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ペーパードライバー講習 男性育休記37/68

幼稚園がまた午前で終わる日、抱っこ紐に0歳児を抱えて、妻と一緒に2歳児を迎えに行った足でそのまま買い物に出掛ける。
もうすぐ彼も3歳児になる。そろそろオムツを外すトレーニングをしないとならないという話になり、アカチャンホンポでトレーニングパンツを買った。仮にあと半年、3歳6ヶ月で卒業できるとしても、次弾として生まれたての赤ちゃんも控えている。つまり少なくともあと3年半はオムツと関わっていくのかと思うと、けっこうげんなりする。

ターミナル駅、百貨店のレストラン街でラーメンを食べていったん帰宅。0歳児を下ろしてから、私は再び出かけることになる。

今日は、「ペーパードライバー講習」があるのだ。

これまで、たとえば千葉の方とかに遠出する時はレンタカーを妻が運転してきていた。実家にある義父の車を時々運転していた妻と違い、私は筋金入りのペーパードライバーだからである。最後に運転したのは、数えたら15年前だった。

まだ車を所有しているわけでもないし、買うと決めたわけでもない。それでも子どもが2人になれば、車で移動しなければならないシーンは増えるだろう。いや、別に妻が運転で基本いいのだが、私がやらないといけないこともあるような気がする。

「というような感じで、今日は来ました」

そんな曖昧な私の説明で、助手席に座った教官はなんとなく納得してくれた。「30年ぶり、40年ぶりなんて方も居ますので大丈夫ですよ」。どういう励まし方なのかわからないが、大丈夫らしい。とりあえず教習所内を走ってくれと言われる。

一応、ペーパーとはいえ過去に免許を取得したので、それなりにできるにはできた。直角クランクは緊張した。最後に教官から、「全体的に、右に寄りがち」という指摘を受けた。

それについては心当たりがある。私は原付に乗っていて左折車に巻き込まれたことがあるのだ。タイミングは忘れもしない、20歳の誕生日だった。ロードサイドのラーメン屋に入ろうとした黒いbBが、ウインカーも出さずに左折して、私は見事巻き込まれた。かわしようが無かったと思う。

そんなこんなで、逆に車に乗る時は左側が怖くてできるだけ間隔を開けようとし、逆に右側はセンターラインさえ越えなければ死にはしないだろうと思ってしまい、とそっちに寄りがちなのだ。

というようなことを教官に説明しようかと思ったが、もう時間が無かったのでやめておいた。

それにしても、これも含めて人生で5回は車に轢かれ、3回警察沙汰になっている。奇跡的にすべて膝を擦りむいて終わっている。轢いたことは今のところまだない。

だからまあ運転というか、車道に向いてないのではないかと思うので、「次回は路上行きましょうか」という教官の言葉は胸の奥にしまっておくとして、やっぱり運転はやめといた方が良いのではないかと思った。轢く側になりそうな予感しかしない。

そんなことを考えながらスマホを見ると、妻からメッセージが来ていた。

「ごはん無いから、帰り食べてきて。飲み行ってもいいよ」

いきなり飲みに行っていいよと言われても、平日だし、突然に誰かを捕まえることは不可能なのだが、それでもおそらく、年の瀬にして今年初めて言われた貴重な「飲みに行ってもいいよ」である。せっかくだからこの機会を享受しておこうと、良い感じの居酒屋に入り2杯だけ飲んだ。そして店員の緑色のマッシュヘアのお兄さんに「テイクアウトで、何かおすすめありますか」と聞いた。妻にお土産を買っていこうと思ったのだ。

私が本当に行きたい飲み会は今日ではない。とにかく機嫌をとらないといけない。マッシュが答える。

「テイクアウトなら、カツオの藁焼きがおすすめです」「それください」

氷の溶けたレモンサワーをすすりながら待ち、ようやくカツオの藁焼きが透明なプラスチック容器に入れられて運ばれてきた。渡されながら、マッシュに「30分以内に食べてください」と真顔で言われ、驚きを隠せず「え、無理です」と答えたらマッシュは悪びれることもなく「じゃあ30分以内に、冷蔵庫に入れてください」と言われ、たたみかけるように「本当はこの場で食べてほしいんですけど、どうしてもテイクアウトしたいなら、なにかもしあっても、お店側で責任は持てませんので、そこだけご了承いただけますか」と続ける。

さっきから何を言っているんだこのマッシュは、と思った。

「ご了承いただけますか」

無茶苦茶言いよるな、と思ったが状況が面白くなってしまい、「了承します」と答えて、会計して、なにせ30分しかないわけなのでダッシュで帰ってダッシュで妻にカツオを食べさせた。私も一切れ、食べた。

「普通だ」

という感想を、お互いに抱いた。

そして忘れないうちに「おれは運転はやっぱ、いいや」とだけ、妻に伝えた。

風呂に入る。0歳児も2歳児もすでに妻がやってくれたらしい。頭と体を洗ってから、湯船に入って一息つく、

「いや、お前がおすすめ言うてきたんちゃうんかい」
慣れない関西弁で、マッシュに突っ込んでみた。

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