銀河鉄道は"約束"を乗せて…
銀河鉄道。
それは幾度となく、多様な形で、時代を超えて作品に残るほど魅力的な物。
輝く星空の中を駆ける列車。
…それは徐々に失われていく光景。
かつて日本には数々の夜行列車があった。
しかし、さまざまな理由から消えていった。
そして今、残されている最後の定期夜行列車。
それが…寝台特急サンライズ瀬戸・出雲号。
通称…
"サンライズエクスプレス"である。
ーーー
運転手:ええっと…1900円ちょうどですね。ご利用ありがとうございました。
〇〇:ありがとうございました。
駅に着く。
卒業後、就職した会社から命じられて来たこの街から、君のいる街までの600kmを超える旅。
昔、君と一度だけ観光でこっちの方に来た時…
美波:ねぇ。夜行列車、乗ってみない?乗ってみたかったんだよね。
その一言でサンライズエクスプレスに乗ることにした。
…お互いにバイトを頑張った。
勿論バスや、下手すれば新幹線を使う方が安いこともある。
不便なこともたくさんある。
シャワーしかないし、コンセントも1つ。
第一、列車の中だ。
でも…あの景色は今でも鮮明に覚えている。
電気が消えた部屋。
フリースペース。
2人で並んでそこから見た景色は…何とも言えなかった。
まさにそれは子供の頃に憧れた、銀河鉄道の姿。
そして…隣にいた君の横顔。
それは忘れられない。
今日は…どうしても銀河鉄道で行きたい気分だった。
"約束"を君と交わしに行くからだろうか…。
でも、そんな気分だった。
ーーー
放送:(〜♩)お待たせしました。4番乗り場に、22時34分発、特急サンライズ瀬戸・出雲号、東京行が7両で参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで…
〇〇:…ふぅ。何か緊張するな…笑。
列車がやって来た。
忘れ物がないか確認して、乗り込む。
今日、乗車する個室を照らし合わせる。
出雲からのもう7両を連結すれば発車。
微かに合図が聞こえ、ゆっくりと走り出した。
ーーー
あの時と同じように部屋の電気を消して、流れる景色を眺める。
月と星が綺麗に見える。
流れゆく景色に胸が高鳴る。
あと、約9時間。
君はどんな顔で迎えてくれるだろう。
〜〜〜
美波:こういうこと、ずっとしてみたかったんだよね。
〇〇:夜行列車っていう手は思いつかなかったな。
美波:景色、綺麗だな…。
〇〇:良かった、バイト頑張って。
美波:…?
〇〇:2人でちょっと頑張って見れた景色だから、尚更沁みるな〜って思って。
美波:そうだね。計画立ててくれてありがと。
〇〇:全然。こちらこそありがとう。
〜〜〜
すっかり夜は深まり、もう間も無く日付が変わる。
港町の灯りをそのままに、きっと忘れられない日になる明日を想って。
ゆっくりと眠りにつく。
部屋に大切に置かれている"リング"が、キラキラと照らされていた。
"約束"を乗せた銀河鉄道は、散りばめられた光の中を駆けていく。
ーーー
〇〇:…ふわぁ〜。
放送:おはようございます。列車は間も無く…。
朝日に照らされ、目覚める。
サンライズエクスプレスの名に相応しい、美しい朝日。
もうあと少しだ。
〜〜〜
美波:もうすぐ着いちゃう…。
〇〇:すっかり朝だね。
美波:ねぇ、〇〇。
〇〇:…?
美波:いつか…こうやって2人でずっと過ごせたら良いな…。
〇〇:…!
美波:…ねぇ、恥ずかしいからなんか言ってよ//
〇〇:ほぼ、プロポーズじゃん…//
美波:…プロポーズはちゃんとね…?
〇〇:…いつか、そうなれば良いな。その時は今日を、きっと思い出すだろうな〜。
美波:そうかもね…。よろしくね?
〇〇:…うん。
〜〜〜
放送:東京〜、東京。ご乗車ありがとうございました。
〇〇:…よいしょっと。
久しぶりに降り立つこの駅。
どこか無愛想な放送。
人、列車の多さ。
いつもの場所とは比べ物にならないほど騒がしい。
でも、その騒がしさは一瞬で消えた。
…待っている君が見えたから。
〇〇:美波、久しぶり。
美波:久しぶり、元気そうで良かった。
言葉の冷静さとは裏腹に、君は抱きついて来た。
お互いのことはもう、手に取るように分かり合えている。
ーーー
美波の家へ向かう道。
美波:…やっぱり、寂しかった。
〇〇:…俺も。
美波:急に来るって言うから、びっくりした。どうしたの?
〇〇:…今日は報告しに来たんだ。
美波:…報告?
〇〇:うん。まずはね、4月からこっちの本社に転勤になる。
美波:えっ…?!
〇〇:驚いた?笑
美波:もっと早く言ってよ〜!
〇〇:ごめんね、びっくりさせたくて。
美波:…じゃあ、こっちに住むってことだよね…?
〇〇:うん、そう。それでさ…。
美波:…?
何年経っても、何km離れても、何があっても、変わらなかった想い。
照れ合いながら交わしたあの日の約束。
〇〇:今まで本当に沢山沢山ありがとう。美波が居なかったら、ここまで来れなかった。
美波:…。
〇〇:ずっと、転勤になれば伝えようと思ってた。…梅澤美波さん。
美波:…はい…。
"僕と結婚してください"
銀河鉄道が乗せた約束。
いくつもの山を…川を…夜を超えてたどり着いた。
毎日同じ時間を走っていても、二度と同じ世界は走らない。
僕らも…列車も…いつか必ず終わる日が来る。
それでも毎日、終着駅へ向けて走り続けている。
…そして僕らは今、新しい線路を描き始めた。
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