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マイドリーム・地方文化格差 〜ジョンマイラブを観て〜

坊っちゃん劇場で上演中の「ジョンマイラブ」を観劇してきたので、感想と思ったことを書いておく。

あれは忘れもしない2022年11月23日、私のもとにある一報が飛び込んできた。
肘樹さん!加藤良輔さんが坊っちゃん劇場に出演されるみたいですよ!
ええっ……?????

ご存じない方のために一応説明しておくが、
私はテニミュを履修し始めて以来加藤さんのフワッとしたファンである。
2022年には東京でのマンスリーマンション暮らしの最中に銀河劇場へアイドルマスターsideMを観に赴き、
「ハァ!生きているうちに劇場で加藤さんが拝めるなんてありがたいねえ、
本当に東京に来てよかった、足が長すぎ、ナガスギンダブ…ナンマンダブ…」といたく感動したものである。

そんな加藤さんが、坊っちゃん劇場に…?
俺は、夢を見ているのか……?
ここからは私の熱い自分語りとなるが、所詮ブログなんて自分語りをするための格闘リングなのでご容赦いただきたい。
見たくなかったら本題に飛んでいただきたい。


私と坊っちゃん劇場

坊っちゃん劇場とは、2006年に愛媛県東温市に設立された地域拠点型劇場である。

地域拠点型劇場とはなんぞやという話だが、簡単に説明すると坊っちゃん劇場は単に「劇場ホール」というだけの場所ではなく、
「四国にちなんだオリジナルのミュージカル作品」を、「1年間通して」上演し続けている劇場である。

脚本演出はそれぞれの作品によって異なるが、キャストはおおむね坊ちゃん劇場の共同出資団体である、秋田県田沢湖あきた芸術村に拠点を構える「劇団わらび座」から送り込まれてくることが多い。つまり、キャストたちは作品のために1年強は東温市で暮らすことになるのである。

全国的にこういうことってよくあることなのかどうなのか知らないが、
とにかく東温市は1年じゅうミュージカル作品をやっていて、
そのために役者が入れ代わり立ち代わりやってくる土地なのだ。

私は、本当にたまたまとしか言いようがないのだが、
わらび座が2004年から2007年の間に全国各地で上演していた「銀河鉄道の夜」の松山公演に行ったことがあった。
その圧倒的な世界観、クオリティ。私はたちまちにわらび座のミュージカルの虜となった。
数日後には愛媛の別地方でも上演すると聞いて、なりふり構わずに母の知り合いの車に同乗させてもらい駆け付けるほどであった。
思えばあれが私の人生の初多ステである。

観劇したその日から今日に至るまで、銀河鉄道の夜のCDを大切に持っている。

2022年の秋田芸術祭で歌われてて咽び泣いた

数年後、そんなわらび座が東温に劇場を構えてずっとそこでミュージカルをやるらしいぜ。という噂が流れたときは本ッッ気で耳を疑った。

宝塚のファンの方がいたとして、自分の家の20分圏内に新しい宝塚劇場が設置されると聞いたらどうだろうか。
キャー😢!!嬉しい~~~~~!!!😿」…?

いや…

なぜ、秋田の団体が……愛媛の東温に…???????」
はあ、いいんスか、東温で…???」であった。

私は地元を心底憎んでいるという訳でもないが、
東温市ののどかさ(婉曲的表現)は身にしみてわかっていた。
いいんスかわらび座さん。すぐそこの重信川は…まだ野良犬問題も深刻(2006年当時)なほどの田舎で……。

てか、四国オリジナルミュージカルって何スか。
そう思いながら恐る恐る鑑賞した坊っちゃん劇場第一作目の「坊っちゃん」は、
筆舌に尽くしがたいほどに素晴らしかった。
キャパ400強の小さい劇場ながらミュージカル特化型の構造、客席を巻き込んだ演出、何よりプロの役者が目の前で展開する生歌。本当にプロのミュージカルが地元にやってきたのだという感動は生涯忘れられないであろう。

「坊っちゃん」は今日に至るまで再演されていないが、私はいまだにうらなり×マドンナのデュエットにメロっている。
歌というものは、心に焼き付くものなのだ。

自費でも通った、CDが出た公演では必ず買ってアホほど聞いた。
高校まで学校の芸術教育の時間では必ず坊っちゃん劇場での観劇が組み込まれていたし、職場体験も坊っちゃん劇場だった、バックヤードツアーや演劇部のワークショップも行ったし、なんなら就職してからのフォロー研修も坊っちゃん劇場だった。
坊っちゃん劇場は私の人生のかけがえのない1ピースなのである。

