なぜ企業はオープンソースと関わるべきか(rewrite)
企業がオープンソースに関わる理由は方々で語られている。もちろん多面的な見方があって然るべきなのだが、今回は不確実な未来に対応し利用するためのオプションという考え方を軸に説明する。
オプションもしくはオプション性というのはここではナシーム・ニコラス・タレブ著の「反脆弱性」という本に出てきた概念を指している。一つの思考実験として。
オプション性
オプション性というのは「投資をすることで将来に利得を確率的に得る」という話である。オプション性には負のオプション性と正のオプション性がある。負のオプション性は将来起こりうる損害・破綻に対するリスクヘッジを行うこと、正のオプション性とは偶然利益を得る可能性を投資によって拡大することである。
ブラックスワンという言葉があるように、将来に何が起こるのか本質的に予測不可能だ。
オプション性の飼い慣らし方を理解することによって人も企業もしなやかに予測不能な世界を生き延びることができるというのがタレブが反脆弱性の中で語っていることである。
負のオプション性とオープンソース
負のオプション性では投資によって将来の不測の悪い事態に備える。例えば持ち家ではなく借家を買う、保険を買うといったこともあれば、馬券を流しで買うなんていうのもオプションになる。
オープンソースを採用すると特定のベンダーや企業にロックインされるリスクが下げられソースも手に入る。ということは、開発元が突然居なくなったり、突然値上げされたりとか、不測の事態があった場合に取ることができる選択肢が増え、少なくとも対応の猶予は得られる。
反脆弱性では「確率ではなく被害の大きさを見よ」とあるが、皆にソースがオープンなOSSなら被害は確実に小さい。
そういう意味でオープンソースに投資しておくと不測の事態に対して負のオプション性を買っていることになる。エンジニアも育てておくとリスクヘッジが補強される。
ただ、個人的には特定機能だけ有料でクローズドなものはあるべきオプション性を棄損しているわけなのであまり好きじゃない。
正のオプション性とオープンソース
正のオプション性では不測の「良い事」を買う。確率的に起きる事件が良い結果をもたらす場合に結果を強化する方向に進むものである。
例えば蟻は確率的に最短ルートを見つけるし、進化論では突然変異が重要な役割を果たす。ベンチャーキャピタルは広い範囲に投資する。試行回数と試行の広さが変異を生む。
オープンソースの場合は世界中の参加者が様々な提案をしてくる、その中には確率的に良い提案が混ざっていて、うまく拾いあげる仕組みがあればソフトウェアは進化する。
逆に、良い提案があっても拾い上げないとソフトウェアは進化しない。確率を増やすには、「提案をしても良い雰囲気」と「提案を拾い上げる仕掛け」、「提案できるタイミングの多さ」が重要になる。
心理的ハードルの塩梅とメンテナー(コミッター)の余裕、リリース頻度などが参加人数に加えて重要になる。
ここ20年醸成されてきたオープンソースのプラクティスには正のオプション性を補強する仕掛けが入っていて、ユーザと開発者が増えると確率的に良い結果を引き当てる確率も上がるようにできている。例えば、他のOSSの開発者が興味を持ってプラグインを作ったりしてくれることもある。
偶然性のない開発計画は想像の範囲、投資の大きさ、正当な進化を越えられない。偶然良くなる確率を徹底的にあげて進化を促すのがOSSと言えるだろう。(そのためにオーブンであることとリリース頻度は重要だと思う)
未来に対する確率をうまく扱うのが経営だとすると一つの作戦としてはアリなんじゃないだろうか。
ただコントロールが難しい面があるしコントロールしすぎるとコミュニティが死ぬ。完全にコントロールしたい、正のオプション性に期待しないなら(卓越したデザイナーによるプロダクト等はその傾向もある)クローズドも選択肢だろう。
社内と比較するとプロジェクトメンバーから「いいアイデアがあるんですけど」とか「ちょっとこれ作ったので見てください」とかいう機会をちゃんと開発に反映していく、というのをオープンに拡大し、システムに組み込んでやるってことかもしれない。
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