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"君"とは… Episode 10

文化祭が終わり、次は体育祭。

これが本当に"最後の行事"になる。

体育祭が終わると楽しい行事はもうない。

これからは受験というものにより一層、突き進んでいかなければならない。

そんな中。

忘れたはずの想いが再来した。

前までより熱は帯びてないにしろ…。

こんな文化祭マジックなんて要らなかった。

でも……。




学校へ向かう電車の中。




池田:おはよ、●●。

●●:池田、バンド付けるの早くない?笑

池田:何処にいても1組でしょ〜?

●●:なるほど…笑。




クラスごとに配られる、リストバンド。

今日の朝、1年生の時のバンドを見つけて、複雑な気持ちになった。

きっと、同じクラスが良かった。

そんな心の表れだろう。




池田:そういえば、今日誕生日じゃん!

●●:あー、うん笑。

池田:おめでとう!

●●:ありがとう笑。

池田:体育祭の日に誕生日なんて、ツイてるね〜。




誕生日…。

きっと色んな人に祝われると思う。

嬉しいことに変わりはない。

でも…自分には誰よりも祝ってほしい人がいる。

少し距離を作ってしまった君に、祝ってもらえるだろうか。

毎年プレゼントを渡し合っているが、今年も。

受け取ることは、渡してくれることはあるだろうか。

ラッシュ真っ只中の車内で、1人焦っていた。







ーーー







クラスには応援団長達の打ち合わせ姿。

女子のメイクアップを互いに手伝う姿。

委員会や部活の準備姿。




山口:おう、〇〇!!リストバンドちゃんと持ってきたよな?

●●:誰が忘れるか…笑

山口:俺は何故か2つ貰ったんだよ笑

●●:なんで郁也だけ2つなんだよ…笑

山口:ということで、誕生日の〇〇にどうぞ!

●●:なるほどな笑。ありがと。

山口:ちゃんと誕生日プレゼントもあるからさ。

川﨑:あ、●●!誕生日おめでと〜!

クラスメイト達:えっ●●、今日誕生日??

●●:あ〜、うん笑。

クラスメイト達:お〜!!おめでとう!

団長:よし!声出しも兼ねて、みんなでハッピーバースデー歌おうぜ!

●●:ありがと、ありがと。なんか恥ずかしいわ笑。




歌われている時、ふとスマホが2回震えた。

恥ずかしさに免じて、通知を覗く。

1つは菅原からのおめでとうメッセージ。

もう1つは…




井L:今日一緒に帰れる?




淡い期待がまた…。

君への想いを再び加速させていく。







ーーー







校長:今日は秋晴れで〜…。




開会式。

全校生徒が3色に別れる。

自分たちの1組は同学年では2組・6組と同じ赤組。

校長はいつものことなので、ふとプログラムと自分の出る種目を確認する。




クラスLINEに上げられている、エントリー表。

他のクラスのも勿論見れる。

少し確認すると、玉入れのメンバーに中西が。

大玉転がしの自分の1つ前の走者に井上がいた。

午前中は我慢することもあると思うが、午後では目の前で受け取って、カッコいいところを見せないと…なんて思ってしまったのは、隠し通したいことだ。




隣には2組の列がある。

君の姿を少し見て。

怪我の無いように、最後の体育祭を楽しんでやると密かに誓う。




開会式が終わって早々に、玉入れの時間。

入場していくと円の中心にカゴのある棒が立っている。

自分からその円の中心へ向けてまっすぐ見ると、向こう側にはあの姿。

久しぶりにちゃんとその姿を目に入れた。

あの頃色んなこともあったし、あれから色んな噂も聞いた。




好きか嫌いかのフェーズにはもういない。

どうでもいい。関わりたくない。

そんな段階までいってしまったんだ。

そんな、青春の祭典に似つかわしくないことを考えてしまった。




先生:位置について〜、よ〜い…




パーン!!

開始の合図とともに自分が投げた赤い球は、雲ひとつない青空へ大きく舞った。







ーーー







赤組は順調に勝ち進めている。

午後の部、最初の競技が大玉転がし。

青組の菅原の姿もあった。




菅原:あ、和と●●も大玉??