というわけで激烈長い自分語りでスマソ(激汗)(汗顔の至り)だったが、
「加藤良輔が坊っちゃん劇場に」という報せを受けた私の衝撃が少しでも伝わっただろうか。
私の歩んできた愛媛県東温市の人生と、オタクとしての人生が交わる世紀の天体ショー開幕である。


観劇感想(本題)

さて、ようやく本題のジョンマイラブ観劇である。
仲良しの後輩2人と連れ立って観に行った。
普段12時半のマチネとかに慣れきっているので、10時半開演という早い時間設定には面食らったが地元なのでめちゃくちゃギリに出ても間に合う。
天王洲に住んでいた時に17時に家を出れば天王洲銀河劇場で17時半に始まるテニミュに間に合っていた時と同じだ。
まさかこんな時間に自宅を出て見られる加藤良輔さんがいるわけ……

いるんだよなあ………。

現在上演中の「ジョンマイラブ」は、日本開国期に活躍した日本/アメリカ人のジョン万次郎とその妻をテーマにした作品である。

ジョン万次郎は土佐の漁村出身で、荒天で遭難・漂流したのちアメリカの捕鯨船に救出され、船長の息子としてアメリカで教育を受けたというかなりシティーハンターすぎる実在の人物である。
日本に帰国したのちは人材の教育や日米の懸け橋として奔走したとされるが、そういうドラマティックなところはおいておいて
本作では「帰国して結婚して、妻が病死するまでの7年」にスポットを当てている。
ジョン万次郎の激動の人生においてかなり「凪」のパートと言えるだろう。なかなか攻めた作りである。

「ジョンマイラブ」では坊っちゃん劇場にしては珍しくシーズンを区切ってのキャスト入れ替え制を取っており、
シーズンの中でも妻の鉄役はAKB48のメンバーによるクワトロキャストとなっている。
私はこのことを知った時「坊っちゃん劇場のヤツ…!いろんな層を呼び込もうと必死なのだな…」といじらしさを嚙み締め涙していたのだが、
この制度のおかげでなぜか加藤良輔が地元にやってきたのだからもうビージョイ(劇場の運営企業)には頭が上がらない。
ビージョイのお肉最高!!甘とろ豚最高!!株式会社ジョイ・アート万歳と言いなさい!!!

劇のラストではライブパートがあるとのことで、私はレンタルのペンライトを借りる気満々であったが、
「有志の方より本日のお客様には全員ペンライトの貸し出しをいただいております」とのことで無料でいただいてしまった。
地元、あったかすぎ。

ていうか加藤良輔さんのサイン入りブロマイドが普通に売店で売っている。
地元……あったかすぎ!!!!!!!!!!
二度と愛媛県東温市の悪口言いません。

いまだにゴミ袋に名前書かされるけど…。(即悪口)

座席は最高の位置であった。
具体的には加藤さんが0番に立った時に一直線上に私がいる感じである。
え…見…てる!?加藤さんが俺のことを見てるぞ!(見てない)
茨城県水戸市出身の加藤さんが俺のことを見てるぞ!!!!(ルイズコピペ)
加藤さんと一直線上に並ぶこと、人生で二度とないと思います。
二度と愛媛県東温市の悪口言いません。

本編前には鉄の父親役による前説があり、
当日にちなんだ豆知識を披露しながら感激についての諸注意を行ってくれた。たまんねえ。これだよ。シームレスに観客を日常から非日常にスライドさせる、演劇のテクニック。
会場前アナウンスもいいけど、こういうの大好きなんだ俺……。

初めは鉄が剣術の道場で暴れまわるシーンからのスタートで、
正直に言ってしまえば今まで坊っちゃん劇場で見てきた「プロのミュージカル俳優によるミュージカル」を見慣れてきた身にとっては、
若干「やっぱしゃーねえけど、本業じゃないな…」という気持ちがチラついてしまった。
しかしながら「16歳でアメリカ帰りの男に嫁入りした剣術師範の娘」というはねっかえりの役どころとしてはかなりマッチしているようにも思えた。

そして満を持して加藤良輔さんの登場である。

かっ  カッコよすぎワロタ…

数日前母が「○○で足が長くてカッコいい人を見かけた」と言っていたが
(地元あるある、坊っちゃん劇場キャストに会いすぎ)ゼッテー加藤さんか三好大貴さん(加藤さんと一緒に東温市にやってきてくれた)だぜ………………。
だって超カッコイイもん…。
な、なぜ加藤さんが…今…東温市に…いる…!?
オーキド博士から冒険の最初に100レべのミュウツー貰っちゃったような奇妙な感覚だ。

加藤良輔さんのかっこよさにメロっていたら「ゴールドラッシュで金稼いだぜ!」の歌が始まり、
ほのぼのと眺めていたが突然客席で手練れの観客たちが一緒にA🎵B🎵C🎵と踊りだしたので面喰った。
しまった…予習してくればよかったよお…!!
(地元あるある、坊っちゃん劇場ガチ勢の熱気がすごすぎ)
忍ミュで勇気100パーセント踊れなくてポカンした時とおんなじだよお…!

