見出し画像

ある男の物語夢月①=はて!? 老仁は荒野を駆ける?

◆ある男の物語夢月①=はて!? 老仁は荒野を駆ける?
 その男は過日、歯医者の壁に「健康のために口を大きく開きましょう」との張り紙を見た。口を大きく縦横に開くことを繰り返すと、首や肩の伸びを感じ、胸襟も開くように思えた。更に腰が伸び、お腹も引っ込む感覚を得る。そう言えば、コロナ以降身体が固くなりやすいと感じていた、身体と精神の老化を防止出来れば良いのだが。口を大きく開きながら、美味しいお酒と食べ物、楽しい会話を交わす愉しみの営みがあればと願うばかりだ。
 
 <老年性五月病>なるものに罹ったようで、言葉が紡げない状態が続いている。「沈思黙考の時が続いている」と書き出したかったが、己の怠惰さが充満する日々が過ぎていくだけだ。本当に人々と会話をする、笑う機会が本当に少なくなった。女性が長生きする理由は「お喋りにあるのでは」とふと思う。ならば男性高齢者も、後先考えずにお喋りすれば良いのではないか。
 
 その男は50代の後半に<RONINの会>を主宰したことがある。「人間の志と仁」があると思われる人々だけで語り合う場だった。ならば、次は「ROJIN会」も良いのかもしれない。一人で呟くのでなく、何人かで語りながらある種の存在感が生まれる。昔を懐かしむのでなく、異論を尊重する気骨ある人々の集まりになればと思うが、周りの人々の事を思いやりながら、自分のために自分を考え、事を為す場に発展すれば良い。
 
 2020年に海外生活から戻るとコロナ自粛生活が始まり、その男の医療訴訟は3年掛かりで今年初めに片付いた。「地中海北縁記」「ある男の物語」を書き始めたが、身体の老化は避け、精神力の低下は何とか防がねばならない。だが、<面倒くさい>と言う感覚に支配され、出不精にもなっている。今、何を為すべきか、活きる目的、目標が見つからない。さらに、ここ十数年で、我が友であり、先輩であり、人世の師と思われる存在がいつの間にか亡くなっている。
 
 今度は自分が師となるような存在になれるか、出来るか、未だ分からない。ただ、「知識が知性を育て、知恵を活かしながら智慧を育む」、謂わば、老仁が「若い世代への舟を編む」気持ちが出てきた。自分への拘りはあまり無いが、人間関係のややっこしい拘りは無視するか、出来る限り少なくしていきたい。70歳代最後の思いの底に流れているのは、拘りと真理の間に佇みながら「座り心地の良い自分の椅子」をまだまだ探し続けるしかないと思える。
 「はて?」もしかして、それは単純に帽子を止める、ヒゲを剃るなどから始めることかもしれない。その男の妄想は膨らむ「老仁は人世の師を目指す!?」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?