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ハッピーな誕生日 ソロ行動編


下半期初日。私の誕生日である。
7月1日は分かり易いし夏っぽいし素数で縁起が良さそうだしで割と気に入っている。
だからといって盛大に祝われたいという気持ちも、誕生日プレゼントが欲しいという思いもそこまでではない。むしろ家族から「何が欲しい」と聞かれて「思いついたら言うね」と返してずっとそのままであることが多い。欲しいものあるはずなんだけどな。

ここ数年、誕生日は大抵バイトが入っていた。去年も確かそうだったし、一昨年もその前の年も一日中普段通りに過ごしていた。
あんまり思い入れもないことだし良いかと思っていたが、今年はシフトが入っていないことに気がついた。スケジュール表にはそこそこ予定が書き込まれていたが、7月1日だけぽっかりと白い穴が空いていた。
それを見た私はどうしてだか身体の芯がゾクゾクする感覚に襲われたのだ。

「つまり何をやっても良いってこと…?」
※多分違う

そうと決まれば、自分のやりたいことをやってやろう。
その日は一人で好きなことをお金を気にせずに(ココ重要)やると決めた。
そして当日を迎えたのである。

やりたいことはそこまでない。
私の欲求は至ってシンプルであった。美味しいものを食べて限界までお酒を飲みたい。
前日夜遅くまで働いていたため、朝は余裕をもって9時頃に起床。
数件「誕生日おめでとう」とLINEが届いていたため、一人にはすぐ返して、もう一人は非表示にして、一人は一旦保留にした。(内訳:大学の数少ない友人、苦手な先輩、好きな先輩)

今日お昼にやることは決めていた。イスラエル料理を食べる。
就寝する前に調べたのだが、どうやら東京のよくわからない駅にあるらしい。
何故イスラエル料理を食べたいかは、私の個人的に勉強している分野に由来する。
アメリカのユダヤ移民について幾分か興味があり、最近は専らイディッシュ語を勉強(duolingoで)しているからだ。
ユダヤ移民の生活に関して興味があるくせに、ユダヤ料理について全く知見が無いし食べたことあるのはセブンのバブカくらい。(抹茶とホワイトチョコのバブカの再販待ってます) その時はユダヤ人が発祥とすら知らずに「あまあまデニッシュパンおいし〜」と思って食べていた。ちなみにバブカのイディッシュ語表記はבאַבקע、たぶん。

だから朝ごはんは抜きにして、着替えたり顔面を整える作業だったりを行うのみ。
あとはペットのインコと少し戯れたり。
そこでふと、先輩のLINE返してなかったなと思い出した。(好きな先輩の方ね)
なぜ咄嗟に返さなかったかは、我々の状況にあった。去年?一昨年?からずっと会おう会おうと言いながら結局タイミングが合わなかったりなんなりで会っていなかったのだ。
「誕生日おめでとう」という文言のほか「会おうって言いながら連絡してなくてごめん(意訳)」も添えられていたため、なんて返そうかと思っていたのだ。
まあここは無難に「ありがとうございます」と「大丈夫です、また会いましょう」を脳内選択した。
すると思いのほか先輩からの返信が早く、今日の昼間空いてるかと言われた。たしかにイスラエル料理を食べた後夕方までどうしようかと悩んでいたのだ。
私の都合も完璧な上、今のタイミングを逃したらまたいつ会えるか分からなかったから会うことになった。
ここで私が思ったことは「一人って最高!だってこんなに自由なスケジュールだって組めちゃう!」であった。

お気に入りのワンピースを今年初めて着た。だって誕生日だから。
成人祝いに親戚から貰ったcoachの鞄にした。だって誕生日だから。
久々に派手なオレンジのリップをつけた。だってお外はこんなにも夏なんだもの。

