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憧れの葬送

机を入れ替えしました。
これは本当にマジにクッソ大変なことで、休職でもしないと絶対に成しえなかった、歴史に残る大きな偉業と言ってもいいでしょう。

ご存じの方もいるかもしれませんが、私は2、3年くらい作業机を買い替えたいナァ~と思っていたんですね。
今使っているものがもう脚がぐらぐらしたり外れたりしていて、いつ崩壊してもおかしくなかったから…(そうなってから3年使い続けているあたり私は自分が怖いよ)。

高さ70、奥行60、幅150くらいの天板が真っ白な机、引き出しは死んでもいらなくて、足はやや細身の四角がいい、背板はないもの…
私はこれを「理想のファムファタール机」と呼んでおり、度々家具サイトやさまざまな家具屋の実店舗を巡ってはああでもないこうでもないとすり合わせては落胆し続ける日々を送っていた。
天板は絶対白がいい。白い大きな板が部屋の空間を占めるというのは明るくてすてきだから。

母もファム机探しに付き合ってくれていたが、いい加減崩壊寸前の机を見てしびれを切らしたのか度々「もう仮にでもいいから一度買い替えて、それから理想の机を再び探してはどうか」と私を説得しにかかった。
しかしながら私は私の性格と体力を鑑みて、机なんてデカい家具、一度入れたらそこから10年は部屋から搬出しないんだぞ……ということを悟っていたので、絶対に妥協したくない…と意固地に考えていた。

だってそうじゃん。現実はなんでどうぶつの森じゃねえんだろうな。
家具をボワンと葉っぱに変えて模様替えできない21世紀なんて…。
フィン ホヨヨ~ン(家具の方向変えられない時の音)
この先ずっと漫画を描く机だぞ、絶対に完璧に素敵な机を見つけるんだ。
文句のつけようがない明るい素敵な家庭を…机を…。

机を探しては断念、探しては断念を繰り返してたどり着いたこの春。
母は「休職を機にいい加減に机を入れ替えるべきだ。私の部屋の無印の机は天板が白のメラミンで、ぴったりとはいかずともかなりあなたの理想に近いはずだ」と私を再度説得にかかった。
(母は机を始末したがっていたのである。)
私も労働ですり減っていた気力がやや復活したことで、
「まあもういい加減それでもいいか……無印のメラミンデスクは有力候補の一つだったからな。」と許容する気持ちになった。
やはり元気がないとゆとりなんて生まれないのだ。 やる気 元気 肘樹

想像を絶するほど辛い思いをしながら部屋をムチャクチャ片付け、あとは机をあげるだけとなった。
掃除中、無限に部屋に小銭と乾電池とペットボトルの蓋が落ちていて、掃除機をかけると数分間隔でそれらを吸い込んでしまって気が狂うかと思っちゃった。

しかしそこで衝撃の事実が発覚。
母の机の天板は全然白じゃなく、フツーのウッドだったのである。
ずっと敷き布を敷いていたから今気づいたらしかった。
白じゃないじゃん。じゃん。じゃん。じゃん。じゃん。
白じゃない机が部屋に来ちゃうじゃん、10年……この先…
白くない…
ぐわんとしてショックを隠し切れなかったが、
「正直あなたより私の方が天板が白じゃないことにショックを受けている」という母の言葉にそうなんだ……私より?と思った。

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私は今使っている机をばらしにかかった。
ひっくり返してみると脚の付け根がかなりひび割れており、机としての死は目前に迫っているように感じられた。
脚を留めている六角の変なねじ穴をむりやりマイナスドライバで回し一つ一つのパーツを外していったが、最後の一つだけサビていることもあってかどうしてもドライバでは外せず、やむを得ず机を一度ベランダに持ち出した。
脚をあっちこっちにグリングリンにひねり、しまいにはネジごとぶっちぎった。
暴力の勝利。これで二度とこいつは机として生きていくことはない。

明るい太陽の下で机をぶっ殺しながら、こうして懸命に机を殺しているのも、天板が白くない机を迎えるためなのだと思うとなんだかやるせない気持ちでいっぱいだったが、だんだんとまあ、しょうがないか、それでもいいかという方向に帆先が向かっていった。
寛容…でもないか、許容…でもないか、納得というような…
机を殺す、看取るというべきか、この作業が自分を納得させたのかもしれない。
私が今ベランダでひねり殺しているのは、机と、理想の机を買いたいと思っていた憧れの気持ちなのだなと感じた。


新しい机を入れてみると、まったく理想ではないが広々としていて、思ってたよりずっといいじゃん、やったじゃん EじゃんGじゃん最高じゃん へーいかしたシステムデスクだな(隙有らばあーみん語録)という達成感でいっぱいになった。やったーー!!ひろいぞ~!

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もう白い机いらないな。
もっと早くに理想を殺してあげるべきだったのかもしれないが、
今日が寿命だったんでしょうね。
不条理と合意すること、赤木しげるもそう言ってたし。

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