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「矛」対「矛」の対決:ラグビー大学選手権決勝 早稲田対天理戦プレビュー

 1月11日はラグビー大学選手権決勝戦。これで今年度の大学ラグビーは終わり。対抗戦の早慶戦、早明戦に引き続いて、プレビューをもう一度書いてみることにした。明日は娘連れだから速報レビューは書けないので。

 ただ、「勝負事の結果は予想できない」というのが私の哲学なので、予想はしない。観戦する上での自分自身の注目点をまとめておくにとどめたい。(今日の表紙写真は新国立競技場工事中の写真です)

去年の対戦では早稲田が圧勝

 その前に去年の準決勝での早稲田対天理戦を振り返ってみる。結果は52-14での早稲田の圧勝だった。ラインアウトは完全に早稲田が制圧し、アタックにおいてもフィフィタのディフェンスの弱さを狙ってすれ違いざまに突破、という場面が数多く見られた。

 準決勝の明治対天理戦を見る限り、天理のラインアウトの脆弱さとフィフィタのディフェンスの問題は全く解決されていない。ただし天理の攻撃力は大きく上がっている。また、レフェリングとの相性にもよるが、スクラムでは天理が優位に立つ可能性が高い。

得点機会は7回ずつ?

 そう考えると、「矛」対「矛」の対決という形のイメージになると思っている。

 例えば、明治対天理戦で天理が敵陣22mラインを突破したのは7回。早稲田は準決勝の対帝京戦で7回、準々決勝の対慶応戦で5回、早明戦で7回。対慶応戦は慶応の巧妙なテリトリーキックのために進入回数が減らされたと考えると、通常の相手だと7回と考えるのが妥当だろう。

 双方とも7回得点機会があるとして、それをどれだけ実際の得点に生かせるかが勝負になる。お互い、ポッド戦術やダブルラインを駆使しており、22mラインを越えてからの得点能力は高い。明治が犯してしまったハンドリングエラー、あるいは早明戦で早稲田に多発したラインアウトのミスといったものが勝敗を分けるだろう。

早稲田はテリトリーキックを使うか?

 天理の攻撃力は高いが、キック戦術はほとんど使ってこない。一方、早稲田は状況によってキックを使ってくる。11月23日の早慶戦では14回、早明戦では3回、準々決勝の早慶戦では13回、準決勝での帝京戦では11回(この時リターンキックのカウントの仕方を変えているので、単純なキックの回数ということで見るともっと多い)。

 早明戦での少なさが目立つが、全般的に10回以上蹴っており、そのうち約半分でプレーエリアを前進させることができている。天理の攻撃力を考えると、陣地を押し戻しておくことも重要だから、この試合では早稲田はかなりキックを使ってくるのではないか。今シーズンの過去の試合から判断するに、10回以上はキックを使ってくるのではないかと予測できる。

フィフィタのディフェンス

 ディフェンスラインの鉄則は、横一直線に並ぶこと。タックルは走りながら行うから、どうしても実行範囲は扇型に広がる。横一直線に並ぶことによって、扇を重ね合わせて、隙のないディフェンスを行えるようになるからだ。

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 これが一直線に並べないとどうなるか。そうすると、扇がずれて、タックルに入れないスペースができてしまう。

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 ところが、天理のフィフィタは横一直線に並べない。どうしても飛び出してしまうクセがある。去年の大学選手権準決勝の早稲田対天理戦では、早稲田はフィフィタのこのクセを利用してすれ違いざまに天理のディフェンスを突破した。

 フィフィタが飛び出してくることを見切った上で、タックルが届かないギリギリのところで真横にパスを投げる。フィフィタのトイメンは、そのパスを受け取る瞬間に外に何歩か膨らんでパスを取る(「伸びる」という)。

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 そうすると、フィフィタが飛び出したことで生まれている「タックルのでいないスペース」に入り込んで裏に抜け出すことができる。実際に去年の対戦では河瀬がそういう形でフィフィタのディフェンスをすれ違いざまに突破した。

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 フィフィタのこのクセ、スーパーラグビーでも見破られていたようだ。2月29日のサンウルブズ対ハリケーンズ戦でもフィフィタを狙われて再三突破を許している。

 明治戦を見る限り、この悪癖は直っていないようだ。もちろん、飛び出してタックルが決まればビッグタックルとなるが、外された場合には一気にピンチになる。

 早稲田から見れば、フィフィタがタックルに食いついてくるが、インターセプトやタックルを食らわないギリギリの間合いでパスを回せるかが勝負となる。そしてこの間合いこそがまさに早稲田の伝統芸能。実際、帝京に対しても同じような攻撃を行い、成功している。この「間合い」を巡る攻防が勝敗を決する大きなカギとなろう。

(早稲田がフィフィタのディフェンスを狙えると判断したら、テリトリーキックを使わずにパスで攻めてくる可能性もある。逆に序盤にフィフィタがビッグタックルを決めたら、安全にキックを使ってくる可能性が高い)

天理の攻撃の鍵は?

 天理としては、明治戦で見せたように早稲田ディフェンスを縦方向にグルーピングし、横方向のスペースを使う攻撃が機能するかどうかが大きなポイントとなる。

 これはロックのモアラとフィフィタが大きな役割を担うが、彼らが突破役を担わないこともある。彼らはサイド(=エッジ)でスペースを突く態勢を取りつつ、フォワードがトップスピードでスタンドオフからのパスを受けてまっすぐ走り込んでくる別パターンの攻撃もある。早稲田としては、縦への突進をまずダブルタックルで確実に止め、できるだけ球出しを遅らせることが重要となる。

「矛」対「矛」の対決

 こうしてみると、お互いの攻撃は十分に機能していくように思われる。いわば「矛」対「矛」のかなりハイスコアのトライの取り合いになるのではないか。

 ただし、早稲田がテリトリーキックを有効に使え、また昨年同様にラインアウトを制圧できた場合には、攻撃回数そのものに差ができて、昨年同様に思わぬ大差になる可能性もある。仮にスクラムで天理が優位に立ったとしても、ラインアウトが取れなければ、テリトリー確保にはつながらない。

 逆に明治対天理戦の後半のように、天理がラインアウトを確保できれば、展開は大きく変わる。


 お互い、非常にハイレベルな攻撃を展開するだろう。この大変なシーズンに、なんとかここまでやってきた大学ラグビー。最後にとにかくいい試合を期待したい。手が痛くなるほどの拍手がしたい。

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