ラグビー戦術 基礎の基礎<2>:「オフサイドライン」を戦術的に作り出す
前回はアタックラインとディフェンスラインの違いと、その違いから見分けるジャッカルの成否についてお話ししました。
今回は、ラグビー戦術の基本にある、ラインオフサイドの「使い方」です。
15人制ラグビーでの1人あたりの「幅」
15人制ラグビーは、15人対15人で行われます。この15人というのは結構多い人数で、仮に15人が横一線に並んで、15本の「レーン」を想定した場合、フィールド全体の横幅が約70mですから、1人あたりが担当しなければならない横幅は4.7mとなります。
5m弱というとそれなりの幅ではありますが、ラグビーでは、相手がボールを持っているならば手を使ってディフェンスをすることができます。それが「タックル」ですが、この「タックル」のことを考えると、同じ5m幅のディフェンスを考えても、1対1で相手をストップできる可能性は、サッカーよりもはるかに高くなります。
「オーバーラップ」を作り出す
なので、相手よりも人数が「余る」局面を作り出し、タックルを受けずにインゴールまで走り込めるような状況を作り出すことが戦術上の課題となります。この、相手より「余った」状態のことを、ラグビー用語では「オーバーラップ」と言います。
「オーバーラップ」は、体格に大きな差があるならば比較的簡単に作り出せます。
単純に前に突進したとして、1対1で止めることができなければ、ディフェンス側は、2人ないし3人でタックルして止めなければいけません。仮に3人で止められたとすると、フィールドに立っているプレイヤーは、攻撃側の「14人」対、「12人」となります。これが短い時間に2回繰り返されたとすれば、攻撃側が「13人」立っているのに対し、防御側は「9人」となり、かなりの数的優位を作り出すことができます。
体格に優れたチームであれば、こうやって複数のディフェンダーを巻き込んでいくことによって数的優位を築くというのが基本的な戦い方になります。明治大学の戦い方が典型的です。
「ラインオフサイド」の戦術的な活用
しかし、体格が互角、あるいは劣勢にある場合にはそうはいきません。その場合に必要なのが、ラインオフサイドを戦術的に活用していくことなのです。
ラグビーで「密集」とも言われるラックとモールが形成されると、「オフサイドライン」が出現します。なお、モールはそのまま押し込んでいくことが常套手段で、「オフサイドライン」を意図的に出現させるということで言うとラックが使われることが多いので、ここではラックを中心に説明します。
繰り返しになりますが、オフサイドラインは、ラックの最後尾から、タッチラインに垂直な方向に出現します。そのオフサイドラインよりも「前」にいると、「オフサイド」の反則になり、ペナルティを与えてしまいます。
ここで大事なことは、ラックができあがると、オフサイドラインが自動的に出現することです。
ということは、意図したタイミングで意図した位置にラックを作ることができれば、意図した形でオフサイドラインを出現させることができる、ということです。
例えば、相手のディフェンスラインを押し込んだ形でラックを形成した場合。
この場合、押し込んで新しく作り出したラックの最後尾にオフサイドラインが出現します。この新しいオフサイドラインは、元々のラックのオフサイドラインよりも敵陣近くにあります。
このように、相手のディフェンスラインを「押し込んで」ラックを作れた場合、相手のディフェンダーの何人かはオフサイドラインより「手前」に取り残されることになります。
もちろん、ディフェンダーはオフサイドラインの後ろに戻ってディフェンスラインを再構築しようとします。現代ラグビーでは、その時間は「2秒」と言われています。
しかし、その2秒の間は、これらのディフェンダーはオフサイドですからプレーできません。
この図は極端な例ですが、この2秒の間、攻撃側は3人がプレイできるのに対し、防御側がプレイできるのはゼロ、となるのです。
このように、ラックやモールが出来ると新たにオフサイドラインが形成されるため、戦術的状況が変わります。そのため、ラックやモールを作ることを「ブレイクダウン」と呼び、そこで「フェイズ」が新しくなると考えます。テレビ見ていて、「5フェイズ目です」などと言われることがありますが、それはブレイクダウンが5回繰り返されていることを表しています。
このラグビーのオフサイドは、サッカーのオフサイドと対照的です。サッカーでオフサイドを戦術的に使うのは防御側です(=オフサイドトラップ)。ディフェンダーのラインコントロールにより、オフェンス側の選手を「消す」のがサッカーにおけるオフサイドの戦術的利用です。一方ラグビーでは、攻撃側が意図してオフサイドラインを作ることで、ディフェンダーを「消す」のです。
「ゲインライン突破!」
ラグビーでは、相手のディフェンスラインを「押し込む」ことを「ゲインする」と言います。テレビ中継で「ゲインラインを突破!」と言われる状態のことです。
しかし、ラグビーではボールは後ろにパスされるので、ラックを作っても、ディフェンスラインを「押し込めない」こともよくあります。この場合、ディフェンダーはポジションを変えなくともオフサイドにならない(=オンサイドポジション)にいられるので、プレー可能なディフェンダーの数を減らすことはできません。
なので、ラインオフサイドを戦術的に使う場合、「ゲインする」ことが重要になります。「ゲイン」できない限り、プレー可能なディフェンダーの数は変わらず、数的優位を作れないからです。
この「ゲイン」を考える上で重要なのが「チャンネル」という概念です(最新の戦術論ではチャンネル概念は「消滅」したとのことなのですが、「消滅」した理由まで理解しないと現在の戦術論は理解できないので、やはり重要だと思っています。)
次回以降では、「チャンネル」概念から、ダブルライン、ショートライン、ワイドラインといった戦術を説明していきます。
ただ、今週末はラグビー4試合、サッカー1試合観戦予定なので、ちょっと時間が空くかもしれません。
(続く)