ミュージカル「この世界の片隅に」制作を編曲者の視点から振り返る #3

演奏曲順に各曲を振り返っています。
この先ネタバレの可能性がありますので、これから初観劇、という方は閲覧に充分ご注意ください。



M4 ぼーっとしちょるお嫁さん
只々、ベテランアンサンブルキャストの皆さんの名人芸を堪能する場。
頭から最後まで最高!!稽古場で何度見ても可笑しいし、あったかい気持ちになれるのでした。
ドヤドヤ、ドタドタ、どんくさく、ほのぼの、みたいなイメージをもってアレンジに臨みました。
アンジェラも言ってましたが、「3丁目の夕日」みたいな雰囲気もイメージしました。
アレンジ上のこだわりを一点挙げるとすると、、ほんのり哀愁を3回目のBメロのコードにひとつだけ潜ませたところかな。。
気付かれるか微妙なアレンジ上の何かは、このミュージカルには無数に散りばめていて、これは個人的な趣向でもあるんだけど、、作品の趣に何らか作用していたら良いなと思います。

M4a 祝言の夜
すずと周作の祝言の夜。ロマンチックな芝居の裏で流れるアンダースコアです。
ミュージカル新人の僕らにはこのアンダースコアというのが鬼門で、最初は尺の伸縮を前提にした作りにしたりという意識が無く、また作業上や帰国などの理由から数週間、稽古に付き添う事もできなかったので、その尺や構成の調整を、稽古現場の状況を全て把握していた音楽監督キーボードコンダクターの桑原まこさんにお任せする事になってしまいました。テンポや構成を含めた調整力、、これは特殊能力だなあ、、とアンジェラと感心。
オーケストラとスコアを繋ぐ役割、その他実演に関する諸々、大変お世話になりました。

M5 焼き尽くすまで
これは、、問題作でした。
最初からアレンジ上、敢えてエキセントリックな、音響上も実験的な作りにしてしまい、再現できるかな、、と最後まで心配で、案の定最後まで試行錯誤したのがこの曲でした。
シネマティックな音場、音色、その演奏を再現するために、昨今のミュージカル現場で重要な役割を持つマニピュレーターの長谷部さん、外山さん、そして譜面の池沼さんには、様々なトライに付き合っていただきました。専門性を極めていました。非常に勉強になったなあ。。
その他の曲でも、大変お世話になりました。
この曲のアプローチは2転3転し、本当に初日直前で今の形に。
ミュージカルバージョンとして色々なもののバランスが取れて、落ち着いて本当に良かったです。

M6 波のウサギ
このミュージカル中でも特に好きな曲のひとつであり、アレンジ的にも納得のいくものになったひとつ。
アンジェラのメロディは本当にキャッチーだし、Bメロも絶妙でアレンジのイメージがするすると湧きました。
すずや哲の心情、描いた波のウサギ達の跳ねるさまを思い、ピアノのパターン、ストリングスや金管のカウンターライン(裏メロディ)、アンダースコアのオーボエ、木管の装飾、ドラムのパターンまで、一気に出てきて書き留めた感じ。
この曲の盆を使った上田さんの演出がとても素敵で切ない。個人的に一幕最も好きなシーンのひとつです。

M7 隣組マーチ
隣組トリオ、、大ファンです!!!
こちらも稽古で、何回観ても飽きなくて、大好き。
アレンジ的にはこちらも、ベタなデフォルメを楽しんでもらえたらと思います。
楠公飯の炊きあがりトロンボーン、榎本さん阿部さんいつもありがとうございます。
そのあとのファンファーレもいつも大袈裟に決まって嬉しい。
カウベル「コン!」のあとの隣組トリオのキレに、ご注目です!
本当に楽しい。


M8 防空壕ポルカ
こちらも楽しいポルカ。土着な舞曲ですね。
アコーディオンと刻みや細かな装飾のストリングスが肝の、小気味良いフォーキーな一曲です。
一聴して打楽器の無い感じに聴こえると思いますが、グランカッサ(大太鼓)が潜在意識に働きかけるような低音で常に鳴っているので、注目して聴いてみてください(ほとんど聴こえないと思うので感じてください)。
アンジェラが、デモの時にノリで「ヘイ!」と入れた掛け声がそのままずっと使われ続けていて、苦笑していました笑。
楽しいからいいですよね。

M9 スイカの歌
すずとりんの仄かな記憶の歌。
冒頭、グロッケン、ハープ、ピアノの美しい減衰楽器トリオのミニマムなアンサンブルで甘く淡い夏の空気を表現してみました。
中間、すずと座敷童の微妙なやり取りのパートは、バスクラリネットを中心とした木管、ミュートトランペットのコミカルな半音音型とパーカッションで。隙間の多い、なかなかスリリングなアンサンブルです。
最後サビの弦のカウンターラインは、プレイヤーの皆さんが本当に切なく歌ってくれて、編曲者冥利に尽きる瞬間です。


M10 闇市
アンジェラが8/6、8/5拍子を交えていく変拍子を使い、攻めた格好良い作曲をしたこの曲、僕もだいぶ大胆にアレンジしてみました。
闇市の怪しさを表現するためにまず思い浮かんだのは、ジャンゴ・ラインハルトやステファン・グラッペリがそのスタイルを築いたジプシー・ジャズのテイストでした。
イントロのフレーズから特徴的なものにしたいと思い、サックスから、ジャズで言うところのディレイド・リゾルブ、という音型を使ってみました。
ジャカジャカと鳴らすギター、トリッキーなドラムとベースがリズムを担います。
アンサンブルを考えるうちにジプシージャズに留まらず、スカやムード歌謡的なアプローチも交え、最後には「仁義なき戦い」な金管シェイクも使って混沌を表現してみました。
オケの皆さんや、アンサンブルの皆さんの歌唱のおかげで、演奏するごとに猥雑な格好良さを増した曲です。

続く

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