そんなこんなで終始ウキウキの私は電車に乗り込んだが、東横線が遅延していた。
特急が運休になっていた。まあ良いだろう。幸い誰とも待ち合わせをしている訳ではない。この気持ちの余裕も一人行動だから成せる技である。
そのせいか平日の昼間なのに車内は結構人がいた。斜向かい座っていたJKの鞄にはクロミちゃんのトレカ用ホルダーに入れたヘルプマークがぶら下げられていた。よく分からない感情に陥った。

イスラエル料理屋さんの最寄駅を降りて、真昼間の灼熱を直に浴びてしまった。暑いもあるけど日差しが痛い。肌がチリチリと焦げていく感覚に耐えかねようとしていたところに、ヘブライ文字風のローマ字で書かれた看板が現れた。
「わーい本当にあった〜」という気持ちで店に入るとそれはそれは静かなお店だった。つまりお客さんが私一人。
イスラエル人だか分からないけど店員のお兄さんに案内されて端っこの席に座る。メニューはランチセットだけだった。本当はいろんな料理を単品で頼みたかったけど、豆と野菜のシチューのセットを頼んだ。フムスっていうひよこ豆をペースト状にしたものと薄いパンみたいなピタパンも出てきた。サラダも出てきた。
本当はイスラエルのビールを飲みたかったけどなかったからアサヒのビールにした。
しばらく食べて気がついたのだが、ここ数日私はこのような副菜とか主食とかがしっかりしている食事をまともに食べていなかったし前日は朝にパンとアイスと夜には朝りんごゼリーくらいしか食べていなかった。それに加えて今朝は何も食べていない。つまりはとんでもなく胃が縮んでいたのだ。

そんなお腹にまともな食事(しかも膨れるビール付き)を入れてしまったことで、中盤にして私のお腹は見事パツパツになった。
苦しい、加えて客が私一人の所為で店員がずっと私を見ている。それもまた苦しい。
いやお兄さん私のこと見過ぎでしょ。セット内容に食後の紅茶が含まれているため、私の食事の様子を終始見ている。なぜなら客が私一人しかいないから。もっといろんなところ見ていいよ!?
店員のお兄さんの熱烈な視線を感じながら、ランチセットを完食した、と同時と言っても過言ではないくらいのスピードでお兄さんによって食器が片された。早っ。そして紅茶が出てきた。早っ。

紅茶、イディッシュ語で書くとטײ(タイ)、たぶん。コーヒーはקאַװע(カヴァ)だった気がする。
紅茶はほんのりハーブの香りがした。スッキリとした後味で美味しかったが、いかんせん今の私の腹はすでに限界を超えていた。紅茶すら苦しいだなんて想定外である。
そんな中店員のお兄さんは相変わらずカウンター越しにこちらの様子を伺っていた。あれ?早く会計を済ませて欲しいってこと?刺さる視線に気まずさを覚えて、なんとか飲みきって会計を済ませたのであった。

先輩から新宿を指定されたので14時半に新宿駅に着いた。15時と言われたのでどうやって時間を潰そうかと、流れで小田急百貨店へと入る。意味もなくエスカレーターを上っていると、催事場でインコのグッズが売られていることに気づいた。因みに私はコザクラインコを飼っている。
今日はついてるな〜と思った。誕生日は運とテンションにバフがかかるらしい。一通り見て、コザクラインコの刺繍が施されたハンカチを購入。可愛い。

先輩と15時過ぎに合流。久々に会った先輩は目が良いのに眼鏡をかけていた。クリアな縁がかわいい眼鏡だった。暑さからかき氷を食べたいと言った先輩の言葉に、先ほどかき氷屋を見かけたことを思い出す。なんて都合がいい。蕎麦屋みたいな回転率のかき氷屋だった。そこでサークルの話をした。LINEを未読無視している方の先輩の話をしたら(ここにいる先輩の1個下の後輩に当たる)、「私がこうやって君と話をしていることは当たり前じゃないってことに感謝しなきゃね…」とつぶやいていた。いや、そんなに私はありがたい存在じゃないですよ。

