来世は、どうする？

　テレビを見ながら初老の夫婦が話しています。

　「ねえ、生まれ変わりって、あるのか
　な。」

　「どうかな。俺はないと思うよ。」

　「本で読んだことあるんだけど、人間
　は魂の成長のために生まれてくるそう
　よ。でも、たかだか百年足らずでは、
　いくらも成長しないから、何度も生ま
　れ変わるんだって。
　　成長し終わると、人間界の上の天上
　界という所に行くんだって。」

　「へえー。天上界ねえ。」

　「かぐや姫は天上界に住んでたんだけ
　ど、何かやらかして人間界に降ろされ
　ちゃったんだって。」

　「ふーん。人間界は牢獄ってわけ
　だ。
　　男を魅了し無理難題をふっかけ
　る。確かに悪女だわな。　
　　実在の人物で天上界に行った人は？」

　「マザー・テレサくらいになると天上
　界に行けるみたいよ。」

　「マザー・テレサか。
　　俺なんて五十年以上生きてるけ
　ど、あんまり成長してないから、マザ
　ー・テレサになるのに、あと何回生ま
　れ変わらなくちゃならないんだろ
　う。」

　「だから輪廻っていうのかもね。輪に
　は終わりはないからね。」

　「やだなあ。そんなに何回も人生やり
　たくないよ。」

　「もし来世があるとしたら、また私と
　結婚する？」

　「んー、どうかな。」

　「いやなの？」

　「別にいやではないけど、いろんな人
　と結婚した方が面白いじゃない。
　　いくらご飯が好きでも、たまにパン
　が食べたくなるのと一緒だよ。若い人
　たちが言う、味変ってやつ。」

　「じゃあ、私はご飯ってわけね。」

　「そう、米。コシマガリ、いやコシヒ
　カリ。」

　「相変わらず、つまらないシャレね。
　　それに私は、まだ腰曲がっていませ
　んから。
　　私は、またお父さんでもいいんだけ
　どな。」

「ホント？ それは光栄です。俺のどこ
　が、そんなに？」

　「お父さんなら、小心者だから、大し
　て立派なこともできないけど、大き
　な悪いこともできないでしょ。
　　無難な所かな。」

　「なんだ、そんなことか。
　　お互い、小心者同士。来世で味変し
　て、その次は、また一緒になります
　か。」

　そんな取り止めもない話をして、夜が更けていくのでした。

　この話は、フィクションです。
　夫婦揃って小心者という所だけ本当です。

#エッセイ #輪廻転生 #夫婦