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ミュージカル「この世界の片隅に」制作を編曲者の視点から振り返る 完結編

ミュージカル「この世界の片隅に」5月に日生劇場から始まり8都市を巡るツアー計55公演が物語の舞台、呉にて大千穐楽を迎えました。

僕も呉に赴き、日生の最終公演を観て以来の、およそ2ヶ月振りの観劇。大千穐楽を見届けに。
その変化、深化を目の当たりにして、キャスト、オーケストラ、スタッフの積み重ねたもの、その偉大さを感じました。
クリエイティブの創り出したものがその手を離れ、プレイヤー達の考え、解釈、感じ方によって微妙に変化していく様はまるで生き物のようで、これこそがミュージカルの醍醐味だと思いました。

編曲家は、生み出したアレンジをプレイヤーに伝えるオーケストラスコア(譜面)、基準を作り上げます。そこには奏者の演奏のための音高やリズム、強弱、テンポなどの音楽の流れや表情を、なるべく詳細に記すのですが、その先にあるさらに微細な表現は音楽監督、指揮者から奏者それぞれにまで委ねられます。
今回はたった1音発するにも奏者の意図を求める、追求していける箇所を多く配置できた気がしていて、奏者の皆さん一人一人がそれらに見事に応えていただいたな、、と感じています。

このnoteを書いた理由のひとつは、ミュージカルにおいて縁の下な存在のオーケストラや編曲に、それぞれの演奏にも少し気持ちを向けてもらう事で、音楽が演出にどのように作用しているか、そして何より鑑賞の楽しみを広げるきっかけにもなるんじゃないかと思ったからでした。
思っていたよりも大きな反響、リピーターの方からの嬉しいフィードバックがありまして、書いた意味も少しはあったのかな、、と思います。

改めて本当に素晴らしい、オーケストラメンバーのクレジットです。

音楽監督、キーボード、指揮 桑原まこ
キーボード、指揮 長濱司
2ndキーボード 戸谷風太
ギター 成尾憲治
ベース 米光椋 /  竹岡きなり
ドラムス 坂入康仁 /   荒牧翔太
パーカッション 土屋吉弘 / 上原なな江 / 奥田真弘
バイオリン 奥野玄宜 /  小野山莉々香 
バイオリン&ビオラ 中村響子 /  福田紗瑛
チェロ 白佐武史 /  平井麻奈美
リード 山口宗真 /  宮崎達也
オーボエ 海上なぎさ /  佐々木琴美
トランペット 東野匡訓 /  古土井友輝
トロンボーン 榎本裕介 /  阿部史也
マニピュレーター 長谷部光祐 /外山凌平 /竹内秀太郎
写譜 池沼貴彦


「音楽」は、作曲、編曲、そして歌い手、奏者全ての技術、感性の集合によって完成するのだと改めて思うのです。


音月桂さんに、「ミュージカルを作っていて一番難しいことは何ですか?」と聞かれました。
その時はあまり上手く答えられなかったのですが、今考えるとやはり「音楽だけじゃないこと」これに尽きるかなと思います。
そしてもし「ミュージカルを作っていて一番の喜びは?」と問われれば、「音楽だけじゃないこと」と答えると思います。
芝居があり、演出があり、歌が、音楽がある。
それらが高め合える所に、バランスに持っていく難しさを知ったし、ピースがハマったときのマジカルな喜びを知りました。

今回僕が書いたスコアは割愛になった部分を全て含めると計900ページほど。
その全てが試行錯誤、アンジェラの言葉を借りれば「孤独」な苦闘の記録ですが、この作品に関わった全ての人の「孤独」を持ち寄った呉での最終公演を観て、抑えきれないものが頬を伝い、全てが報われた気持ちになりました。

この作品の、最高なカンパニーの一部になれた事に、ただ感謝しかありません。
ありがとうございました。



最後になりますが、このシリーズ最初のnoteにも書いたように、昨今の世界情勢の中、この作品の持つテーマが僕を最後まで突き動かしました。
世界中の片隅に暮らす晴美さんのような、、いかなる子供達でも否応なく悲惨な目に遭う事は、無条件に絶対に、赦されない。
パレスチナ、ウクライナ、世界で起こっている事を憂い憤りながら。


編曲/音楽監督 河内肇

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