【デザイン思考の先を行くもの③】デザイナーの仕事は”望ましい未来のシナリオ”を提示すること
前回の『デザイン思考の先を行くもの』のアウトプット読書の続きです。
問題提起としてのスペキュラティブ・デザイン
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(日本でいうロンドンの芸大)出身の人が「スペキュラティブ・デザイン」という書籍を発行した。そこにデザインの定義についてこう書かれている。
聞き慣れない言葉の「スペキュラート」自体は金融の言葉で「投機する」という意味になる。1940年に発行された『アイディアのつくり方』という書籍の中では「スペキュラート=物事の新しい組み合わせを常に考えている人」としている。
ここでデザインという言葉について再確認したい。
多くの人はデザインと聞くと「問題解決」と思うはずだが他の可能性のある。それは何か。デザインとは「物事がこうなっていたかもしれない」という思索をするための手段にもなり得るということ。
その視点で、未来について考えてみよう。私たちは未来については「一本のレールのようなもので受動的にそこに流れていくもの」と考えていないだろうか。そうではない。未来には起こりうる可能性について幅がある。デザイナーの役割は「未来がどうなる」と予測することではない。「未来をどうしたいか」という個人の願望に基づいて”望ましい未来のシナリオ”を提示することなのである。
駆け足でまとめる。
スペキュラティブ・デザインとは…
視覚に訴えかけるツールを使って、今の私たちの世界にはない未来の視点から問題提起を行うことで、直近のアクションを促すための新しいデザイン思考なのである。
アーティストのスプツニ子!氏の作品はそれに当たるので興味を持った方は調べてみてほしい。
変革したいものにパッションを持っていることを掛け合わせる
前述の『アイディアのつくり方』ではこうも書かれている。
”アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何者でもない”
物事の新しい組み合わせとは何か。例えば、何か変えたいものがあるとする、そこに自分がパッションが持っていることを掛け合わせるのだ。
例えば人前に話すのが好きな人であれば、何か変えたいものにそれを掛け合わせるのである。
パッションが持てることでなければ「異分野の知識」でも良い。
例えばゲームボーイという携帯ゲーム機があった。据え置き機のゲーム端末が主流であったこと、携帯ゲーム機を作れないかと考えていたとき、電卓に使われていた液晶がゲーム機に使えないかというところから始まっている。
電卓の液晶の技術はその頃、枯れた専門技術になっていて、その分野については成熟しきってい酸いも甘いも完全把握していたが、それ以上どこにも使えることがなかったのだが、その技術が携帯ゲーム機の画面として、掛け合わせることでゲームボーイという携帯ゲーム端末が生まれたのである。
また携帯ゲーム機がほしいという「社会の潮流」も掛け合わされて大ヒット商品が生まれ、家の中でやると思われていたゲームが、外でも遊べるようになったのである。これは変革である。
まとめよう。デザインとは問題解決だけでなく、未来はこうなっていたかもしれないという可能性を思索することでもある。また変革を起こしたいときは、変革したいものに、異分野の知識やパッションを持てるものを掛け合わせ、そこに社会の潮流ともマッチングさせることだ。
最後に
日本では幼少の頃から自分の意思を表明することをよしとしない哲学を植え付けられている。ところが歴史は意思を表明した人によって作られてきた。
もっと、自分がやりたいこと、自分が楽しいと思えること、自分の個人的な見立てを周囲の視線を気にせずに信じられるような土壌を作ることが大事だ、と筆者は最後に書いている。
・・・
私は妻に要約したものを見せて説明をした。
妻は満足そうに頷いた。
「で、あなたは何を変革するのかしら?」
私は言葉を失った。
「僕は君に言われて本を要約しただけ、それだけだ」
「でも本には変革の起こし方について書かれていた。そしてあなたはそれを理解して要約した、そうね?」
「そうかもしれない」
「だったらあなたは変革をしなければならないのよ」
「僕は変革をしなければならない」
妻は深く頷いた。
「人間の生まれた意味は恋愛と革命を起こすことなの。そしてあなたは恋愛を経て、革命を起こすフェーズに来ているの」
私は妻の言葉を何度も頭の中で反芻し理解しようと努めた。それは本当に努力したし、真面目に回答をするつもりで前向きに考えていたが、時を費やすことになった。
「あなたは次のミッションはは変革を起こすなの。それは人間として生きる証なの。人間として生きるのか。動物として生きるのか。明日はない覚悟で考えてね」
そういって妻はテーブルから立ち、自室へ去っていた。これからプログラミングの勉強をするらしい。
「やれやれ」
窓の外は雨が降り続いていて、鉛色の空が広がっている。湿度も高く、決して快適とは言えない環境だ。だが止まない雨はない。然るべき時が来れば光がさして、変革の方向を照らしてくれるのだろう。私は椅子に深くすわり目を閉じた。心を落ち着け無になる。目を開けるとき、変革についての解が出ることを信じて。
<了>
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