ドラマ

 3話目の最後の10分で物静かな男が死んでしまうドラマを、男が少し驚いた顔をして倒れ込み、開いたままの両目に理不尽な悲しみが横切って、半開きの口からため息が滑り出て、伸ばした左手の甲に最初の雨の一滴が降るところまで、繰り返し何度も観た。

 男は毎回同じところで死んだ。
 そのほんの8分前には男は妻の隣にいた。音量を絞ったテレビの報じるニュースについて男は妻に話し掛け、しかし彼女は読み掛けの本に赤ペンで線を引くのに集中して聞いていないのだった。
 画面には白いスーツの女が映っていて、真剣な顔で何かを伝えているが私には聞き取ることができない。

 その前の週にも男は生きていて、半分を過ぎた辺りで廊下を不機嫌に歩く主人公を呼び止めて一言、本当に残念だった、と言うのだった。本当に残念だった。
 主人公は男を睨み付けるとそのまま何も言わず足早に立ち去って、男の表情は一度も映らない。

 私はそれを一日中観ていた。
 男が死ぬのを、歯を磨きながら見たし、上着のボタンを留めながら見た。写真立ての埃を払いながら、ジャガイモの皮を剥きながら、友人の電話に相槌を打ちながら見た。
 何を待っているのか分からないまま、何かを待っていた。

 男の左手の親指の付け根にはいつも同じ傷があり、男の妻は顔を上げず、主人公に男の言葉の意味が伝わることはなかった。視線は動かなくなり、不自然な形に固まったまま指先は震えることさえなくなり、音もなく雨粒が最後に男を打つ。
 はじめにもどる。
 糸のようなピアノの音がして、無機質なタイトルが現れ、主人公が扉を乱暴に開いて出てくる。
 扉が静かに閉まりきる直前、歩き出す主人公の肩越しに、微かに微笑んで立つ男の姿が見える。

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