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想いの涯には何が待っているか?

街から灯りすら消え、闇に包まれる頃。

理由なんか無いのに、行き先なんて無いのに…また外へと出てしまう。

心の微かな痛みがそうさせているのか。




〇〇:はぁ…。




イヤホンから流す、いつもの曲の言葉の節々が刺さって、嫌になる。

こうなるぐらいなら、出会わない方が良かったかもしれない。







〜〜〜







何ら変わらない日。

学校に行くと、いつも通り声をかけてきた。




蓮加:おはよ、〇〇!

〇〇:おう…相変わらずだな…笑。

蓮加:いつも通りテンション低いなぁ…笑。

〇〇:だって朝だよ…?




こんなやりとりを何年しているだろう。

小学校から、ずっと隣には蓮加がいた。

当たり前に蓮加がいた。




男1:〇〇〜、課題見せてくれない?

〇〇:課題?

蓮加:え、課題なんてあったっけ?

男1:ほら、あの〜…英語の語句のプリントのやつ。

〇〇:あ〜、あれね。ちょっと待ってね…。

男1:マジ助かる!

蓮加:…。

〇〇:はい…って、蓮加さん?笑

蓮加:私にも見せて…。

〇〇:仕方ないなぁ笑。




そんな"日常"を過ごしていた。

…はずだった。







ーーー







昼休み。

いつもならあいつとご飯を食べる。

だからもちろん今日もそうだと思っていた。




男1:ごめん、今日は用事あるから一緒に食べれないわ。

〇〇:珍しいな、どうした?部活とか?

男1:いやいや、ちょっと呼ばれたから行くだけ。

〇〇:へぇ。まあ部活なら自分も呼ばれるか。

男1:明日は大丈夫だと思うから、すまん!

〇〇:おう。




珍しいと思いつつ、一人で中庭の楓の木の下にあるベンチで食べる。

雲は少しあるものの晴れていて、砂埃を纏ったそよ風が吹き抜ける。

ついた砂を少し払って、教室へ。

まだあいつの席は空いていた。

そして5限の授業が始まる直前に帰ってきた。




〇〇:ギリギリじゃん笑。大丈夫か?笑

男1:まぁ…ね。で…次何だったっけ?

〇〇:現代文。ほら、もうすぐ始まるぞ。

男1:サンキュー。




その時、それに続いて蓮加も帰ってきたのを僕は見逃していなかった。







ーーー







担任:はい、日直号令。

日直:起立、気をつけ、礼。

クラス:ありがとうございました。

男1:〇〇、行くぞ?

〇〇:ちょっと待ってな、係の仕事があるから。

男1:じゃあ、先に行って待ってるわ。

〇〇:顧問にもそう言っといてくれ。

男1:了解!

〇〇:助かる。




担任に言われた掲示物の交換をする。

説明会とか、奨学金とか、インターンとか…そんな掲示物ばかり。

将来に向けて動き出しているようなそんな気がした。

すると蓮加が話しかけてきた。




蓮加:ちゃんとやってる〜?笑

〇〇:当たり前だろ笑。こっちは早く部活行きたいんだよ笑。

蓮加:あ〜、それもそっか笑。

〇〇:なんか用事?

蓮加:ちょっと忘れ物。

〇〇:蓮加もちょっと抜けてるとこあるよね〜。

蓮加:ちょっと、どういう意味?!

〇〇:だって、課題も忘れてたし笑。




教室には2人だけ。

まるでそのタイミングを狙った様に思われた。

そんな時に蓮加が唐突に言ってきた。




蓮加:〇〇…さ、好きな人いる?




今まで、好きな子の話なんてしたことがなかった。

だから正直驚いた。




〇〇:う〜ん…いないかな。




あまりにも蓮加と一緒にいたからだろうか。

特別、誰か女子のことを意識するなんてこともなかった。

恋というものを知らず、愛というものを知らずここまで。

だから蓮加への想いも"恋愛"的な感情なのかは分からなかった。




蓮加:…そっか。

〇〇:なんかあった?

蓮加:ううん、別に!時間とってごめん、部活頑張って!

〇〇:お、おう…。




その一瞬。少しばかり、距離が遠くなった気がした。

違和感を塞ぎ込んで、部活へと向かった。







ーーー







〇〇:はぁぁぁぁー…しんど…。




部活を終えての帰り道。

もうクタクタだ。

部活のみんなとは帰り道は違うし、蓮加とは部活の終わる時間が違う。

だから結局、いつも1人で帰っている。




今日は我慢できずにコンビニでぶどうのアイスを買ってしまった。

そして、自動ドアを出て家へと向かおうとした時。

あの違和感の正体、そして昼休みの用事の内容が分かることとなる。

そこには親友と幼馴染が手を繋いで笑い合っている後ろ姿があった。

もし、コンビニに立ち寄らなかったら…。







〜〜〜







当てもなく歩く今。

言葉にできない、説明できない喪失感が襲う。

大切な存在。その存在に対する本心というものは失って気づくのか。

今まで一度も意識したことはなかったが、無意識に"大切な存在"だと思っていたのだろう。

微かな胸の痛みはその本心を教えてくれる。




これから、ずっとあの2人を見続けなきゃいけないのか。

幼馴染と親友。

幸せな終わり方なんて、一握の人間だけだ。

悲劇的な終わり方もそれは同じ。

本当に辛い終わり方は…

区切りを付けられないことだ。




予報通り降り出した雨。

道端の紫陽花も打たれて花びらが垂れる。

傘は右の手にあるのに。

僕は天からの無数の粒に体を預けた。

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