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"君"とは… Episode 12

担任:はい、みんなおはよう。ここまでよく頑張ったな。お疲れ。




クラスへ語る担任。

空きの机が沢山ある。

勉強しているのか、はたまた弱気になってしまっているのか。

人の少ないHRはどこか、悲しい雰囲気を漂わせている。




山口:おう、〇〇!

●●:郁也、なんか久しぶりだな。

山口:まぁな。もう必要のない授業は来なくても良かったし。これみんな、塾だろ?

●●:多分ね。

山口:みんな極限状態だったからな。他のことを考える余裕なんてな。

●●:そうだな。




100日のカレンダーはあっという間に1桁に。

気づけばもう、前期試験も終わってしまった。

それぐらい…何も考えず、気付かぬうちに目前に卒業を迎える。

井上と菅原との定期会も1月からは無くなった。

結局、孤独に闘ってきた。

お守りという、"特別なシャーペン"を片手に。




山口:そういえば卒業式、なんか話すんじゃないの?

●●:答辞な。受験終わってから、ずっと考えてるよ。

山口:卒業生代表だな。

●●:やめろよ〜、そう思わないようにしてるんだから。

山口:ごめんごめん笑。…結果が分からないまま卒業式なのが嫌だな。みんなソワソワするだろ笑。

●●:卒業式が3/1は早いな。

山口:もうちょっと青春謳歌させて欲しいわ。

●●:だな。

山口:ま、頑張れ。邪魔すると悪いから、またな。

●●:おう。





あと数日。

ようやく気づいたタイムリミット。

気づいていなかったのか、はたまた気づかないようにしていたのか。

答辞を考える手が止まる。

"君"との6年間の思い出が溢れては止まらない。




池田:…●。●●!

●●:…!

池田:●●、大丈夫?

●●:…えっ?

池田:何か思い詰めてない?

●●:ううん、別に。

池田:考え詰めてそうな顔してたから。

●●:本当?

池田:うん。なんかあったら言ってよ?

●●:おう。

池田:答辞、期待してるからね。

●●:プレッシャーかけないでくれ…。

池田:へへ、じゃあね。

●●:おう。




この間はよく池田と帰っていた。

唯一と言ってもいい話し相手。

だから…些細なことも分かるのかもしれない。

辛いのか、悲しいのか、焦っているのか。

今の気持ちを言語化出来ない。

ただきっと…。

"君"のことをどうしようもなく…"好き"なんだ。







ーーー







答辞を国語の担当である賀喜先生と学年主任にチェックしてもらう。




賀喜:うん、いいんじゃないかな?どうです?

主任:●●らしい答辞だな。

●●:ありがとうございます。

賀喜:あとは読み方だね。なるべく伝わりやすいようにゆっくり、はっきり。

主任:緊張したらどうしても早口になっちゃうから。

●●:分かりました。

主任:きついスケジュールの中、ありがとうな●●。

●●:いえいえ。

賀喜:どう?卒業の実感は。

●●:全く。本当に今週末なんですよね?

主任:みたいだな。先生たちも全くだよ笑。

賀喜:初めて3学年そのまま持ち上がったから、私も全然だな。

●●:やっぱり先生達もなんですね。

主任:でも、来週からは"ソレ"…コスプレだからな笑。

●●:そんな現実突きつけないでくださいよ…笑

賀喜:でもそうだからね?笑

●●:法律上は31日まで高校生です!!笑

主任:それもそうか笑。

賀喜:うん、じゃあ当日頑張ってね。

主任:よろしくな。

●●:はい。




答辞が完成した。

残されている課題は"卒業式"だ。

制服を制服として着れるのはあと少し。

これからはコスプレになってしまう。

そんな現実に背中を向けたくなる。

クラスへ戻る。




賀喜:●●!!

●●:先生、どうしました?

賀喜:…ごめんね。

●●:えっ…。

賀喜:あの時…和ちゃんと話してた時、聞いてたでしょ?

●●:…。

賀喜:●●を見てれば大体…分かるから…。私のせいだなって。

●●:賀喜先生。

賀喜:…?

●●:あの話、聞いたことは確かに…想いを伝えることの重荷になってました。でも…聞いたこと後悔はしてませんから。

賀喜:…。

●●:それに…だからこそ、味わえた青春もある気がするんです。

賀喜:●●…。

●●:でも…だから…。ちゃんと卒業式の日にこの想いにケリをつけるつもりです。だから、先生。

賀喜:うん。

●●:最後まで副担任で居てよ?

賀喜:…当たり前じゃん。卒業しても君らの副担任で〜す。

●●:それはちょっと嫌かなぁ…笑。

賀喜:…●●、ありがとう。

●●:何で感謝するんですか笑。

賀喜:卒業式、頑張りなよ。

●●:もちろん。

賀喜:じゃあね、当日期待してるからね!