ちなみにジョン万次郎は、日本に初めてABCの歌を持ち込んだ人らしいです。
ヘェ~~~~~さっすが坊っちゃん劇場だぜ!!!
四国地域および出身者への見識が深まっていく素晴らしい作品だなぁ~~~~!!

加藤さんのジョン万次郎は素晴らしかった。陽気で穏やかで懐が広くコミカルで、隙があって、アメリカ帰りの立ち回りが似合い、ダンスがキレており、なんとも素敵だった。
私が加藤良輔さんに求めているものすべてである。
普段2.5系の舞台を見ているとどうしてもオールメール(全員男性)に偏りがちで、
それはそれでいいのだが…男女混淆の舞台作品はより一層そのかっこよさが際立って見えるような気がする。
なんてお得なんだ。

てか三好大貴さんの剣芝居超かっこよくない?
本当にこないだsideMの舞台でふわふわの山村やってた人なんすか?
なんで愛媛で見れてんすか?

2幕に突入したあたりで気づいたのだが…この鉄役の人(川原美咲さん)…めっちゃ歌がうまい
え?めちゃくちゃ声がきれい…
アイドルもいいけどミュージカルの道に進まれては?!??!と思ったらやっぱ舞台経験がおありらしかった。
じゃあ俺が言うことなんもないっす。座っときます。
ジョン万次郎との「my dream…」のデュエットは本当に美しく、人間が声を合わせて歌うって素晴らしいね…!という
あまりにもミュージカル原始すぎる感情に回帰させてくれた。
やっぱ歌って男女混じってるとめっちゃいいよお~~!!!
全体曲とか幅広がる~~~~!!
😿

と普通に舞台に前のめりになっていたのだが、
突如加藤さんがタキシード姿で登場するシーンがあり、大絶叫しそうになってしまった。

かっこよすぎ

王子?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!!?
王子じゃないらしい…。ジョン万次郎らしい…。え…
危ないところだった。東温市が加藤良輔さんに統べられるところだった。
統べられてもはだか麦しか上納できないよお~!(ド地元ギャグ)
2人一緒に行ったうちの片方の後輩はテニミュ1stドリライを見に行ってたオタクなので、「え?加藤良輔さんってなんか、近くで見るとマジで顔が小さくて信じられないくらい足が長くて歌がうまくて…」と動揺していた。

ラストでは本公演をもって川原美咲さんが千秋楽とのことで卒業セレモニーもあり、なんとも暖かい空間の中で観劇は幕を閉じた。


ジョン万と私 地方と都市

劇場を後にする私の心に浮かんでいたのは、
ジョン万次郎は、俺だ…」ということである。
ジョン万次郎は………………………………あたしなんだ…!(危険思想)

いや危険思想じゃなくてぇ。

ジョン万次郎は作中、「本当は日本に戻ってくるつもりなんてなかった」と語る。
狭い土佐の漁村で狭い見識のまま生きて死ぬだけの人生より、
太平洋を知りアメリカを知り、そこで自由と平等を知ったことがどんなに嬉しかったかと。
しかし、自分は運よくたまたま遭難して船長に拾われたが、
今でもあの漁村には凝り固まった価値観の中で暮らしている人々がいるのではないか?という思いが、自分を日本に呼び戻したのだと。

昨年休職して約半年間東京に住んでいる間、私は本当にたくさんの劇場を訪れた。
こまばアゴラ劇場、天王洲銀河劇場、メルパルクホール、紀伊國屋ホール、
シアター1010、ステラホール、日本青年館、CBGKシブゲキ、Gロッソ、キンケロシアター。
「絶対行きたい!」とかなり前からチケットを取ったものもあれば、
数日前に「へー、行ってみよう」と思ってチケットを取ったものもある。

観劇を思う存分楽しむ中で私がひしひしと感じていたことは、地方との文化資本格差であった。
本当に圧倒的に違うのだ。文化の数と、そこにアクセスするまでの資格を有すことも、コストも。
帝劇の前を歩いている、小学生含む家族連れ。田舎者にとって、なんという非現実的な光景であろう。
「行ってみたい」と「行ってみよう」が限りなく地続きの場所なのだな、ここは……と思った。
舞台通いの日々を送る間、私は夢の中にいながらここが夢だと自覚している、明晰夢を見ているような気持ちだった。

