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"5月"の恋

●●:今がチャンスかな…。

友1:そうだな、今のうちに帰るか。




予報通りではない雨。

部活の練習は中止で他の部活との兼ね合いの結果、休みになった。

今日という日に限って折り畳み傘を忘れるという失態を犯した。

暇だというのに帰れない状況。

小雨になってきたので、この程度ならおそらく家まで持つだろう。

急いで必要の無かった道具を持って、教室を出る。




友1:じゃ、気をつけて。また明日。

●●:ん、また明日。







ーーー







校門で友達と分かれ、小走りで向かう帰り道。

いつもの赤いポストを通り過ぎた時だった。

急に雨足が強くなる。

全速力で走って帰ってもいいが…。




●●:流石にこれは厳しいか…。




ひとまず郵便局の軒先に避難する。

少し濡れた服と鞄を持ち合わせていたタオルで拭く。

スマホを取り出して、雨雲レーダーを見る。

どうやらあと1時間はこのまま降りそうだ。




●●:最悪だよ…。




雨はあまり好きではない。

楽しいことを奪ったり、気分を下げたりする。

思わずため息が出る。

そんな時だった。




菅原:あ、●●じゃん。

●●:お、菅原。

菅原:まさか、傘がない感じ?笑

●●:だって天気予報になかったじゃん…。

菅原:まあ、私も折り畳み傘だけど。




幼馴染の菅原。

クラスも同じだし、何かと1番お世話になってるかもしれない。

あまり濡れているような姿は見せたくなかったが。




菅原:濡れてるじゃん、大丈夫?

●●:まあ、大丈夫。止むと思ったんだけどなぁ、さっき小雨になったし。なんなんだよ…。

菅原:五月雨だね。

●●:さみだれ?

菅原:うん、"五月の雨"って書いて五月雨。途切れながら、ずっと続く雨のこと。

●●:へぇ…。国語苦手なのにそういうことは知ってんだ?笑

菅原:うわぁ…そういうこと言うんだ、ひどい!

●●:ごめんごめん笑…。帰らなくて良いのか?

菅原:そっちこそ。これからもっと強くなるみたいだよ?折り畳み傘でも大丈夫か不安だけど。

●●:それなら尚更、早く帰りなよ。風邪ひくよ?

菅原:……入りなよ。

●●:え?

菅原:良いから入りなよ。一緒に帰るよ?




菅原の優しさに心がキュッとなる。

これが何を意味するのか、幼い頃から分かっている…はず。




●●:じゃあ…お言葉に甘えて…。




相合傘になって、歩き始める。

普通の傘よりも小さいので距離はグッと近くなる。

せめて菅原にはあまり濡れてほしくないから。

菅原よりに傘を差す。

お互いドキドキしているのか…上手く会話が出来ない。

先に静寂を破ったのは菅原だった。




菅原:ねぇ…この後って暇?

●●:まぁ元々部活の予定だったし、暇だよ。

菅原:ちょっと遠回りして帰らない?

●●:…良いけど…どこに行くの?

菅原:●●が結局濡れちゃうからさ、商店街の方に行けば少しはマシになるかな…って。

●●:いいよ…久しぶりに行こ。




通学路からは少し外れるが、家の近所にある商店街へ向かう。

昔、菅原とよくここに来た。




菅原:よいしょ…っと。

●●:ありがとな。

菅原:いやいや、それはお互い様だよ。

●●:こう言う時にアーケードのある商店街はいいよな。

菅原:それにしても、久しぶりだなぁ…。

●●:あ、ここの駄菓子屋まだあるんだ!




2人でお小遣いを握りしめて、よくこの駄菓子屋に来ていた気がする。

小さいポテチの袋を半分こしていたっけ。




菅原:最近はショッピングモールに行っちゃうからなぁ…。

●●:無くなってる店もあるね。

菅原:なんか懐かしいな、よく来てたよね。

●●:月に1回は絶対行ってたな、楽しみだった。

菅原:今日、雨で良かったかも。

●●:なんで?

菅原:●●と思い出を思い出せたから…//

●●:…//

菅原:ねぇ…なんか言ってよ!笑

●●:俺たちってやっぱ馬鹿だよな…笑。

菅原:ちょっと、どう言う意味!笑




いつも、うざったく思う雨。

今日だけは降り続けてくれても良い。

暗い雨雲の向こうにあるだろう、美しい夕日を信じて。

君と歩くは、通い慣れたアーケードだ。

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