多くの医師が新型コロナで「外し」続けた理由

まず、お断りしておくが、タイトル中の「医師」は、SNSで積極的に発言し多くのフォロワーを獲得している、一般的に「医クラ」と呼ばれる人たちのことを指す。私は深層学習(AI)でCT画像を分析する研究を行っており、そこで多くの医師と共同研究しているが、その先生たちは「医クラ」とは全く違う人種である。同じ医師でもなぜそこまで違うかは、この論考の後半で考察する。

私は新型コロナウイルス問題を巡って、「医クラ」としばしば意見を違えた。そして、ほぼ全てのケースで私の方が正しく、彼らは間違っていた。その中でも最も差が際立ったのは、新型コロナウイルスの起源を巡る問題である。新型コロナ研究所起源の可能性を公の場で論じた科学者は海外には一定数いるが、日本の科学者では私が唯一に近い。ただし、公言しないものの、研究所起源の可能性が高いと考える科学者は少なくなく、裏で私にコンタクトをとってくる人たちもいた(ただし、彼らには表でそれを言う勇気はなかった)。一方、「医クラ」には、峰宗太郎氏や福家良太氏(EARLの医学ツイート)など、新型コロナウイルスは研究所起源ではないと言い切る人がいた。

峰氏は塩基配列を解析したと言っているが、であれば現在注目されているフーリン切断部位の不自然な挿入に気づいたはずである(でなければ、ウイルス学者として無能と言わざるを得ない)。また、福家氏はNature Medicineの論文を引用しているが、その後のFOIA(米国の情報公開制度)で公開された資料で、この論文の著者であるAndersen自身が、塩基配列を解析したところ人工的に操作されているように見えるとFauciにメールを送ったことが分かっている。フーリン切断部位、およびAndersenとFauciをはじめとする生命科学者たちの情報隠蔽工作については、以下の動画で詳しく解説している。

この動画でも述べたが、私はFOIAで情報公開がなされる前から、Nature Medicineの論文には疑問を持っていた。論文の中身を読むと、天然起源説の根拠があまりに薄弱だったからである。福家氏がこの論文を根拠に結論を断言したのは、彼が”Nature Medicine”という看板だけを信用して、中身を読まずに結論を鵜呑みにしたか、あるいは中身を読んでも理解する力がなかったかのいずれかであろう。

インターネットで目立つ「医クラ」と呼ばれる人たちの共通点は、研究者としての実績が非常に乏しいことである。研究者としての実績は、Scopusなどで確認することができる。

https://www.scopus.com/freelookup/form/author.uri

ここで、いわゆる「医クラ」で目立っている人たちの氏名を入力して見れば分かるが、彼らは研究者としての実績は殆どないのである。それは、研究者として論文を読んだり書いたりする訓練を十分積んでいないことを意味する。

多くの人が誤解しているようだが、医師であることと医学研究者であることの間には大きな差がある。もちろん、医師になるためには非常に多くの勉強をしなければならないのは事実であり、その努力には敬意を払う。しかし、医学部に入るための勉強も、医師国家試験に合格するための勉強も、出題範囲と答えが決まっていて、それを覚えるという作業である。

研究はこれとは全く違う。正解が分からない未知の現象に対して、真理を解明するという作業である。これには受験勉強とは全く違ったアプローチが必要になる。大事になるのは複数の情報源やデータにあたって多角的に分析することである。できるだけ多くの情報を集め、それを慎重に比較検討することで、漸く真理が何かがおぼろげに姿を現す。研究をしたことがある人ならば、実体験をベースに納得していただけるのではないだろうか。

新型コロナウイルスは、新たにこの世に登場した、人間にとっては未知のウイルスである。であるから、その正体を解明するには研究と同じアプローチをとらねばならない。ところが、研究の経験に乏しい医師たちは、受験勉強と同じアプローチをとった。つまり、正解が既に分かっていると勘違いしたのである。彼らは、WHOやNIH、CDCのような権威のある機関、Fauciのような権威のある学者、Natureのような権威のある雑誌の発信する情報は全て正解であると考え、それをそのままオウム返しでツイートし続けた。それゆえ、権威の側は外したときは、常に外す結果になったのである。

ご存じの通り、新型コロナウイルスについては、上記の権威は何度も外し続けてきた。未知の現象について、権威があるから正解するとは限らない。正解を導くのは、科学的証拠やデータである。ところが、受験エリートは「権威の発信=正解」を前提にして考える。だから間違えるのである。

権威はしばしば政治と癒着する。それゆえ、権威はしばしば科学を逸脱する。WHOが中国の政治的意向に大きく左右されて、新型コロナの初期対応を間違えたのがその典型例である。また、権威はしばしば自己欺瞞に陥る。Fauciは最近「私が科学を代表する」と発言したが、それは「科学的」とは最も遠い態度である。データや証拠を特定の情報源のみに依存するのも危うい。政治的バイアスのある「科学的」データは、この世には山ほどある。

もちろん、こうした権威主義に陥る「医クラ」の危うさに気づいている医師も少なくない。藤ノ木優医師の次のツイートはその一つである。

私が共同研究で普段接する医師は、「本当に分からない現象」に対して共に取り組む関係である。よって、SNS医師とは全く違う人たちである。

藤ノ木優氏だけでなく最近はSNS上で、上で「医クラ」と呼んだインフルエンサ医師たちに批判的な医師も増えてきた。新型コロナウイルスは人類にとって未知の新たな現象である。それに正しくアプローチするのに必要なものは、医師という肩書ではなく、未知の現象にアプローチするという研究者としての経験や素養である。同じ医師をフォローするにしても、まずはその人が研究者としてどれだけ実績があるかを調べて、誰をフォローするかを決めることをお勧めしたい。