勝手にそんな言葉が出てきた。

この1年間、いや井上とのこの6年間。

後悔しているようで、悔いの無い青春だったのかもしれない。

1人でいる辛さも幸せも。

誰かといる辛さも幸せも。

感じることができたんだろう。

それがきっと"青春"なんだ。

この廊下を通って、クラスに戻るのもあと数えるぐらいか。




●●:ふぅ。

菅原:やっほー。

●●:うわっ。

菅原:ちょっと、その反応は失礼じゃない?!

●●:ごめんごめん、びっくりしただけ笑。

菅原:それはそうと…さっき聞いちゃった。…するんだね。

●●:きっちりケリをつけないと、一生苛まれる気がしてるから。何より…これから恋愛できないかもしれないだろ。

菅原:●●、なんか変わったね。

●●:え?

菅原:色んな役職してたこともそうだけど…多分、和との出会いが変えたんだね。それが良いか悪いかは別にして。

●●:そう?

菅原:だって一回嫌いになってた時期あったじゃん?

●●:うん。

菅原:和に対して、色んな感情を抱いたことがきっと●●を変えたんだよ。

●●:ほう…珍しく良いこと言ってんじゃん。

菅原:へへ…って珍しいって何?!

川﨑:まあまあ…さっちゃん。

菅原:あ、さくたん!

●●:あれ、そこって仲良かったっけ?

川﨑:これも和のお陰だよ。

●●:へぇ。

川﨑:それより…●●。

●●:…うん。

川﨑:そっか。

●●:やっぱり覚悟を決めないといけない気がする。

川﨑:どう転んでも?

●●:結果はどっちでも良いんだよ。ただ…この想いをちゃんと伝えたい。じゃないと、ダメな気がする。

川﨑:●●のその決断、応援する。

菅原:私も。

川﨑:私は悩み抜いて、良い想い出だったなって気持ちに整理がついたから。

●●:それ…後悔はしてないんだな?

川﨑:もちろん。だから…同じく悩み抜いた●●のその決断は間違ってないと思うよ。

●●:2人とも…ありがとう。

菅原:頑張れ、●●!

●●:おう!

川﨑:答辞も期待してるね、かいちょーさん?

●●:だからもう会長じゃないってば笑。




ポケットのスマホが震える。




井L:今、どこにいる?一緒に帰ろ。

●L:校門で待ってて、すぐ行く。

井L:了解!

川﨑:ほら、準備準備。

菅原:和、待たせちゃボゴボコにするからね!

●●:分かってるって笑。




こんなみんなとも会えたのは、君のおかげか。

何度も思い描いていた"いつの日か"。

その日を…自分もみんなも。

待っているんだ。







ーーー







井上:久しぶり、●●。元気だった?

●●:おかげさまで。シャーペンが大活躍でしたよ。

井上:そう?笑

●●:うん。

井上:なら、プレゼントあげて良かった。

●●:ありがと。




最後の制服での"普通"の帰り道。

この日常はきっと今日で最後だ。




井上:担任、泣きそうになってなかった?笑

●●:あ〜、最後の学年集会のときね。

井上:そうそう、まだ流石に早くない?笑

●●:初めて担任をかわいいと思ったわ笑。




他愛も無い話でも…ちらつくは卒業の影。




井上:結局、●●も第一志望で受けたんだよね?

●●:うん、ってことは井上もか。

井上:そういうこと。

●●:井上、一人暮らし出来んのか?笑

井上:まあまあ…へへ…。

●●:1日で家爆破しそう。

井上:そんなことはない!…けど、1日で家が物で埋まりそう…。

●●:ちゃんと自分で片付ける習慣つけないとな。それか、物を少なくするか…だな。

井上:勉強になります。




井上:この道ももうすぐ歩かなくなるんだね。

●●:卒業の実感湧いてる?

井上:全然。みんなと離れる実感もない。

●●:俺も。本当に卒業なのかなぁ…。

井上:卒業証書貰えなかったりしてね。

●●:それは地獄の卒業式過ぎるわ笑。

井上:それもそうか笑。




そんなこんなで、駅に着く。




井上:よし、わざわざありがとね。

●●:いやいや。

井上:じゃあ、またね。




次に会えるのは卒業式。

それがきっと"最後"になる。




●●:井上。

井上:…?

●●:卒業式の後…時間ある?

井上:咲月達とご飯食べに行く予定があるぐらい。

●●:ちょっとだけ待ってて。

井上:分かったよ。待ってる。

●●:じゃあ、また。バイバイ👋

井上:バイバイ!👋




覚悟はもう…決まっている。

残された最後の時間。

君へ捧げよう。

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