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ONE's hopeという曲の歌詞は実に暗示で満ちている

ONE's hopeという曲の歌詞は、実に暗示で満ちている。

音楽はただでさえ少ない情報量がその世界を抽象的にしていくのに、選び抜かれた言葉さえもおぼろげにしたのだから、この曲の歌詞は徹底されていると言える。
逆に言えば、ぼやけていく景色の中に、ほんの一瞬だけピントの合う歌詞がそこに置かれている。そのわずかに表現された言葉には、間違いなく作詞した人の意図や情熱や全霊といったものが注ぎ込まれている。

さて。

この歌の歌詞にはやたらと色が出てくる。朱、赤、銀、白、(茜)。とりわけ目を引くのは朱と赤を使い分けていること。

『薄らと朱く染まる空 トンボが舞う』
『少しだけ赤くなる 君がくれた物』
『繋がっていた赤い糸の 先は霞んで見えない』

空の色をわざわざ朱と指定している。後に解説するが、これは赤という色を空に結び付かせないための意図的なものだ。空が『赤』だと解釈がもつれるため、それを避けたものだと思われる。

では、赤という色が何を指すのか。

これは歌詞にある通り『赤くなる君』であったり『赤い糸』を指すのだろう。

しかし、この曲を聞いた大多数の人は『赤トンボ』を思い浮かべるはずだ。そして実際にその解釈は間違っていない。
ところが、ここで問題が一つ発生する。

なぜなら、歌詞としてトンボ=赤とは一言も言っていないのだ。
むしろ、朱い空はトンボが舞っているから朱い=朱いトンボという可能性すらある。


では、トンボは朱いのか、赤いのか。
それを考えるだけで解釈が変わる。私は結局後者だと考える。

注目すべきは後半の歌詞にある『茜(空)』という言葉だ。その歌詞でこの曲の季節を秋に指定している。加えて、トンボ自体が秋の季語を持っている。
秋の茜に飛ぶトンボ、アキアカネ。通称、赤トンボだ。

また、トンボは漢字で蜻蛉(せいれい)であり、そこに同じ読みの字を当てると精霊である。精霊は、死者の霊魂だとされる。
つまりトンボは死者の霊魂を運ぶ生物だとも言われているわけだ。

そして秋の、とりわけ初秋。
これは御盆の時期に当たる。御盆というと暑い夏をイメージしがちだが、季語としては初秋に当たる。
御盆は、死者の霊魂があの世からこの世に帰ってくる日だとされている。
それが、トンボという精霊と強く結び付くのである。
そういった連想が、歌詞の解釈に意味を与えてくれる。


また、前述の通り、赤という色はトンボに限定されるわけではない。

『繋がっていた 赤い糸』
という直接的な描写があり、それに加えてもう一つある。

『二年後の記念日 プレゼントもらった
 少しだけ赤くなる 君がくれた物』

赤くなったのは君なのか、私なのか。
区切り方を変えるだけでどちらとも取れるのが歌という表現の面白いところだと思う。
個人的には赤くなったのは私だと解釈したいが、これは聞く人次第だとも言える(どちらも赤くなったという考え方もあるけれど)。


しっかりと読み解くなら、赤くなったのは"君"だと言える。なぜなら、その後の歌詞で『白いドレスを纏った私に』とあるからだ。私は白で、君が赤とする方が話が通りやすい。

紅白、という表現がある。
めでたい色として馴染み深いその色は、祝い事に使われる色である。
また、赤は出生を意味し、白は死を意味するという。そこから転じて人の一生を表す色だともされる。

(ここで白いドレス=私=死、と結び付けるのは間違い。
紅白の白=男の色=死、と結び付けるくらい早計だ。そうではなく、この歌のイメージを紅白という色で推進している、といった程度で考えればいい)

朱は空。
白は私。
赤は君で、赤い糸で、トンボだ。
(銀は指輪。)


そして、解釈の大詰め。

赤トンボ、赤い糸、赤くなった君。
これらは全てイコールなのである。
つまり、歌詞に出てくる"君"はトンボでもあり、赤い糸でもあると。

この解釈は、人によっては強引だと言うかもしれない。けれど、

『どこからかやってきたトンボさん』

これが赤トンボ=君だとするなら、やはり繋がる。運命の赤い糸が、糸の代わりにトンボとしてやってきて、結ばれるのだから。

『子供みたいにはしゃいでる 君を見てた
 指差したその先を睨んで君は言う
 「逃げるなよ……」って
 悔しがったその顔が可笑しくて笑ってた あの頃』

あの日子供みたいにはしゃいでいた君の指先から飛んでいった赤いトンボが、長い時を経て、私の元へ飛んできた。もっと言うなら、私の指へと止まったのだ。それは、赤い糸であり、赤トンボとなった君であると。
そんな画が頭の中で流れた時、個人的なことだが、涙がこぼれてしまった。

そして、最後の歌詞。

『どこからかやってきたトンボさん
 ここからなら見えるでしょう
 まだまだ小さな ONE's hope』

"ここ"とは現世のことで間違いない。ここからなら、その小さな希望が見届けられると。そうして、この曲は終わる。

いろいろな解釈があるし、別にこれが全て正しいと言い切るつもりもない。

それに。
ここまで語ったけれど、でも実は言葉の暗喩なんて別にいいんだ。

ONE's hopeの持つ、儚げながらも確実にある"繋がり"のようなものと、それを表現するための綺麗な旋律が、純粋に好きだ。

綺麗な曲なんだよって、ただそれだけでいいんだ。せっかく、素敵な曲に出会えたのだから。


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