場所を変えて西口の純喫茶へ。そこで先輩から誕生日プレゼントのアイシャドウを貰った。これに合うアイライナーを探そうと近くのコスメショップに行った。とっても女の子っぽいことをして最高に楽しかった。その後は駅前の広場で写真を撮ろうと言われた。先輩曰く、自然光が一番盛れるらしい。私はそこまで積極的に自撮りなどをしないから、こうやって写真を撮る機会があるのは良いなと思う。少し前まで自分が写ることは苦手だったけど、最近は自分いる写真も思い出として強固な存在になるからいいなあと思い始めた。
まあそんな感じでフィルターのかかった自撮りをして先輩とは解散。
これからどこ行くの、と聞かれたから、地元でしこたま酒を飲みますとだけ伝えた。

山手線の駅のホームは蒸し暑かった。まだ7月の初日だと言うのに今年はなんて暑さだろう。金曜の夕方の電車はそれなりに人がいた。それなりに人が居ない電車の方が少ないのだけれど。
地元の方に戻ってきた。東京じゃない安心感。東京っていつも尖ってるから少し苦手。
落ち着くのはやっぱりここなのだ。

今日はいつも行っているお店をハシゴしようと決めていた。いつものお店その①、日本酒とジンギスカンが美味しいお店。カウンターが7席くらいの小さいお店。ガラガラと扉を開けたらご主人だけが居た。
「いらっしゃい。誕生日おめでとう」と開口一番言われた。「ありがとうございます!」
大体最初はシークワーサーサワーを飲む。ビールは腹に溜まるから普段はそんなに飲まない。「別に誕生日プレゼントとかは用意してないけど」と言われた。いや、自分が誕生日を謳歌しているときに言われるおめでとうが一番気持ち良い。
なんだかんだご主人は「プレゼント」と言っておつまみをいっぱいくれた。えー、やだ嬉しい。
カウンター席の奥から2番目に座っていると、2人のお客さん(紳士とマダム)がやってきた。ご夫婦だろうか。この居酒屋は知り合いも多いがこの2人は始めましてだった。ご主人が親しげに話している横で2杯目のお酒である日本酒(この時は鳳凰美田)を飲んでいると、「今日この子誕生日なんですよ」とご主人が2人に向かって言った。
「誕生日なん!?おめでとう!」と言ってくれて、嬉しい気持ちになりながらお礼を言えば、「そういやここのケーキ屋まだやっとるかな」とマダムが呟いた。えっ。
そう、このお世辞にも綺麗とは言い難い飲み屋街の中(しかもかなりディープな方)、なぜかここの居酒屋があるビルの横にとても綺麗なケーキ屋さんがあるのだ。
「ちょっと待っとってな、ケーキ買うてきたるわ!!」
そんな軽快な声と共にマダムが一旦店を出たと思えば、数分後小さい白い箱を持ったマダムが戻ってきた。えっ。
箱を開けると丸い形の苺のケーキが合った。え〜!!!!絶対美味しいやつだ!!
ご主人が「ろうそくあるよ」と言って、お誕生日用のろうそくを徐に出してケーキに刺してくれた。「せっかくだし歌うか」そうして小さな居酒屋に私以外の3人の歌声が響いた。

ハッピバースデ〜トゥーユ〜 ハッピバースデ〜トゥーユ〜…

この歌を歌ってもらうことなんてもう何年振りだろうか。下手したら小学生とか中学生ぶりだから10年ぶりとか?
めちゃくちゃ上機嫌で火を消して、ケーキを食べる。居酒屋で過ごす誕生日、最高すぎるでしょ。人生で言いたいセリフに「ちょっと待ってて、ケーキ買ってくるから」が追加された。私もゲリラ的にお誕生日ケーキをあげたい、かなりハッピーになるから。

