旅空香高堂「ブックカバー⑦銀座ハードボイルド系~樋口修吉と柴田哲孝」

築地川、三十間堀、汐留川等、江戸の昔から銀座には川が流れていた。「人間の営みと水路」は江戸の発展には欠かせなかった。戦後から東京オリンピック、高度成長期には多くの川と橋が流れ去って行った。そう言えば、東京でコロナ自粛が遅れたのは2020東京五輪の利権利益を巡る争いとも言われている。 作家<樋口修吉>は2001年肺がんで亡くなった、享年63歳だった。三井物産を退職後、海外を放浪後に作家活動に入った。樋口修吉は同期デビュー組である船戸与一、逢坂剛、北方謙三、大沢在昌、森詠等と交流していたようだが、1981年神戸を舞台にした<ジェームス山の李蘭>で第90回直木賞候補にもなった。

 ❖ウィキペディア(Wikipedia)=ギャンブルに明け暮れた経験から、戦後の銀座を舞台とした作品が多く、安部譲二からは「真正都会無頼派」と称された。昭和30年代の銀座で遊んでいた人たちの生き方<銀座ラプソティ>や<銀座一期一会>を描き、<銀座北ホテル>は築地川と思える川沿いのホテルに生きる人々の触れ合う心と志、市井の人々の面白さが描かれている。❖

 昔々、銀座でクラブ活動を行っていたが、ほろ酔い加減の帰途、銀座の裏通りには戦後があり、裏道には人間の営みを感じる。だが、コロナ後の銀座の飲食店には何が残るのだろうか。私が最初に読んだのは、亡くなる2001年に出た<縁かいな 始末屋清七>である。まさに志と心の描き方が、当時の私の心境に合致していたのかもしれない。その本の帯には「四季の縁(縁かいな節)」が使われている。~江戸の香を残して「粋」が行き交い、「情」が揺れて、ひとの心に灯をともす~おっとこれ以上書くと長くなる。

 一方、フリーのカメラマンから作家に転身し、現在はフィクションとノンフィクションの両分野で活動する柴田哲孝の小説に<銀座ブルース>がある。終戦後の銀座、闇市やバラック、進駐軍、街娼、生きるためには何でもあり、配給だけでは餓死する運命にある時代の話。泥水を啜って生きてきた元特高刑事の武田は、小平事件、帝銀事件、昭電疑獄、下山事件等、戦後昭和史の大事件に関わり、裏でうごめく魑魅魍魎の世界に足を踏み入れていく。太宰治や平塚八兵衛も登場するハードボイルド連作集だ。 武田は特高時代に虐殺した男の娘(美音子)を愛し、ささやかな幸せを求めるが、その夢は儚く散っていく。昭電疑獄が発覚し、芦田内閣総辞職を知らせる新聞を読む武田に、美音子がポツンともらす一言が「日本の民主主義は、これで終わるわね……」 さて、森友事件以来数々の疑惑を抱えて突き進む<心臓疑惑>、検察官の定年延長を含む国家公務員法改正案の行方はどうなるか。

 ❖ウィキペディア(Wikipedia)=昭電疑獄事件は1948年(昭和23年)に起きた贈収賄事件で、疑惑に先に手を付けたのは警察であった。内偵を進めていくうちに政界がらみの大きな汚職事件になると確信し、政府がつぶれるという危機感すら抱いたが、それでも捜査を進めた。 大蔵官僚・福田赳夫や大野伴睦の逮捕に始まり、やがて政府高官や閣僚の逮捕にまで及んだ。芦田内閣は総辞職をもって崩壊し、民主自由党の吉田内閣の成立をもたらした。裁判では栗栖総務長官以外の政治家は無罪となった。❖

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