朗読劇二人芝居『ファンレターズ』 夢野愛3通目

夢野愛「To. 永幸出版㈱、ティーンズハート編集部滝田様。
Title. いつもお世話になっております。
一日中ファックスが鳴り止みません。
一日で三十メートルの感熱ファックス用紙をロール五本分送ってくるのです。
知り合いに聞いたら、ファックスで紙を送るときに丸くループ状にしてしまうと、エンドレスでファックスが送れるそうです。
この方法って私は知らなかったのですが、そんなにポピュラーなものなのでしょうか?
家のファックスは常に受信中なので、原稿は、後ほどサークルK・サンクスからファックスいたします。
朝顔につるべとられてもらい水、とはこのことですね。
パソコンも携帯も、ヤツからの迷惑メールでいっぱいですし、
電話も一日平均昼二百二十回、夜三百二十回といったところです。その矢継ぎ早のリダイヤルのスピードは形容する言葉がありません。
人気アイドルのコンサートのチケットでも取るアルバイトでもしたら儲かるのに、と思ってしまいます。
留守番電話は消音にしてあるのですが、夜中など妙にあたりが静かになると、いくら消音といえども、留守番電話が働いている音が聞こえてきます。
ああ、留守番電話君、ごくろうさんね、と思いながらも、この留守番電話に向かって、一晩中ダイヤルし続けている矢野優子のタフさに驚きます。
なんのためにとか、どうして、とか、私は考えることをやめて久しいのですが、夜中に、かち、かち…かち…かち…と鳴り止まぬ電話を受け続けている留守番電話の音を聞いていると、やはり、どうして? なんで? なにがしたいの? という疑問が頭をもたげてきます。
まあ、考えてもしょうがないことなんでしょうけど、不思議です。
お送りいただいた、ストーカーを理解するためのDVDを興味深く見ました。
こんなDVDが発売されているなんて、全然知りませんでした。
ただ、扱っているのがアメリカの事例ばかりなので、いまいち、日本で暮らしている私にはぴんときませんでしたが、まあ、嫌な気持ちにはなりました。
あの、会社の同僚をつけ回し、会社をクビになったあげく、猟銃を持って会社に乗り込み、乱射。何人も死んだという事件の再現フィルムなどがありましたが、日本に銃がなくて本当によかったです。
なんてことを私が考えるなんて、ちょっと前なら思いもしなかったことですよ。
それと同じく再現フィルムでテレビの連ドラに出ている女優をつけ回して、結局、殺してしまった男がいるとか。
見ていて、絶望的な気持ちになりました。
アメリカのストーカーに対する法律は、半径何キロ以上近づいちゃダメとかあるのはいいですね。でも、それっていくらGPSってものがあるとはいえ厳密に計ることができるものなのでしょうか?
『あ、あと三メートルで何キロ以内のところだ』とか、わかんないんじゃないでしょうかね。
だって、対象物も動いているわけだし。
アメリカっていう国の奥深さをみるようです。
夢野愛」

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