●●:うん。井上もそうみたい。

井上:他と比べて、大玉が1番楽しめるからね〜。

菅原:確かに…他は割と大変な競技も多い…。

●●:リレーとか大縄、借り物とかか。

井上:言っとくけど、赤が勝つからね!

菅原:いやいや、青も負けないから!

●●:間違いなく赤です。




そんな話をして、いよいよ競技スタート。

順番は大きく1年→2年→3年の順番。

3年のうち番号の若いクラスがアンカーを務める。

つまり赤は自分たちなわけだ。

2年ゾーンになると少しずつ、差が開いてきた。

黄は転倒もあって、もう巻き返しは厳しいか。

青が速く、赤は追いかける展開。

あともう少しで抜けるか…。

そんな時に回ってくる。




友1:俺らで最後、抜けるかだな。

●●:間違いない。

友2:転けずに、なるべく最短距離で行こう。




いよいよ、渡される。

その瞬間。




井上:ハァハァ…誕生日ボーイ、あとは頼んだからね!!

●●:任せろ!




そんなやり取りをした。

転けそうになりながらも、大玉に必死に喰らいつく。

あと、もう少しで追い抜く…。

そんな時、風が吹いて大玉が飛ばされそうになる。

それに気づいた自分は地面へ大玉を押さえつける。

青は…風に煽られた。

そして、赤の大玉が1番にゴールテープを切った。




先生:大玉転がし1位、赤組です!!

赤組:うわぁ〜!!!!

団長:みんな、ナイスファイト!!

友2:●●、マジでナイス!

友1:●●が支えてなかったら、間違いなく勝ててなかったな!

●●:いや〜…ハァ…気付けて良かった!

友2:やっぱ誕生日男は違うな!

●●:やめろって…笑。




間違いなく…過去3年間で1番楽しい体育祭。

冷静に、でも全力に。勝ちを考えて。

大玉転がしができたのは、君がいたからに違いないだろう。




井上:流石、●●!👍

●●:割と頑張ったよ。

菅原:よく、風に負けなかったね〜…。

井上:そうだ、まだ写真撮ってないじゃん。

菅原:ツーショット、また撮ろうか?

井上:ありがと!スリーショットも撮ろ!ねっ?

●●:もちろん。







ーーー








結果、赤組は優勝した。

小・中・高と何だかんだ初めての優勝な気がする。

最後の体育祭はまさしく有終の美で終われた。

どこか…嫌だった気持ちの整理もついた気がする。

写真を撮ったり、思い出作りしたり。

ややあった後、着替えて、帰る支度をする。

言わずもがな男子の方が早いので、メッセージを送る。




●L:校門前で待ってる

井L:分かった、待っててね!




井上:遅くなってごめん!!

●●:いいよ、全然。クラスでしょ?笑

井上:女子達が色々やろうってうるさくて…笑。

●●:じゃ、帰ろ。

井上:うん!




体育祭の振り返り的な話。




井上:今年、団長全員圧強かったよね?笑

●●:確かにちょっと気合い入ってたな笑。




受験の話。




●●:行事終わっちゃったな。

井上:いよいよ本格的にか〜…。




ようやく、いつもの関係に戻れた気がする。

駅に近づく。




井上:それでね、●●。

●●:…?

井上:…誕生日おめでと。はい、プレゼント!

●●:…お〜、ありがと!!中身は…。

井上:シャーペンと、ハンドクリーム。

●●:嬉しい。

井上:実用性と…あとまあ受験期で段々、こんな風に会話できなくなるかもしれないから、それをなんかお守り代わりにして!笑

●●:…なるほどね笑。




また、そうやって。期待させて。

でも、もう手遅れだ。

君への想いは間違いなく蘇った。

そして、以前よりも君を想ってしまっているに違いない。

迫るカウントダウン。

加速する気持ち。

勇気の出せない自分。

君に振り回される日々がまた始まる。

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