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Sissy…

アラームが鳴る。

見た夢は瞬間的に忘れてしまった。

幸せな気持ちだけがほのかに残っている。

体を起こすとその幸せはすぐに消え、現実と共に憂鬱な気持ちが立ち込める。

暑苦しい、夏の温度のせいではない。

それは分かっている。




賀喜母:遥香〜。ご飯できてるから早く降りてきなさい。

賀喜:…は〜い。




いつも通り忙しなくご飯を食べて、準備する。







ーーー







日差しが照りつける通学路。

大体いつもこの辺りで。




遠藤:かっきー!

賀喜:さくちゃん!おはよ。

遠藤:今日も暑いよ…。

賀喜:1週間は猛暑日らしいからね。

遠藤:もう…嫌だよ…しかも今日、体育あるし。

賀喜:まあまあ…仕方ないね。




さくらと合流する。

親友…なのかな。

高校に入って初めてできた友達。

いつもキラキラしてるし、ちょっと抜けてるところもある。

愛されキャラ。

それでもなんだかんだ私と一緒にいることが多くて、私は嬉しい。




2人でクラスに入る。




遠藤:あ、〇〇!また私の席占領してる!

●●:お、さくら。おはよ。

遠藤:おはよ、じゃないよ。ちょっとどいてよ。

●●:はいはい、ご要望の多い幼馴染だこと笑。賀喜さんもおはよ。

賀喜:お、おはよ、●●くん!




朝、さくらの席には大抵●●くんがいる。

バスケ部の部長。

いつもキラキラしてるし、笑顔が素敵。

それでいてすごく真面目で優しい。

私にとっては強烈な光。

朝のほんのわずかな一瞬でも、少し熱を帯びてしまう。

でも…いつもその気持ちはなんとか抑え込んでいる。







ーーー







数学が終わった。

次の時間は体育なので、急いで体育館へ。




遠藤:あの先生、いつも伸びるよね〜。

賀喜:何回も次は体育だって伝えてるんだけどな。

遠藤:ふわぁ〜…眠いよ…。

賀喜:体育でもその調子じゃ、ボールに頭ぶつけるよ?笑

遠藤:それはダメ!なるべく活躍しなきゃ!

賀喜:"バスケ"…だから?笑

遠藤:も〜、かっきー、やめて//

賀喜:いつも通りで大丈夫だって!

遠藤:だって〜、かっきーは経験者だもん…。




「幼馴染でずっと一緒にいるなら…」

そんな言葉は堪えて。

「私も…」

なんて想いは塞いで。

私は"親友の恋を応援する友人"を演じているのかもしれない。





バスケは6チームに分かれる。

体育委員が前に立って決めていく。

大体こういう時は、経験者を均等に分かれるようにする。

その後、残った人達はランダムで振り分けていく。

だから私は一緒になれない。

それでも、彼のプレーを。

いや、彼の姿を審判をしながら追いかけてしまう。

どうやら今日はさくらと●●くんが一緒のチームになれたみたい。

嬉しそうな目線を向けてくる。




女1:かっきー?パス練するよ!

賀喜:わかった!








ーーー







遠藤:〇〇は鈍感なのかな?だって、ボール当たって「大丈夫?」って頭撫でて来たんだよ!

賀喜:確かにね…ちょっとわかるかも。

遠藤:でしょ?




昼休み。

いつもの場所で、2人でご飯を食べる。

今日の話題はもちろん、体育のこと。




賀喜:幼馴染だから普通なのかな?

遠藤:う〜ん…でも、そんなの見たことある?

賀喜:…漫画とかなら笑。

遠藤:ほら〜、やっぱそうじゃん!

