罪人どもの街

 カバン片手にだだっ広い駅のホームに降り立つと、独特の臭いが鼻をついた。
 煤と鉄の臭い。強い酒と焼けた肉の臭い。
 火の臭い。
 ドワーフの街の臭い。
 駅の公衆電話で先方に連絡を入れた。交換手は少しもたついたが、それでもすぐつながった。夜も遅かったが先方はまだ起きていた。私は街に到着したことを告げた。
 今日はもう遅いですから、会うのは明日にしましょう。場所とお時間はそちらにお任せします。私は〈コクランの巻鬚〉亭に宿を取っています。
 私がそう言うと、先方は、そちらの食堂で、明日の午前10時に、と言った。その声はわずかに震え、かすれていた。

 宿は駅からしばらく歩いたところにあった。大通りからは少し外れていた。二昔前の冒険者向けの安宿の雰囲気を色濃く残していた。
 部屋は三階で、階段にいちばん近かった。部屋に入ると、私はすぐ床についた。
 眠りはほどなくやってきた。軍隊時代から、いつ、どこでもすぐ眠れるのが私の特技だ。
 目覚めたのは翌朝6時だった。私は階下の食堂で固い丸パンとシチューを交互に食い、熱いハーブ茶を飲みながら新聞を読んだ。どの記事もろくでもなかった。
 それから部屋に戻って時間を潰した。
 10時少し前に部屋を出て食堂に向かった。先方にも分かるように、入り口近くの席に座った。
 一時間経っても、二時間経っても、先方は来なかった。
 宿の電話を借り、先方につないだ。
 相手はなかなか出なかった。
 しばらくして、ハスキーな女の声が、誰だと問うた。
 私は名乗った。
 女は言った。ゲルド市警殺人課のキリイ巡査部長だ、あんたはコルン・ぺカーの知り合いか。
 そうだ。
 なら待っててくれ。そっちへ行く。話を聞きたい。
 どういうことだ。
 私が問うと、キリイ巡査部長は答えた。

 ぺカーは死んだよ。殺されたんだ。

 私はクソトラブルに巻き込まれたことを悟った。
 あのエルフババアの疫病神め。

(続く)

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