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香港ロケ地めぐり〜「淪落の人」@何文田

2019年公開の映画「淪落の人」(淪落人/STILL HUMAN)。半身不随となった中年男性と家政婦として働くフィリピン人女性の交流を描いた映画で、香港でも大ヒットを記録しました。公共住宅の風景、外国人家政婦による介護、家政婦たちが休日に集まりおしゃべりを楽しむ姿、子供の海外留学など、香港の日常が映画の中にいくつも散りばめられていて、個人的に大好きな映画です。

特に気に入っているシーンは、アンソニー・ウォン演じる梁昌栄の電動車椅子の後ろのステップにエヴリンが乗り、一緒に坂を下るところ。映画前半では、梁昌栄はイライラ、エヴリンはオドオドしてばかりでしたが、徐々に2人の表情が柔らかくなり、後半では電動車椅子に一緒に乗る仲に。他人だった2人がお互いを思いやる1つの家族のような存在になったからでしょうか(まさに遠くの親戚より近くの他人!)。そんな素敵な場所を見てみたくなり、「淪落の人」のロケ地を歩いてみました。

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愛民邨の街路樹は、映画と同じ「木棉花(cotton tree、キワタ)」。3〜4月が花の時期で、5月ごろ綿毛に包まれた種がふわふわと空中を飛びます。ロケ地歩きをしたのは3月だったので、ちょうど木棉花の赤い花が咲いていました。

『淪落の人』の主なロケ地は、何文田エリアにある「愛民邨(英語:Oi Man Estate)」で、1970年代に建てられた公共住宅です。12の棟からなり、それぞれ「〜民楼」という名前がついています。一部の建物は天井吹き抜けのロの字型構造、敷地内に街市(小売りの市場)やキノコ型屋根の冬菇亭(現在は飲食店が入居)があるのが特徴。ロの字型構造は、暗い表情の梁昌栄が廊下の緑色の柵にもたれかかっていたシーンで、街市はエヴリンが野菜を買い物するシーンで出てきましたね。

愛民邨を歩いてみたところ、下記地図の7ヶ所で撮影をしているようでした。以下、順番に見ていきます。※友人O氏によると、愛民邨は数年前に外壁を塗り替えたそうです。確かに映画中の愛民邨とはペイントが少し異なります(緑色少なめ)。

スクリーンショット 2021-03-26 午後11.52.05

1、忠孝街
映画の中で何度も出てくる坂道は、愛民邨の中を抜ける忠孝街(Chung Hau Street)。南から北へ緩やかな下りが続いています。愛民廣場の前が撮影場所のようです。「淪落の人」のポスターの背景もこのあたり。

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写真1枚目:愛民廣場前の忠孝街の坂道。写真右側の棟が2人が住んでいる新民楼/写真2枚目:写真1枚目の坂道の歩道。映画のラスト、昌栄が振り返らず1人で坂道を下っていくシーンもココ。香港にしては歩道の幅は広めのように思います。車椅子も通りやすい。

2、忠孝街の脇の道
忠孝街から直接新民楼へは行けないので、坂を下りきったところで左の脇道に入り、新民楼に向かいます。エヴリンが「”LOVE”って広東語って何て言うの?」と昌栄に聞いたのもこの道。

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3、新民楼
昌栄とエヴリンが住んでいるのは新民楼836号室。新民楼は忠孝街と公主道(Princess Margaret Rd)の間にあります。

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写真1・2枚目:新民楼の3階?入り口(忠孝街側)。棟の中は関係者以外立ち入り禁止なので、隙間から中を覗くと・・・映画のシーン同様、緑の手すりが見えました/写真3枚目:新民楼の吹き抜けロの字構造部分(地上階部分は通行可能)

4、ベンチ
新民楼の南側、公主道沿いには公共スペースがあり、ベンチや将棋のできるコーナー、子供や高齢者向け遊具&健康器具が置かれています。
写真のベンチは、映画の最後の方で、エヴリン旅立ち前に、昌栄とサム・リー演じる張輝が話し込んでいたところ。

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5、将棋コーナー
昌栄と張輝が将棋(中国象棋)を指していたところ。周りの木々はすっかり大きくなって、手すりの向こう側が見えなくなっています。ロケ地歩きをしていた日も、おじさんたちが集まって将棋をしていました。

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6、街市
昭民楼と頌民楼の間にある街市。映画の後半で、いつもボラれる八百屋のおばちゃんに、エヴリンと昌栄がひと泡食わせるシーンは面白かったですね。

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7、バス停
エヴリンと昌栄が出会い&別れるバス停。愛民邨の東側を走る孝民街(Hau Man St)にあります。写真を撮っていたら、ちょうどエヴリンが空港から乗ってきた(設定の)E21A番バスが到着。

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普通、映画のロケ地は複数のエリアにまたがることが多いのですが、「淪落の人」の場合は、見事に愛民邨に凝縮されていたのには驚きました(→ロケ地が次々と見つかり楽しい!)。予算の関係で愛民邨に場所を絞ったのでしょうが、どのシーンも映画にしっくりとはまっていて、逆に愛民邨以外のロケ地は考えられないかも。愛民邨は監督のオリヴァー・チャンの育った場所だと聞き、愛民邨を知り尽くしている監督だからこそ、撮れたんだなと思いました。

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最後に映画のポイントになっていた木棉花(cotton tree、キワタ)。花言葉は「周りの人を大切に、目の前の幸せを大切に」だそうです。2人が出会った頃は緑の葉を繁らせた木棉花、エヴリンが写真コンテスト入賞時には赤い花を咲かせ、エヴリンが愛民邨から旅立ちの時には綿毛に包まれた種を飛ばす・・・映画の内容と重なる花でした。写真コンテストの受賞会場に向かうタクシーの中で、昌栄は赤い木棉花の花を見ながら「花は乾燥させて漢方薬材として使うんだよー花が落ちたら綿毛ができて風に乗って飛ぶんだよーそれから別の場所に落ちて芽を出すんだー(意訳)」なんて話をエヴリンにしています。映画を見終わった後に、昌栄のこの言葉が思い出され、じんわりと胸に来ました。

以下、ネットの拾い物です。
映画の終盤、木棉花の綿毛が風に乗ってふわふわと飛んでいました。エヴリンの旅立ちと重なり、いいシーンだったですね。しかし、実際の映画撮影は12月。木棉花の綿毛の時期ではありません。なので本物の綿毛ではなく、スタッフが買ってきた綿を人力で飛ばしていたそうです。


参考: 【全文】《淪落人》刻劃菲傭、工傷者 陳小娟精省金獎拍片術【《淪落人》專訪(上)】導演陳小娟何文田親睹黃秋生和女主角原型:「感謝他們給我靈感。」【大城今天】《淪落人》取景地《淪落人》超現實的香港心靈雞湯这个时候看《沦落人》,可真是百感交集啊

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