朗読劇二人芝居『ファンレターズ』矢野優子3通目

矢野優子「前略。
夢野愛先生。
今日、先生の家を訪問しました。
編集部の人々は、私が抱えているもの、背負っていることの重大さなどわかろうともせず、先生とのコンタクトの方法は、聞いても絶対に教えてくれそうもない、わからずやどもばかりなので、しかたなく自分で探しました。
どうやって探したか?
気になりますよね。
Yahoo!知恵袋で呼びかけたんです。
『夢野先生の大ファンです。
同じ趣味のあなた、メル友になりませんか?』と出したところ、
親切な先生のファンの子が、ネットに先生のファンの有志でつくっているサイトがあることを教えてくれ、そこにたどり着くことが出来ました。
そこでみんなが情報を交換し合っていて、私が知らない先生についてのいろんなことを教えて貰いました。
先生が武蔵野市の本庄小学校の卒業生だったことも、そこで初めて知りました。
早速、本庄小学校に電話を入れて、『同窓会を開きたいので』と言って、先生の花小金井の実家の住所と電話番号をゲットしました。
そして、ご実家に電話を入れ、『周英社の矢部優子と申しますが、夢野愛先生にエッセイをお願いしたいのですが、連絡先を』と言ったら、たぶん先生のお母様だったと思いますが、先生のご住所と電話番号をあっさりと教えてくださいました。
思ったより何もかも簡単だったので、なんだか拍子抜けした気がします。
というわけで、今日自分でお弁当を作って、先生のお宅を見に行きました。
私はあまり、昼間、日の出ている間には出歩かないようにしているのですが、どうしてかっていうと、日に当たると溶けてしまうからです。
嘘です。
本気にしないでくださいね、先生。
でも、先生の居場所がわかったので嬉しくて興奮してしまったんでしょうか。なんだかよく眠れず、ごそごそとお弁当を作り始めて、気がついたら電車に乗っていました。
ラッシュの時間を避けたつもりですが、それでも電車は混んでいて気持ち悪くなったので、途中で何度か降りて吐きました。
ようやく先生の住んでいらっしゃるマンションを発見し、しばらく先生の部屋のベランダが見える児童公園で待っていました。
御心配なく。突然先生を訪ねていったりするような、そんな気持ちの悪い人間ではありませんよ。
どうせ、先生にはその時になれば会えるのですから。
先生、でも、私は運命を感じました。
児童公園のベンチに座って、先生の家のベランダを見ていたら、なんと先生が洗濯物を取り込みに出ていらっしゃったのです。
まるで、私がそこで待っていることを知っていらっしゃるかのように。いや、ご存知だったのですね、きっと。
私は胸がいっぱいになりました。
また、お手紙します。
矢野優子」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?