"君"とは… Episode 3
GWは終わり、久しぶりに賑やかな廊下を通って自席へと向かう。
カラオケも"そこそこ"楽しく、思っている以上にGWは満喫できた。
"そこそこ"なのは、カラオケからの帰り道、川﨑や山口たち元生徒会メンバーの一部に井上との一件を話したからだ。
その数人は自分が井上のことをどう思っているか…を知っている。
●●:…っていうことがあってさ。
女1:それ"都合のいい男"みたいに扱われてない?
女2:うん。"去年の花火大会"みたいに。
川﨑:そんな悪く言わないであげてよ。●●が楽しかったんだしいいでしょ?
男1:本当に"一途"だよな、●●。俺の彼女にもそんなことできねぇや。
山口:おい、そこは"一途"に思ってやれよ。
川﨑:本当だよ、あの子に言いつけるよ?
●●:まぁまぁ、やめとけって…。
去年の花火大会、井上は川﨑や女2と行く約束をしていたが、予定が合わず女2が来れなくなったことから呼ばれた。
去年から有料になった花火大会の観覧席。確保した3人分の席の1人分を埋めるために…。
"都合の良い男"という言葉が頭にこびりついて消えない。
客観的に見れば自分はそんな存在なのか…と。
"一途"に思っていれば、中西なんかと付き合っただろうか?
あの時の自分はきっと井上との関係が壊れることを恐れて"妥協"したんだ。
そんな関係、今思えば長く続くはずがない。
決して中西のことが好きではなかったとは言わない。
…が、果たして中西のことが"1番"好きだったか…。
それには黙ってしまう。
中西は悪口を度々言っているらしい。
さらには別れてからもう3人も別の男と付き合っているらしい。
最近知った。
奴のせいで別れたのに、自分は悪口1つ言うどころか何も語れない。
恋愛をすることに億劫になったというのに、少しの罪悪感が自分にはあって。
本当に奴のせいだというのに。
嫌なことばかりを思い出してしまった。
ーーー
雨が続くこの頃。
定期テストや模試が重なるこの時期。
いつもと違う時間に終わる学校。
残って勉強する者、使われない黒板にアートを描く者、塾に行く者、試験勉強のご褒美に遊びに行く者、早く帰って寝る気しか無い者…。
そして、雑談に花を咲かす者…。
テストは嫌いでも、そんな非日常的な学校が何となく好きだ。
気づいた時には"恋バナグループ"の中にいた。
と言っても、川﨑の周りにいるいつものメンバーだ。
今日は2組の一ノ瀬美空、3組の黒岩修もいた。
女1:中西、今度は彼氏いるのに、友達の彼氏に乗り換えようとしたらしいよ。
男1:流石、次から次へと…すごいな…。
一ノ瀬:それ私も聞いた。友達と険悪なムードになってるって。
●●:……。というか、意外とみんな付き合いだしてる気が…何となくだけど。
女2:私も確証はないけど、見てる感じそうっぽい人はいっぱいいる気がする。
川﨑:みんな、受験生だから恋愛しないみたいな感じは無いんだね。
黒岩:俺は人のこと言えないからな。
山口:本当にすごいよなお前ら。よくそんなラブラブで成績もついてくるわ。
一ノ瀬:へへへ。まあ修のおかげかな…?教えてくれるし!
女2:いいなぁ〜。羨ましいわ。
黒岩:まあまあ😚 あ、美空。時間だしラーメン食べに行こう。
一ノ瀬:分かった!じゃあ片付けしてくるね!
男1:ラーメンデート…。
川﨑:うわぁ…見せつけやがって!
また悪い噂を聞いてしまった。
時間が経てば経つほど、悪い奴だったんだと思わされる。
一ノ瀬と黒岩を見ていると、やっぱりそんな存在は欲しくなる。
相手は誰でもいい…訳ではないが。
少し気分が悪くなってしまった。
●●:…じゃあ、そろそろ帰るわ。
川﨑:…。
山口:おう、早いな今日は。じゃあな!
他:お疲れ〜!
ーーー
駅までの帰り道。
さっきまでのことを思い出す。
●●:羨ましい…。あいつで高校の恋愛を終えたくない。
そんな言葉が口を突いて出た。
"青春"が奴で終わるのは、堪え難い苦痛になる気がした。
川﨑:ハァハァ…やっぱり。そんなことだろうと思った。
●●:気づいてたか。あいつらやっぱり無意識に俺の心刺してくる。
川﨑:…うん。そうだね。私も…。
●●:…お互い、難儀な恋してるな。
川﨑は3ヶ月前、3年連れ添った彼氏と別れた。
"勉強に集中するため"は取り繕った理由だろう。
自分は何となく、2人の心の擦れ違いを感じていた。
以来、相手だった彼にも川﨑にも新しいパートナーが出来ていた。
しかし、川﨑はすぐ別れてしまった。
獲られてしまった元彼。川﨑は叶わぬ想いに苛まれていた。
川﨑は周りには元気なふりを見せているが内心、至極疲れていた。
唯一、"叶わぬ想い"が分かり合えた。
一通りの会話が終わって、改札に着いた。
●●:お互い、溜め込まないようにしないとな。
川﨑:●●も何かあったらすぐ言うんだよ?
●●:おう。
川﨑:じゃあ気をつけて!バイバイ👋
自分とは反対方向のホームへ向かう川﨑を見送った。
井上は川﨑と同じ方向の電車でいつも帰っている。
2週間に一回ぐらい、井上と帰る日がある。その時もこんな風にホームへ降りる階段の前で相手の姿が見えなくなるまで待つ。
君という存在を意識してしまうと、周りの全てが切なく感じ始めてしまう。
ホームに降り立つ。
鳴ったLINEの通知は…
君からではなかった。
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