賀喜:だから、やっぱ鈍感なのかもしれないね。




共感は時にナイフになる。

優しさで包み隠した鋭利な刃に。

期待や不安を助長させる。




遠藤:周りにはバスケ部のマネージャーだっているし、クラスにいっぱい可愛い子いるし…。

賀喜:…幼馴染っていうアドバンテージがあるじゃん!笑

遠藤:アドバンテージにもなるけど…さ。

賀喜:逆にずっと一緒に居過ぎて…ってことか〜。

遠藤:もう、無理かも…。

賀喜:さくちゃんなら大丈夫だよ!




ヒロインみたいな呟きに、私は無責任な言葉を飛ばす。

そんな私に失望してしまう。

大事にしたい友達に対して、まるで"友情ごっこ"をしている自分に。

でも、きっとみんなそうじゃないのかな。

同じ立場なら。

親友と同じ人を好きになってしまったら。

親友の方が脈アリに見えてしまうなら。

「白旗振って、応援できる?」

そんな独り言を心で呟いて、保っている。







ーーー







放課後。

さくちゃんは吹奏楽部なので、ここでお別れ。

バスケ部は男女に分かれて、体育館を半分にして練習する。

今日は一段と暑い。

さっき、夕立が降ったせいで蒸し暑くなった。

それでも彼を見ていると不思議と暑さは忘れてしまう。




マネージャー:はい、みんな休憩!

顧問:今日は特に暑いからな、10分間体を休めようか。

全員:はい!




賀喜:ふぅ…汗すご…。




水道で顔を洗って、冷やす。

隣で蛇口の音が聞こえた。




●●:賀喜さん、お疲れ。

賀喜:あ、●●くん!お疲れ様。暑いね。

●●:ほんとだよね。しばらくはこんな感じか…。

賀喜:蒸し暑いし…外の方が今は涼しいかも。

●●:10分あるし、ちょっと外出て行こうかな。

賀喜:そうだね、余裕あるし。

●●:せっかくだし、一緒に行こ?

賀喜:え…?

●●:ほらほら早く、休憩終わっちゃうから!




●●くんと一緒に…。

たった数分でも。

あ、蛇口閉めたかな。

そんな、たったさっきまでのことを忘れてしまうぐらい感情が昂る。




●●:ん〜、やっぱちょっと涼しい。

賀喜:風もあるしね。

●●:あ、制汗シート1枚あげるよ。

賀喜:いいの?

●●:もちろん。その方がもっと涼しいでしょ?

賀喜:ありがと…。




皮膚の表面は涼しく思えるかもしれないけど。

心は熱くなってしまう。




●●:あ、ここの花壇の花はまだ咲いてるんだ。

賀喜:日陰だし、元気なのかも。

●●:そういえば、うちの学校の用務員さんは丁寧だって聞いた気がする。

賀喜:そうなの?

●●:友達に親が花屋さんの人が居て、なんか感じたらしいよ。

賀喜:へぇ〜。

●●:紫っぽい花って涼しげでいいね、こんな暑い日に。

賀喜:確かにそうかも。ちょっと空も茜色だし、なんかいい絵が描けそうだね。

●●:そうだ、賀喜さん絵が上手いんだよね。

賀喜:アニメとかが好きだから、その延長でだけどね?

●●:俺には絵心がないから羨ましいよ…笑




そんな他愛もない話が幸せ。

休憩が終わって、また練習が始まっても頑張れた。







ーーー







帰り道。

夏だからまだ明るい。

それでも帰りは少し寂しさを感じる。

ふと振り返れば、私と同じ制服を着たカップルがいる。

もどかしいこの気持ちは、消える気配がない。

幸福にもなれて、不幸にもなれる。

この複雑な感情の呪縛はいつになったら解けるのか。

変わらない現実。




賀喜:はぁ…。




空に向かって大きくため息をついた。







ーーー







男1:じゃあな、また明日。

●●:おう。




友達と分かれて学校の方を向く。

バスケ部部長。

それでも周りには"バスケ"のライバルがいる。

…そして別のライバルだって。




●●:明日はもっと話せるかな…







"筒井さん"と。

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