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 子どもの前では

 娘が幼稚園に入ったばかりの頃のことです。
 
 初めて親から離れるので、嫌がらずに行けるか、とても心配でした。
 
 初日、珍しさもあってか、園のバスに私たちが拍子抜けするくらい元気に乗っていきました。
 ところが二、三日すると、バスに乗るのを嫌がるようになりました。
 
 仕方ないので、朝は私が送っていき、帰りだけ園のバスを利用することになりました。

 娘を送っていくと毎朝のように、園の駐車場で男の子を送ってくる女の人に会いました。
 私が都合の悪い時は、妻が送っていったので、妻もその人を見かけていました。

 私が妻に「あのお婆さん、毎朝お孫さん送ってきて大変だね。制服着てるから、あの後、仕事行くんだね。」と言うと、妻は、「えっ? あの人、お母さんじゃないの。」と言います。

 その女の人は、小柄で小太り、髪が短く眼鏡をかけています。
 私は、お婆さんだと思っていたのですが、そう言われてみれば、乗っている車は、キャンプや登山でもやるのかな、と思わせるR Vでした。
 
 「そうかなあ。お婆さんだと思うんだけどなあ。」などと話していました。

 その何日か後、娘が突然「お母さんだって。」と言い出したので、何を言っているのかわかりませんでした。
 
 よく聞くと、「T君と一緒の人だよ。お婆さんじゃなくて、お母さんだって。」と言います。
 
 一瞬いやな予感がしました。
 
 どうしてわかったのか聞くと、直接聞いたそうです。
 
 「T君を送ってきた時、Aちゃんと一緒に聞いた。」
 「なんて聞いたの?」
 「お母さんですか、お婆ちゃんですかって。そしたら、ニコニコ笑って、お母さんですよって。」

 唖然としました。
 
「子どもが聞いただけ」と思うか、「親がそういうこと話しているから、子どもが聞いた」と思うか、どちらにしても、傷ついたに違いありません。
 
 「娘が大変失礼なことを言って、申し訳ありませんでした。」と謝るのも変だし、どうしようもないので、そのまま知らないふりをしました。

 それ以来、子どもの前では少し気をつけて喋ることにしました。

 その後3年間、娘を幼稚園に送りました。

 朝の10分足らずでしたが、車の中でどんなことを話していたのか、何も話さなかったのか、よく覚えていません。
 
 今思えば、娘との貴重な時間でした。

 (画像はネットからの借用です)

#エッセイ #子育ての思い出 #入園
#幼稚園   
 

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