田舎じゃこうはいかない。
山が海が、都会で繰り広げられている娯楽への道を阻み続けている。
もちろんそれを乗り越えるために夜行バスに転がり込む喜びや思い出も大いにあるので、一概に悪いとは思わないが…。
まあ土地だけじゃ無くて、もちろん家庭の環境もあるけど!!
私は愛媛に帰ってからのここ1,2か月ほど、毎週遠征するというエクストリームクソバカ行為を行っていて、身も資金もボロボロになっていたのだが、坊っちゃん劇場に自分の家から出かけて、舞台を見て、その日のうちに家に帰れることがあまりにもうれしくて……フレッシュグッデイ…(小田和正)

例えば、テニミュを初めて見た人の感想の中に、
「ミュージカルなんて見たことなかったから」「舞台自体見ないから」といった言葉が飛び出すのは珍しくない。
初めての舞台転換やライト、何より目の前で息づく人間に圧倒されるのはなんともいえぬ体験であろう。
そういった感想を目にする中で…うすうす思っていたことが、
今回のジョンマイラブで明確に浮き彫りになったというのが正しいのだが…

私はものすごく、舞台芸術に触れてきた人生を…
それも都市部ではなく「地方」で送ることができた、恵まれた人間なのではないか…!?

だってそうだろう。舞台が好きになるかは本人の勝手として、好きになって「観たい!」と思えば
1年間、ほぼ休みなしでプロの舞台作品が見られる田舎(本当に近所に猿やイノシシが出没するレベルの)なんて、どこにあるんだ。

愛媛県、東温市…!
私はたまたま愛媛県東温市にいたから…!
ジョン万次郎は捕鯨船に拾われたから…今の自分があるだけで…。
ものすごく運がよかったのだ。私は。

坊っちゃん劇場は、「ビージョイグループ会長がわらび座の公演で大きく感動を受け、この感動を多くの人に伝えたいという熱い思いから事業を展開」したとされている。
20年かけて文化の定着する土壌を築くのだという肝入りの、長期戦のプロジェクトである。

つまり私が今舞台芸術が大好きで、たくさん舞台を見たい!と思えているのも、舞台を見ながらあの演出はこのセットは…と考える「目」を養ってくれたのも、一企業の地元地域への文化振興にかける情熱のおかげだったのだ。

国がやらんかそういうことはーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ジョン万次郎が「俺だけが幸せでいるんじゃだめだ」と日本に帰ってきたように、
私も私だけ「舞台サイコー!たまたま東温市に生まれてよかったー!」という気持ちだけではいられない。
舞台を好きになる才能を持つ人に、舞台に触れるチャンスが訪れてほしい。
まあ昨今は配信も活発になったことで、昔よりは「作品に触れる」ってハードルは下がったけどね…。
やっぱり「劇場に行く」ってかけがえのない体験だもんな……。

じゃあ具体的にどないすんねんと言われたら…
まあ今のところ地元に住民税を爆裂に納めるとか…
坊っちゃん劇場の宣伝をするとかしかしかできないのだが…。

「ジョンマイラブ」は坊っちゃん劇場で3月12日まで上演している。
5シーズンにわたるロングラン公演のいよいよ大詰め、加藤さんのご出演は2月20日までなのだが、もし観られる方はぜひ見てみてほしい。
なんと…配信もやっている!
曲調も幅広く、坊っちゃん劇場が多方面に果敢に挑戦していることが伝わる作りとなっている。 

正岡子規の夏目くんマジで萌え萌えだったんだよな

私は過去作の「正岡子規」、日露戦争捕虜と看護婦の恋をテーマにした「誓いのコイン」、瀬戸内水軍がテーマの「鶴姫伝説」あたりが大好きなのだが、なんと「鶴姫伝説」は8K映像化して上映会を定期開催している!!のでこちらも見てみてくれ!!
鶴姫伝説はぁ~、竜神役で…銀河鉄道の夜のジョバンニやってた丸山さんが出てくれてアツかったねんなあ…

ちなみにジョンマイラブで私の好きなシーンは
「福沢諭吉のヒプノシス下剋上ラップ
「闇落ち鷹様」
「ミュージカル成分を急激に補いはじめる船長」
お前榎本武揚だったの!?!?!」です。
見たらわかる。



加藤良輔さん!!愛媛県東温市に来てくださって、本当にありがとうございます!!!
キシモトの魚の干物まるとっと、マジうまいんでよかったら買って帰ってください!!!!!!!!!!!!!

加藤さんに ビージョイに 愛媛県東温市にありがとう…
坊っちゃん劇場、サンキューフォーエバー…。
あともっかいくらい見てえ…。


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