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"7月"の恋
夏休み前最後の金曜日。
学校に行く足取りはどこか軽く、重い。
浮き足立つ気持ちもあるようで。
もう今日が早く終わって欲しいという思いもある。
正門近くの空き地にはスイセンノウが鮮やかに咲いていた。
教室に着いても、クーラーはついていない。
窓からは熱を帯びた風が押し寄せる。
男1:暑過ぎる…〇〇、なんとかしてくれ…
●●:いくら学級委員でもそんな権限は…我慢してくれ…。
男1:ふざけんなよ…。
●●:ほら、サッカー部は朝練頑張ってるんだし。
窓からグラウンドを覗くと、声を出して練習している姿。
まだ朝だというのに、グラウンドには激しい光が照り付けている。
そして顧問の隣には幼馴染の姿。
冨里:ファイト〜!
輝いている幼馴染の姿を見れば、元気が出るのは自然なことだ。
先生が来るもう少しの間ぐらい我慢しよう。
ーーー
担任:はい、みんなおはよう。いよいよ明日から夏休みだけど、課題もちゃんとな。計画的にやるんだぞ。
夏休みは嬉しいが、夏休みの課題は嫌いだ。
意気込んでも、絶対計画通りにいかない。
そうして、夏休みが終わる直前に"夏休みなんて無ければよかったのに"と思うのがオチだ。
担任:ええっと…1限は全校集会だから、じゃ、体育館へ準備できた人から行こうか。
男1:せっかく教室のクーラーついたのにさ〜、ここないじゃん。
●●:うるさいなあ笑。
冨里:●●〜、先頭!委員の仕事でしょ〜。
●●:ああ、ごめんごめん。
冨里:もう…。
同じ学級委員の冨里。
クラス単位で並ぶときは、学級委員が先頭。
だからいつも隣になる。
ほのかにシーブリーズの香りを感じる。
●●:それより朝練大変だな、お疲れ様。
冨里:ほんと、最近暑過ぎるんだよね…。
●●:今日はもう練習ないの?
冨里:先生が出張でいないから、今日はオフだよ。久しぶりに一緒に帰る?
●●:うん、いいよ。帰ろ?
冨里:オッケー!
サッカー部のマネージャーをやりつつ学級委員でもある冨里。
本当に頼りになる。
幼馴染に富里がいて本当に良かった。そう思う。
かといって、どこかに2人だけで行ったことは数えるぐらい。
今年の夏ぐらいは…。
少し体が火照っているのはクーラーの無い体育館のせいか。
それとも隣にいる君のせいだろうか。
ーーー
教室に戻ってくる。
今日は授業がない。
担任:さっきの話の通り、羽目を外しすぎないようにな。でも、せっかくの夏休みだから楽しむように。
…確か、お盆辺りに夏祭りがある。
いつもは同じ部活の奴らと一緒に行っている。
今年は…。
一度は皆が憧れるシチュエーションで。
いつもと違う姿で行きたい。
担任:ほい、じゃ大掃除。1班は〜…。
●●:はあ、あっつい…。
冨里:ゴミ出しって、学級委員じゃなきゃダメなのかな?
●●:絶対誰でもいいけど、誰も手挙げないだろうから、学級委員に頼んでるんでしょ。
冨里:確かに。あのクラス、委員じゃない子だし…。
●●:暑いし、めんどくさい…遠いんだよ…。
冨里:まあ私はいいけどね〜、●●と一緒だし?
●●:…え、どういう意味…?
冨里:別の男子は信用できないもーん。それに、2人だけの秘密って感じだし!
●●:…。
鼓動が少し早いのも夏の始まりの温度のせいだろうか。
それとも…。
ーーー
放課後。
正門近くの日陰で少し待っていると、冨里が来た。
冨里:ごめんね、お待たせ。
●●:サッカー部のことでしょ?仕方ないよ、忙しいんだから。
冨里:夏休みの練習について話してた。
●●:なるほどね…。
他愛もない話をする。
きっと冨里は夏休みも忙しい。
約束が無ければ、何か理由がなければ。
何も無ければ、このまま夏休み明けまで会えないかもしれない。
そんな孤独は感じたくない。
そんな"夏休みなんて無ければよかったのに"は絶対に嫌だ。
また、季節が過ぎてしまうのは嫌だ。
●●:…なあ、冨里。
冨里:どうしたの、●●?
●●:夏休み、一緒にどっかに行きたい。
冨里:どっかってどこ?笑
●●:ほら…夏祭りとか…。
冨里:ふふっ…笑。わかってるよ、私も一緒。どこかに行きたいんじゃないんだもんね。
●●:…うん。
冨里:いいよ、夏休みどっかいこ?
●●:ありがと…。
冨里:あ、久しぶりに●●の家に行きたいな。
●●:え?
冨里:●●のご飯食べたいな〜。
●●:まあ家の中ならクーラーも効いてるしね、涼しいし。
冨里:やった〜!
●●:ちゃんと出かけることもしたいよ?
冨里:もちろん!夏休み、一緒に色んなところ行こうね!
今までとは少し違う夏になりそうな予感がした。
幼馴染のその笑顔は夕日よりも美しく、眩しかった。
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