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変形性膝関節症

<変形性膝関節症とは>

40代を過ぎると「膝の痛み」を感じる人が多くなります。その痛みは、「変形性膝関節症」かもしれません。変形性膝関節症とは、膝の関節の間の軟骨がすり減る状態のことを言います。こういったことが起きると、軟骨による衝撃吸収ができなくなるため、骨同士が擦れ合い、摩擦によって痛み、腫れ、こわばり、運動能力の低下、そして骨棘(こつきょく)の形成をもたらします。骨棘とは、軟骨が異常増殖により骨化して棘(とげ)のようになったものです。

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変形性膝関節症の初期の症状を見逃さず治療をすることが理想的ですが、最初の兆候は動き始めは痛いけれど、歩いていると徐々に痛みが消えていくため、初期症状に気付きにくい傾向にあります。

一般的な変形性膝関節症の症状としては、動作時の痛み、腫れ、関節部の熱感、朝起きたときの膝のこわばりなどがあり、徐々に進行すると膝の可動域が狭くなり椅子からの立ち上がりや階段の昇降、歩行が困難になっていきます。骨が擦れ合うので膝を動かす時に軋むような音が聞こえるのも特徴です。次のような症状が見られた際は、放置せず、早めに受診することをお勧めします。

・ひざがこわばる
特に動き始めにひざが固まったように感じる
・正座がつらい
正座やあぐらがしにくくなる
・動き始めに痛む
歩き始めや、立ち上がるときに痛む
・水がたまる
水がたまってひざが腫れる
・膝の変形
膝のO脚変形が目立つようになる

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変形性膝関節症の症状の分類

変形性膝関節症は医師によって診断されますが、進行レベルに応じてステージ分類されます。(K-L分類(Kellgren-Lawrence分類)に基づく分類です。)

ステージ1では、骨棘の形成がみられます。膝に多少の不快感やこわばりが感じられますが軟骨の著しい劣化はみられません。

ステージ2では、大きな骨棘がみられ、軟骨が薄くなり始めています。痛みとこわばりが強く感じられます。

ステージ3では、軟骨が大きく損傷し、より大きな骨棘がみられます。膝が炎症を起こし常時痛みを感じることがあります。

ステージ4は、軟骨がほとんど残っていない状態です。レントゲンで見ると、膝の骨が擦れ合っている様子がわかります。膝に緩衝材がない状態なので、長く歩くことが困難になり、膝の曲げ伸ばしが辛くなります。膝のO脚が目立つようになり、膝関節の拘縮(曲げ伸ばしが制限)されるようになります。

従来の変形性膝関節の治療

従来の変形性膝関節症の治療では、痛みを和らげ、動きやすくすることを目標としてきました。

まず肥満の場合は減量します。体重が1kg増えると膝にはその3倍以上の負担がかかると言われています。
つまり体重を減らせばその分膝への負担を大幅に軽減できるのです。

そして定期的な運動を習慣とします。膝の周りの筋肉を強化することで関節を安定させ、痛みを軽減します。ストレッチは膝関節の可動性と柔軟性を維持するのに最適です。

痛みが強い場合は鎮痛剤を服用し、膝の潤滑剤としてヒアルロン酸を注射することもあります。また、インソール(靴の中敷き)によりO脚を改善させる方法もございます。

これらの治療法で効果がみられない場合は、人工膝関節置換術骨切り術という手術の選択肢があります。しかし、患者さんにとって手術という選択は、非常にハードルが高い場合があります。

一般的に手術では、全身麻酔と硬膜外麻酔を行うため、不安を感じる方も多くいます。また、手術後の合併症として、手術の傷から菌が入り感染症を起こす、血栓ができる、長期的には人工関節が緩んでしまうなどの合併症が起きる場合もあります。

また、手術には、一般的には1ヶ月程度の入院期間が必要となることもあり、手術を受けるための環境を作ることもハードルの一つとなっていると感じます。

そういった手術への不安がある患者さんの新たな治療の選択肢として注目されているのが、再生医療です。そして、最近、効果があると注目されてきた治療法がPRP療法であるPFC-FD療法とAPS療法です。

