朗読劇二人芝居『ファンレターズ』夢野愛2通目

夢野愛「To. 西田恭子様。
Title. いつも素敵なイラストをありがとうございます。
『恋のドキドキハイスクールパニック』は現在八十枚のあたりを行ったり来たりしております。
さて、楽しみにしていた香港マカオ食い倒れツアーですが、同行を予定していた、デザイナーの半田さん、私の前の編集さんの豊田由希子嬢、同じティーンズハートで山田カオリというペンネームで小説を書いている、柳田礼子さんが相次いでキャンセルとなり、結局、今のところ私と西田さんのみとなってしまいましたが、いかがいたしましょうか?
二人でも決行しますか?
私は最近、身の回りでおもしろくないことが相次いでおり、できれば香港あたりで美味しいものをいっぱい食べて、このたまりにたまったストレスを発散したいなあ、なんて思っているのですが……
と、ここまで書いて、今、西田さんからメールが届きました。
そうですか。
いくら私が今のストレスを食べて発散させるぞ、と言っても、一人ではやはり、香港はまだしも、マカオっていうのは怖い気がするので、今回はとっても残念ですが、見送ることにします。
ただ、去年のあの光英社の忘年会のパーティーの席上で、来年の春は香港だ!とあんなに固く誓い合ったのに、どうしてこんなに相次いでみんなキャンセルとなってしまったのでしょうか?
もしかして、誰かから変な電話とか、かかって来ませんでしたか?
私は今、ストーカーに追っかけ回されて、ものすごく迷惑しています。
もしかして、西田さんのところにも、彼女の手が及んだのではありませんか?
もしそうだとしたら、ごめんなさい。
嫌な思いをされたのではありませんか?
矢野優子と名乗る女性からの電話、もしくは手紙やメールが届いた場合、ご面倒でしょうが、私宛にお送りください。
それが、後々裁判になった時の証拠品になるらしいのです。
それから、また携帯を手に入れました。
今までの電話番号は奴に一日七十回から百五十回くらい無言電話を入れられてしまうので、ほとんど使えません。
いや、ほとんどじゃなくて、絶対に使ってはいけない電話になってしまったのです。
というのは、一日百五十回電話をかけてきて、私が百五十一回目に電話に出たとします。
すると、相手は諦めないでしつこく、しつこく電話をかければ、私が出るんだという印象を持つらしいのです。
ですから、今までの電話は完全に留守番電話にしておいて、彼女が留守番電話にいくら電話しても、それはただの留守番電話でしかない、ということに気がつき、諦めるまでは使えないのです。
新しい携帯の番号とアドレスを書いておきますが、そういう状況なので、くれぐれも他の人に話したり、教えたりしないで下さい。
どこから奴がこの番号とアドレスを入手するか、見当もつかないのです。
ちなみに携帯の番号はこれで三つ目です。
すぐに番号を変えなければならなくなるので、もう自分の電話番号を覚えるのはやめました。
夢野愛」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?