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輪廻する宇宙(9)

横山順一著『輪廻する宇宙』の構成は下記の通りです。今回は第五章の続きを描きます。

  • 序章 輪廻転生とは何か 転生者の捜索と科学の方法

  • 第一章 宇宙の中味をさぐる

  • 第二章 宇宙観の変遷 偏見からの解放

  • 第三章 加速膨張宇宙の謎

  • 第四章 ダークエネルギーの正体

  • 第五章 宇宙のはじまり

  • 第六章 宇宙の将来

  • 終章 ダライ・ラマとの邂逅

第五章 宇宙のはじまり②
初期宇宙のインフレーション

このような問題点を解決するのがインフレーション宇宙論である。これは元素合成が起こるずっと以前に、宇宙をネズミ算式に膨張(これをインフレーションと呼ぶ)させて、たとえはじめにでこぼこがあったとしてもそれをぐんと引き伸ばしてなめらかにし、宇宙を一様・なめらかにしてしまおうという考え方である。

そのためには、宇宙が膨張してもエネルギー密度が減らない物質が必要である。しかし、元素や光のようによく知られた物質はこのような条件を満たさず、宇宙のふくらまし粉の役割を果たす新しい物質が必要とされる。

この役割を果たすのが、現在に宇宙の加速膨張を実現しているのと同じような、宇宙の状態を持つエネルギーである。具体的にはスカラー場のポテンシャルエネルギーがインフレーション的宇宙膨張を起こす原因を与えていると考えられる。

簡単な例としては、スカラー場の値とポテンシャルエネルギーの関係が下図5-4のようなお椀型の斜面で表現できる。

横山順一. 輪廻する宇宙 ダークエネルギーに満ちた宇宙の将来
(ブルーバックス) (p.171). 講談社. Kindle 版.

このお椀型の外縁にパチンコ玉を置いて手を離すと、パチンコ玉はお椀の底に向かって動きだし、底の周りを何度か上下した後で真ん中の底に停止する。この静止した状態が、現在のわれわれが住む宇宙に対応している。

パチンコ玉の始動時の大きなポテンシャルを持っていたときに、宇宙のインフレーション的膨張が起こったのである。というのは図の斜面を転がるスカラー場には、お椀を転がるパチンコ玉と違って強い摩擦力が働き、ごくゆっくりとしか転がることができないからである。

つまり、このとき「宇宙が膨張してもエネルギー密度があまり減少しない」というインフレーション的膨張が起こる条件が満たされるからである。その間に宇宙は十分大きくスムーズになり、地平線問題が解決される。

量子ゆらぎに作った宇宙の構造
このようなインフレーションが起こるのは、宇宙がまだ原子1個より小さい超ミクロな状態なので、量子論の範疇で考える必要がある。

そのために、スカラー場の運動もポテンシャルの坂道を単にころころと転がるのではなく、量子論によってフラフラしながら変化することになる。これを量子ゆらぎという。

ゆらぎの大きさはポテンシャルエネルギー密度の平方根に比例するが、現在観測にかかる範囲のゆらぎは、ごく短い間にできたと考えられ、その間ポテンシャルエネルギー密度はほとんど変化しないので、各時刻でできたゆらぎの大きさは、はぼ一定であったと考えて良いのである。

現在の宇宙には、銀河、銀河団、超銀河団、と入れ子式にさまざまな大きさの構造体が存在しているが、これらは、インフレーション宇宙論の予言するさまざまなスケールにわたってほぼ一定の大きさを持つ密度ゆらぎから出発して、万有引力の法則によって密度の濃かった重い領域が周りのものを集めることによってできたのだ、考えることができる。

たくさんの宇宙
上向きのゆらぎがたまたま小さく。ポテンシャルエネルギーが十分に小さくなってはじめて、ゆらぎが十分小さな、われわれの暮らすような宇宙ができてくる。その外には、いまだにインフレーションを続けている領域があり、その中には、われわれの宇宙と同じ宇宙と同じように、たまたまポテンシャルエネルギーが小さくなり、インフレーションの終わった別のビッグバン宇宙もあるはずである。

このように、宇宙が多数存在し得るというころを現代物理学を用いて示したのが、インフレーション宇宙論の創始者の一人でもある佐藤勝彦博士とその共同研究者であり、1982年のことだった。

下図5-5が多数の宇宙のイメージ図となる。

横山順一. 輪廻する宇宙 ダークエネルギーに満ちた宇宙の将来
(ブルーバックス) (p.177). 講談社. Kindle 版.


われわれのような宇宙が他にもあるのだろうかと、話題になるが、現代物理学の世界では、すでに1982年に時点で、「ある」と結論づけているのである。当然その中には、地球の環境に似たような星があれば、生命体も存在している可能性はある。】



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