再生医療による効果が期待できるのは、関節に軟骨が残っているケースであり、ステージ1から3の患者さんに適している治療法です。

これまでは、痛みのコントロールと手術が選択肢だった変形性膝関節症の治療ですが、再生医療により回復できる選択肢があることをこのnoteを通して知っていただければ幸いです。

再生医療という選択

PRP療法とは

PRPとは、Platelet Rich Plasma(多血小板血漿)を意味し、血小板が多く浮遊する血漿の下層から抽出した高濃度の血小板のことです。自身の血液から抽出したPRPを損傷した腱、靭帯、筋肉、関節に注射し、治癒を促進する再生医療です。血小板には成長因子を放出して損傷部分を治癒する働きがあり、この血小板を凝集して損傷部位に注射することで新しく健康な細胞の成長を促進し、治癒を促すという治療法です。 

PFC-FD療法とは

PFC-FD療法は、PRP療法を応用した治療法です。PFC-FDとは血小板由来因子濃縮物のフリーズドライ加工の略称です。PFC-FD療法ではPRP(多血小板血漿)を活性化させPFC(血小板由来因子濃縮物)を作成します。血小板から成長因子のみを取り出し、さらに凝縮したものをフリーズ加工するため、PRPよりも多くの成長因子(約2倍)を注入することが可能なのでより高い効果が期待でき、かつ痛みが少ないのが特徴です。また、約半年の保存が可能です。


👉ポイント: 血小板 
採取した血液の状態は全血と呼ばれ、血球(赤血球・白血球・血小板)と血漿で構成されています。血小板には成長因子が含まれ、これが自己修復に必要な細胞を増殖させ炎症や傷の治癒を促す要となります。血小板の活性化は体の自然な治癒過程において重要な役割を果たします。

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PFC-FD療法とPRP療法の違い

血漿を血液から分離して濃縮したものを使うのがPRP療法で、さらにそこから成長因子のみを無細胞化して取り出し使用するのがPFC-FD療法です。PFC-FD療法の方が効果が高く痛みも少ないのが特徴です。

PFC-FD療法のメリット・デメリット

<メリット>

・安全性の高さ  
この治療法では自身の血液から取り出したものを使用するため、ステロイドやヒアルロン酸などの他の薬剤を注射することで起こり得るアレルギー反応や感染のリスクがありません。

・入院が不要  
注射だけなので入院の必要はありません。治療は通常日帰りで行われます。

・費用対効果が大きい
効果が不確かな膝のサプリメントを服用し続けることや、通院のトータルな時間とコストを比較すると費用対効果は大きいといえます。

<デメリット>

・高額な治療費  
治療には保険がきかないので、全額自己負担となります。価格はクリニックにより異なるので事前に調べることが大切です。

・治療後の腫れなど                          自己組織を使用するためアナフィラキシーショックのような心配はありませんが、治癒力を活性化するため、注射後は腫れや痛みが出現することがありますが、数日で自然に消失します。


PFC-FD療法のプロセス  

一般的なPFC-FD療法のプロセスではまず、血液のサンプルを採取します。サンプルの量は、注射部位によって異なりますが、20mlから50mlです。膝関節の片方だけの治療では50ml程度です。この血液を遠心分離機に入れPRPを作製します。

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さらにPRPを濃縮して活性化し、無細胞化したものをフリーズドライするとドライパウダー状になります。この状態で約半年間の保存が可能です。使用する際は液体に戻して注射します。

