『アメリカン・スナイパー』(2015/アメリカ)

「人間には羊、狼、番犬の3種類がいる」と主人公のクリスは幼い頃、父親から教えられる。
羊は平和ばかりを夢見ていて悪がやってきたときに何もできない人、狼は弱いものをいじめる人、番犬は悪をやっつける力を持った人。クリスは父親から番犬になるように教育されるのです。

愛国心と家庭の両方に10を割り振ることはできない。どちらも大切なものだがクリスは愛国心に比重が大きくなる。「国を守る」という思いは番犬として教育された主人公のアイデンティティなのだ。ただ妻からは「国を守る」ことをよく思ってもらえない。「国を守る」前に「家庭を守ってほしい」と妻は願う。

クリスは実在した米兵であり、160人以上射殺したスナイパーだ。母国では英雄と評されたが、敵国では懸賞金がかけられる男。クリスには「人を救いたい」という思いと能力があったので任務を遂行しただけだ。それなのにクリスの心はどんどん病んでしまう。
射殺した160人は敵国の兵士も含まれるが、女性や子供もいる。敵国の兵士は狼かもしれないが、女性と子供は羊だ。視点を変えれば敵国の兵士も番犬かもしれない。クリスの考える正義とアイデンティティが揺れてしまう。米兵仲間や母国から英雄扱いされても、クリスの孤独は闇を抱えていく。

映画はイラク戦争が舞台となっており、イラクの乾いた大地のなかでたくさんの命が失われていきます。重たい話だが飽きないように見れるし、緊迫感も続くし、戦争中に天才同士の対決のような演出もあり、エンタメとしても面白い。重たくて暗い話なのに2時間引きつけられるような映画でした。

(面白さ:★★★★★★★★☆)

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