな石。捨てました。隣のクソメガネが凪●様を害し、僕の大切な記憶が汚されたこと、未来永劫根に持とうと思います。どうぞ、隣のクソメガネの行先に不幸多からんことを。合掌。
 

※この恨み節はフィクションです。本日、今敏監督のパーフェクトブルーを観ました。アイドルというのは人々を笑顔にしたり幸せにしたりするエンターテインメント的側面のある職業ですが、時に人を狂わせ、愛しさ余って憎さ100倍のため負のエネルギーを与えてしまうのだと感じました。好きな人に裏切られたとき、我々は被害者ヅラをして悲劇のヒロインぶって自己を正当化します。本当にアイドルに非があるのか。もう一度よく考えたいと思いました。

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