"君"とは… Episode 2
昼ごはんもそこそこに家を出る。
この街1番の商店街。
その最寄り駅が待ち合わせ場所だった。
井L:ありがとう。ほんと悲しくてさ。
●L:何があったの?
井L:友達が約束ドタキャンして…。予約キャンセルできないから…。
●L:あら…。で、●●なら空いてるんじゃないかと。
井L:うん。ほんとにごめん。
●L:いや気にしなくていいよ。ちょうど気分転換したかったし。
井L:ありがと…。じゃあ待ち合わせは××で、13時ね!
ーーー
井上:本当にありがとう…。急にごめんね。
●●:いや、まあ俺もよく予定すっぽ抜かされることあるから。
久しぶりに見たその姿は、大人っぽい私服も相まって綺麗だった。
その目は少し腫れていて、きっと涙を流したのだろうと容易に想像できた。
●●:ちなみに行き先は?
井上:素晴らしくお洒落なカフェ。
●●:うわ、俺に似合わな。行ったことあるカフェなんて、せいぜいスタバぐらいよ。
井上:いや…。本当はアルノの誕生日のお祝いのために、だいぶ前から予約してたんだけどね。アルノが昨日の夜に明日行けないかもってLINEが来て。これはもう無理だろうなって思って、今日やっぱり…って感じ。
●●:…3月…だったからだいぶ経ってるな。お互いの予定も合わせてって感じ…なのにか…。
井上:そう。お互い忙しくてようやくなのに…。
この突然の"デート"が、まさか"奴"が原因とは思ってもみなかった。でも、こんなことしかねないな…と過去を顧みて思った。
井上:ここだ。着いたよ。
●●:えっ…こんなその…えっ?
井上:●●、びっくりしすぎ笑 誕生日とかで色々あるかも知れないけど、上手くして欲しい。
●●:分かった…。
着いたカフェはドラマや映画で見るような大人びた雰囲気で、テーブルには赤のクロスが引いてある。カトラリーとワイングラスに入った水が用意されていた。
《そう例えば、プロポーズをするのに相応しいような…》
井上:ね、すごいでしょ?
●●:うん、よくこんな場所見つけたな。
運ばれてきたスイーツも素晴らしかった。
コーヒーも…何もかも。
憂鬱はとっくの前に消え去っていて、幸福だった。目の前には君がいて、他愛もない話で笑っている。
井上:咲月にしようかとも思ったんだけど、前2人で行った時に寝坊して2時間も待たせたから、なんか嫌だったし…笑
愚痴を聞いてみたり。
●●:第1回の志望確認あるじゃん?ちゃんと書いてる?
井上:先生には第3志望まで書け、って言われたけど正直第1しか考えてないな〜。
夢を語ってみたり。
2人だけの空間で何でもないような話をする。
そんな時間も終わりはあって、カフェを出て駅まで歩く。
井上:今日はありがとうね。楽しかった。お金も1人分払ってもらったし…申し訳ない。
●●:いいのいいの。井上が楽しめたらそれで良い。
井上:うん。ありがと。じゃあね。また学校で。
●●:おう。また。
帰りは敢えてバスに乗った。
普段使うことのない、路線バスは2倍の時間がかかる。
それでも、余韻に浸っていたかった。
●L:今日はありがとう、楽しかった!
井L:こちらこそありがと!!楽しかったです!!
ーーー
家に帰ると、そこにはさっきまで憂鬱に苛まれていた部屋があった。現実に戻される気はしたが、それよりも今は幸せに満ちていた。
きっとこれを"デート"だと思っているのは自分だけ。だとしてもその響きが嬉しかった。
気分が変わって、数学の勉強をしてみる。
GW明けに主要科目で確認テストがある。
結果次第では講座が変わる。
進学校らしく、ほとんどの科目で習得別に講座が分かれていて、一部の科目は3クラス合同の講座分け。数学がまさしくそうだった。
井上は今、俺の1つ上の講座にいる。お互いにそこまで数学が得意ではないので、井上がもう1段階上に行くことはないだろう。
つまり、自分の頑張り次第では同じクラスになれる…かもしれないのだ。
●●:テスト…頑張るか…。
君の影を追い求めて、今日も生きていく。
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