アンチ・ロマンス
●●:あ〜、疲れたぁ…。
友1:今日は暑かったしな、尚更な。
●●:ほんと…春はどこへ行ったんだよ…。
桜が散ったばかりだというのに、真夏のような暑さが続く日々。
夏の大会に備えゆく日々。
校門前の花壇に咲く花も何だか萎れている気がする。
友1:あ、明日単語テストじゃね?
●●:うわぁ、帰ったらしないと…。
友1:学年主任が英語の担当は終わってる。
●●:顧問になんて言われるか分かんないからな。
友1:じゃ、俺はここで。
●●:おう、また明日な。朝練、忘れんなよ?
友1:分かってるよ笑。
●●:ふぅ…。
放送:この電車は各駅停車、××行きです。次は…。
夕方の電車。そこそこ混むとは言え、朝に比べるとまだマシだ。
そしてそんな車内でいつも目にするのが…。
女1:ねぇねぇ、今度の週末どこ行く?
男1:う〜ん…△△とならどこでもいいけどね〜。
女1:もう〜//すぐそうやって言うんだから…//
今日も視界に入る、イチャつくカップル。
正直、鬱陶しい。
こっちは炎天下で練習して疲れてるんだから、静かにしてくれ。
そんなやり取りは家でしてくれ。
"恋は盲目"という言葉はこうも捉えられるんじゃ無いか?
公共の場でそんなことをするなんて考えられない。
周りをよく見てくれ。
そして、だからこう思う。
恋なんてするものか…と。
所詮、幸福を満たす手段にしか過ぎない。
その点、自分は部活や友達という手段がある。
間に合っている。
●●:はぁ…。
大きくため息をついて、ノイズキャンセリングイヤホンを付ける。
ーーー
友1:おはよ、●●。
●●:おう、学校に着く前に会えるとは。
友1:いつも俺が寝坊するからな…笑。
●●:そうだよ笑。
友1:ん?あれ、井上じゃね?
●●:お、本当だ。朝練、弓道もあったりするんだな。
友1:な、意外。
●●:とか言ってる場合じゃないな、準備しなきゃ。
友1:うん、急ごう。
走りながら横目で視界に入った花壇。
用務員さんが手入れしたのだろうか。
ポピーが鮮やかに咲き始めていた。
顧問:はい、おはよう。よし全員いるな。
部長:今日のメニューは?
顧問:まあ一旦アップしようか。
部長:分かりました。
顧問:あ、誰か…先生と一緒に倉庫来て欲しいんだが…。
部長:こっちは自分が回すんで、副部長の●●でもいいですか?
顧問:ん、それがいいか。●●、手伝ってもらっても大丈夫か?
●●:はい、もちろんです。
顧問:じゃあ、ついてきてくれ。弓道場に近い方の倉庫に。
普段はあまり使わない物が保管されているその倉庫。
何となく…大変な朝練になる気がする。
顧問:これ、運んでくれるか。先生はこっち持って行くから。じゃあ先に行ってるぞ、鍵は任せるな。
●●:わかりました。
やっぱり体幹だ…。
軽く絶望しながら用具を出し、鍵を閉める。
すると、何かが刺さるような音がした。
振り返ると…金網越しに弓道部の朝練が見える。
そして…。
井上:…。パシュッ
同じクラスで、女子の中ではよく話す方の井上。
その井上の射る姿。
時が止まったかのように思えたその一瞬。
何とも言えない感情に支配された。
ふと我に帰って、走ってみんなの元へと戻る。
井上:ん?今の…。
ーーー
朝練が終わり、HRに着く。
友1:はぁ、体幹は聞いてないって…。
●●:朝からクタクタだな。
井上:おはよ。
●●:お、おはよう…。
井上:朝練、大変そうだったね笑。
友1:そうなんだよ…あの顧問!
●●:まあまあ…。
井上:…ねぇ、●…
友1:あ、やべ!英語の単語テスト1限じゃん。やらなきゃ!
●●:あ、ホントだ。
井上:…。
何だか、今日は井上を見ると変な気持ちになる。
それを押し殺すように、単語帳に向き合う。
主任:はい、そこまで!じゃあ紙、前後で交換!丸つけ行くぞ。
井上:はい、●●よろしく!
●●:お、おう。
井上:●●、ここsじゃなくてcじゃない?笑
●●:うわ…!
井上:これ丸だったら、合格なのに…笑
●●:…甘く見てくれないですか…。
井上:じゃ、一個お願い聞いてくれたら丸にしてあげる。
●●:…コクッ
井上:ふふ。了解!
何だか、小っ恥ずかしかった。
それより、何を求められるんだろうか…。
それも気掛かりだ。
ーーー
井上:お待たせ!
●●:いやいや、全然。って言うか…こんなのでいいの?
井上:こんなの"が"いいの!
●●:へ、へぇ…。
お願いは一緒に帰ること。
途中までは同じ道みたいだ。
当たり障りのない話をしつつ…ふと訊かれる。
井上:…ねぇ、●●。朝練の時、弓道見てなかった?
●●:えっ!!
井上:なんか見えた気がするんだけど。
●●:…そっちの倉庫に用具取りに行ってた。
井上:あ、そうだったんだ。
●●:そしたら、射る音が聞こえてちょっと覗いただけ…。
井上:ふ〜ん。どうだった?
●●:え?
井上:もちろん、私が射るところも見てたでしょ…?
●●:…!
井上:どうだったの…?
●●:普段と違う井上でかっこよかったよ…。
井上:ほんと?よかった…//
●●:なんか恥ずかしい…。
井上:私もだよ…。
●●:あ、ここじゃなかったっけ?
井上:あ、うん。じゃ、じゃあ、また明日ね?今日はありがとう。
●●:…こちらこそ、甘く見てくれてありがとう。
井上:バイバイ👋
●●:おう。
ふと、夕焼けに少しだけ水が残っているペットボトルをかざす。
照らす光が一層輝いて見える。
放送:この電車は急行、××行きです。次は…。
●●:ふぅ…。
また、いつものカップルが見える。
でも今日は何だか、いつもとは違う感情が湧き立つ。
ああ、恋なんてするものか…。
恋なんて…するものか…。
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