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PFC-FD療法が適さないケース

安全性の高い治療法ですが、次の場合は適さないこともあるので医師との相談が必要です。

⚠️感染症、転移性疾患、または特定の皮膚病など、注射によって悪化または拡大する可能性のある病状がある場合

⚠️特定の血液および出血性疾患がある場合

⚠️抗凝固療法を受けている場合

PFC-FD療法の料金

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PFC-FD療法で治療可能な疾患

PFCーFD療法やその他の再生医療による治療効果が期待できる疾患は、変形性膝関節症だけではありません。以下のような疾患にも治療効果が期待できます。

・膝蓋腱炎(運動中や運動後のひざの痛み)
・膝窩筋腱炎(動作時の膝後面の痛み)
・上腕骨外上顆炎(テニス肘)
・上腕骨内上顆炎(ゴルフ肘)
・足底筋膜炎(歩きはじめや長時間歩行時の足の裏の痛み)
・アキレス腱付着部炎(長時間歩いたり走ることによる踵背側の痛み)
・腱鞘炎(手首・足首の痛み)
・靱帯損傷(肘・膝の外傷)
・肉離れ(筋断裂) 

お問い合わせ

当院では、膝に特化してPFCーFD療法に積極的に取り組んでおります。是非お気軽にご相談ください。

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〒062-0042
北海道札幌市豊平区福住2条1丁目2-5 イトーヨーカドー福住店 福住メディカル6F
TEL:011-850-1700



再生医療の歩み

再生医療による治療は、海外に比べ、日本は遅れをとっています。再生医療の歴史と海外での治療事例に触れながら紹介させて頂きます。

PRP療法の普及

血小板に含まれる成長因子が術後の治癒を促進することは、1970年代には確認されていました。しかしこれを行うには大掛かりな機器と患者の血液450mlを要し、費用もかかるため、PRP療法は複雑で大規模手術での使用に制限されていました。

1990年代以降にようやく多くの研究が行われ始め、2000年代初頭からアスリートを中心にPRP療法の需要が高まっています。

2000年代中ごろには歯科および化粧品の分野でいくつかの研究が発表され、統計的かつ全面的にPRP療法が術後治癒を劇的に改善することが報告されています。

整形外科の分野でPRP療法が骨移植や骨折の治癒に非常に役立つとして注目され、2006年にスタンフォード大学で行われた研究では腱の治療におけるPRP療法の有効性も示しています。その他ACL損傷や足底筋膜炎、靭帯および結合組織の修復損傷の治療におけるPRP療法の有効性が次々に検証され、その後スポーツ医学でのPRP療法が開始されました。

多くのアスリートが早期回復

アスリートが日々の厳し練習や試合の中で故障を起こしやすい箇所が腱です。腱は、筋肉と骨をつなぐ丈夫で厚い組織です。通常怪我をした場合、治癒に時間がかかります。しかし、PRP療法による治療では、肘、アキレス腱炎、ジャンパー膝などの慢性痛や、筋断裂や捻挫などの急性痛が治療できます。

フットボールプレイヤーのハインズ・ウォードはPRP療法を受けた最初のプロアスリートと言われています。プレー中に側副靭帯を損傷したウォードは試合を途中退場します。怪我からの復帰まで4-6週間の時間を要すると思われていましたが、PRP療法によりその後欠場することなく試合に復帰しました。これ以降、スポーツ界においてPRP療法による再生医療の人気は急速に高まります。

プロゴルファーのタイガーウッズは、ACL損傷からの回復の一環として、PRP療法を使用しました。彼は膝に数回のPRP注射を受け回復し、その後のトーナメントでいくつも賞を受賞しています。

またテニスプレーヤーのラファエル・ナダルもPRP療法を2009年と2010年に受けて、短期間で100%の状態でコートに復帰できたことを後にインタビューで述べています。

トライアスロン選手のマーク・フレッタはオリンピックへのトライアルに出場する直前にハムストリングスを負傷しました。彼にとって最後となるかも知れないオリンピックだったため、PRP療法を選択し通常6-8週間要する治療期間を4週間に短縮し無事トライアルに参加しています。

以上のように著名なアスリートが再生医療による早期回復を実現した例は数多くあります。最近では、ようやく日本でも再生医療による治療を行うアスリートが増えてきました。

そして、最近では、PRP療法を応用したPFCーFD療法が一般の患者さんにとっても新たな選択肢となっています。人生100年時代、自分の足でいつまでも元気に歩くためには膝の健康が不可欠です。変形性膝関節症は加齢と諦めていた人もPFCーFD療法で歩く楽しみを取り戻しましょう!

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