そんなこんなで2軒目に行った。今度は音楽を嗜む人たちが集うバーだ。(私は音楽聴くけど演奏とかは無縁)
店主に会った途端「誕生日おめでとう」と言われた。なんでみんなそんなに知ってるの?と思ったら、どうやら昨日私の友人が1軒目のご主人にもここの店主にも言っていたらしい。合点が言った。
この日はライブをやっていたが、お客さんは私を含めて3人で、とても静かだったけど、大勢の人たちから「おめでとう」と言ってもらうのも気が引けたので、音楽のまったりさも相まって丁度良かった。
隣に座った知り合いのお兄さんとご主人にお酒を奢られながら良い気分になった。
このお兄さんは、お兄さんの実家と私の今住んでる家(実家暮らし)がマジのご近所さんで、時折ご近所トークに花を咲かせているが今日も同じような話をしていた。
そしてしばらく話しているうちに通っていた幼稚園が同じだということに気づく。
「えっうそでしょ」「マジか」と更なる共通点を見つけ驚きを覚えつつ「私幼稚園の時の校歌歌えますよ」と言えば「俺も歌える」とのこと。なぜかここで我々が歌い始めて、目の前にいる店主が笑っていた。そりゃ10個も離れた20代と30代がその人たちしか知らない幼稚園の歌を歌っているのだ。奇妙な光景である。

ハイアルコールの飲み物をかなりのハイぺースで飲み干した私は、少しふらつきながら店主とお兄さんにお礼を告げた。「かなりごちそうさまでした」
そういって少し離れたところの3軒目に向かう。今日の最後は少し前から決めていたのだ。今日の最後は最近よく通っているジャズ喫茶。ここのお店はカウンター席とソファ席がある。マスターと話したい?人はカウンターに行く。だってマスターの人柄はサイコーで、話していると元気が出るから。根本に「肯定」がある人は愛されると思う。
扉を開いて店に入れば今日は賑やかな日だった。カウンターが埋まっている。
マスターは瞬時に「こっちしか空いてなくてごめんね」と言ってくれたが、私はどちらでも良かった。
私が誕生日にこの店に行くと決意を固めていた理由は、ここにはマッカランが置いてあるからだ。マッカランが高いお酒だと知ったのはほんの最近。けれど、私が初めて名前を覚えたウイスキーがマッカランだったのだ。(初めて観た演劇作品にマッカランが登場した)そんなウイスキーをここで飲みたいと思って来た。

賑やかなカウンターよりソファ席で煙草を吸いながら飲むのが丁度良いと思った。だいぶお酒が回っていたけれど、ロックで頼んで舌触りの良いマッカランの12年を飲んだ。
酔うと煙草を際限なく吸ってしまう私は、最近ハマっているCOHIBAの紙巻きタバコを燻らせながら、マッカランを少しずつ飲んだ(酔っていたからハイペースだったかも)。後々マスターが話していたが、女の子がものすごい煙と葉巻の香りをさせながら煙草を吸っているとカウンター席でざわつかれていたらしい。酔っていたので。
その後は電気ブランを1杯だけ飲んで終わり。お会計にマスターが出てきてくれて「ごめんね、カウンター埋まってて」ともう一度謝られた。別に大丈夫だと言った後、「今日誕生日なんです」とだけ言った。酔っていたからマッカランを飲みにきたとかいう言葉が出てこなかった。
「誕生日なの!おめでと!!」溌剌とした声が響く。そしてなぜか手のひらが差し出された。パチン、ハイタッチ。後に握手。マスターの体温が伝わってきた。
何故だかとても嬉しい気持ちになった。ハイタッチは人を元気にするらしい。

そんなこんなで終電もそれなりに余裕を持って、ヘベれけになりながら夜の街を抜けていった。1人で誕生日を謳歌するのは初めてだったが、これは癖になりそう?

おわり みんなに元気をもらったね

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