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ラグビーが世界を救う
日本が南アフリカに勝った4年前、「奇跡」の乱発に踊らされて初めてラグビーに興味を持った。そしてラグビーワールドカップが日本で開催されることになった今年、「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」とのクールなコピーに色めき立ち、襟を正して臨むことを心に決めた。お店ではパブリックビューイングを企画し、細かな情報収集もしてラグビーを思いっきり楽しむ方向に舵を切ったのである。
東京の真ん中でバーを持つことの
小説「哀愁のアクエレッロ」:最終章・祈り
翌朝、気持ちよく目覚めると、ポンテ・ヴェッキオに向かう道の途中にある市場でりんごと杏を買い込み、近くの公園でほおばりながら、さてどうやって事にあたろうか考えた。昼間からいろいろと聴き込みを開始するのもいいが、やはり多くのお店が空いている夕方から夜にかけて動いた方が効率がいいだろうと思い、昼間はフィレンツェの街をぷらぷらと歩き回りながら気分を盛り上げておこうと決めた。やはりダヴィデ像はもう一度見て
もっとみる小説「哀愁のアクエレッロ」:十章・トスカーナの魅力
チャンスが到来したのは、それからさらに二年の歳月が流れた後だった。三十二歳という年齢になり、人生の一大転機を迎えることになった時である。八年勤め続けた会社を辞めることにはそれなりの勇気と覚悟を要したが、自分のやりたいことはやっぱり電機業界で上りつめていくことではない、もっともっと興味のある食やアートやスポーツに携わることを生業にした方がよっぽど幸せになれるはずだという確信を抱き、友人や家族の反対
もっとみる小説「哀愁のアクエレッロ」:九章・ 行方不明
ルイゼッラと再会を果たし、感動的なサプライズに心震わされたあの瞬間から、フィレンツェという街に対する愛情がどんどん深まっていくのを感じていた。その勢いはもちろん、日本に帰国してからも衰える様子がなかった。またあの街を訪れて美味しいカプチーノを飲みながらルイゼッラと言葉を交わしたいという欲求が膨らんでいったのだが、晴れて大学を卒業し、電機メーカーに就職して日々の雑務に忙殺されるようになると、そんな
もっとみる小説「哀愁のアクエレッロ」:七章・独り占め
ジョットーの鐘楼を過ぎ、アルノ川を越え、ユースに辿り着いたときにはとうに夜中の一時をまわっていた。そしてドアの前まで来て愕然とした。アーチ型をした木製の扉がぴっちりと閉められていたからだ。扉を叩いてみても、空しい音が人影のない路地に響き渡るだけである。よく見ると扉の横に、
門限は十二時です
と書かれた貼り紙がしてあるのだった。こんなにも充実した一日でさえ、すんなりハッピーエンドとはいかない
小説「哀愁のアクエレッロ」:六章・名もなき絵描きの幸福
翌日、夜の八時少し前に約束通りAcquerelloに到着した。今度はまるで我が家のように慣れた態度で店内に入ると、ルイゼッラが例の大黒様スマイルで迎えてくれた。相変わらず体が重たそうだ。今夜はお客も三、四組入っているようで、フランチェスコは厨房で忙しく仕事をしていた。ウェイターのサマンタも例の如くピンと背筋を伸ばした姿勢を崩すことなく、店内をあちこち歩き回りながら愛想をふりまいていたが、僕の顔を
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