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フクエンノアリカタ

一過の感情に任せた結論。

その一瞬と感情は何度もフラッシュバックする。

そして思う。

積み重ねた思い出よりも忘れることが難しいのだと。




また目が覚める。

変わらないこの空っぽな部屋。

身支度をして、いつも通り駅へ向かう。

毎回、玄関で少し立ち止まってしまうのは何故だろうか。

机に置かれた月のネックレスと目が合う。

1人呟く。




〇〇:…いってきます。




電車に乗る。

イヤホンをつけて、喧騒をシャットアウトする。

今日の時間割に目を通して、準備ができているか確認する。

そして、Xでも開こうかとした時。




瑛L:今日、時間ある?話したい。




そんな通知がスマホの上部に表示される。

深く息を吸っては吐く。

何の深呼吸かは分からないが。




〇L:わかったよ。




厚く灰色の雲に覆われた空が目に入る。

窓に映る景色は何故かゆっくりに見えた。







ーーー







午前の授業は全く身に入らなかった。

不安と期待と痛みと嬉しさが混ざる。

まるで心は小学生の筆洗のようだった。




瑛紗:久しぶり。

〇〇:おう。元気にしてた?

瑛紗:まあまあかな。




会う約束をした場所。

それはかつて想いを伝えた噴水広場だった。

池に浮かぶ布袋葵は咲き始めていた。




〇〇:で、話っていうのは…?

瑛紗:…。

〇〇:瑛紗?

瑛紗:…もし、許してくれるなら…。

〇〇:…。

瑛紗:もう一度、付き合って欲しい。




何となくわかっていたこと。

だが、それを言語化された時。

ますます筆洗は汚れていく。







〜〜〜







きっかけは些細なことだった。

誕生日を迎える君のために、プレゼントを探していた。

付き合ってから初めての誕生日。

高くなくても、なるべく想いのこもった物を渡したかった。

だからいろんな友達に相談した。

それがたとえ、女友達であろうと。

その子とショッピングモールに行って、あーでもない。こーでもないと探し回った。

それを別の友達に見られているとは知らず。

そして見つけた金色のネックレス。

これだ、と思った。

そして次の日。




瑛紗:友達から聞いたんだけど、昨日のこと。

〇〇:…え?

瑛紗:…女の子と歩いてる姿を見たって。

〇〇:…。

瑛紗:…どういうつもりなの?




今思えば、素直に言えば良かったんだ。

でもサプライズにしたかった。

不器用だった。




瑛紗:ねぇ、答えてよ!

〇〇:それは…待ってほしい。

瑛紗:どういう意味?ありえないんだけど。

〇〇:お願い、1週間待ってほしい。答えが分かるから。

瑛紗:無理。今すぐに言って!




そこからはもう覚えていない。

でも去り際に確かに言われたことは忘れられない。

"もう絶対、〇〇とは会わないから!"

そのセリフはまさに君の性格を表していた。

疑い深くて、わがままで強情な君を。







〜〜〜







今にも泣き出しそうに、苦しそうにする君。




瑛紗:やっぱり…ずっと…寂しかった。




そんなセリフ、言って欲しくなかった。

振り返らない君が良かった。

その方が自分だって忘れられただろうに。

この1ヶ月。

愛していたのに伝わらず、あんな別れ方をしたこと。

まるで癌のように、ずっと心を蝕んでいた。

自分だって…自分の方が…。




瑛紗:何であの子と一緒にいたのかも聞いた。

〇〇:…そう。なら…良かった。

瑛紗:もっと私が…。

〇〇:それは違う。だって…お互いのせいだから。

瑛紗:相変わらず、〇〇は優しいね。

〇〇:…。

瑛紗:……答え、教えてくれない…?

〇〇:…ごめん、考えたいから…ちょっと待ってくれない?

瑛紗:わかった。待ってる。







ーーー







帰り道。

いつもよりも足取りが重い。

きっとその言葉を待ち侘びていたはずなのに。

何故か素直になれない。

その言葉を許してしまえば、また同じ過ちを繰り返すかもしれないからだろうか。

考えれば、考えるほど分からなくなっていく。




〇〇:ただいま。




重い荷物を下ろして、体をベットに沈める。

考えたって、反省したって過去が変わるわけじゃない。

この1ヶ月が戻ってくるわけでもない。

我慢していた何かが溢れそうになる。




そんな時だった。

ふと、目の前が明るくなる。

雲に隙間が少しだけできて、日の光が差し始めた。

そして、机の方を見る。

輝いているネックレスが目に入る。




…もう考えるのはやめにしよう。




〇L:また、よろしく。




そう送って、スマホをそっと充電器に置いた。

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