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ブラッド・サイバー・スチールエッジ

 空から女の子が降ってきた。

 と言ったらテンプレすぎるか。じゃ、その女の子が、いかしたパンクロッカースタイルで、ショートヘアを真っ赤に染めていて、ついでに日本刀を持っていたら、あんたどうする?
 おれはポカンとしていた。
 女の子はこっちを向いた。ルビーみたいな双眸がおれを見つめた。抜けるように白い顔の中、バラの花びらみたいに艶やかな唇が動く。
「あんたばかァ?」
 どっかで聞いた台詞だな。
「警告したでしょ? キルゾーンに踏み込んでるって」
 そんなことも言われた気がする。ここ数日以内に。
 おれは女の子の足元に倒れているものを見る。毛むくじゃらで、腕が異様に長く、耳元まで裂けた口の中に牙をみっしり生やした化け物の死体。今しがた、この子が斬り殺した。その直前まで、そいつはおれを殺そうとしていた。
 何がなんだか。
「人狼に襲われて生きてられるって、あんためちゃくちゃツイてるんだよ? わかってる?」
 人狼! おれはいつ中世ヨーロッパの寒村に転生したんだ? 2077年の東京特別市第四層から?
 何から何まで信じられない。おれが生きているのは現実か? だが、まだ握りしめたままの、ネオ南部オートマチックのグリップの感触が、これは現実だぜと告げている。おれはホールドオープンしたままの自動ピストルを見つめる。8㎜アサヒ高速弾を20発固め撃ちしたのに、この毛むくじゃら野郎が平然と向かってきたことを思い出す。
 ファッキン・リアリティショック。
 くそったれ。夢だったらどんなにいいか。
 おれは思い出す。三週間前の、あの奇妙な依頼のことを。
 くそ、あのとき断っときゃよかったんだ。
(続く)

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