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天空の城ラピュタと経営者

うちの3歳児は最近宮崎駿監督の初期作「パンダコパンダ」がお気に入りで、1週間に1回くらいのペースで見ている。

「たけやぶがいい」

というフレーズを良くモノマネしている。この若さで駿パイセンに目をつけるとはお目が高い。

そしてこのタイミングで、金曜ロードショー「天空の城ラピュタ」。

観るしかないでしょう。

私は3歳児を膝上に乗せて、一緒に鑑賞した。
何回見ても面白い冒険譚だが、今回なぜかラピュタを事業経営、事業継承の視点で見てしまった。歳である。

■親方の鉱山事業、パズーのコミュ力

パズーは恐らく18歳未満なので、日本の労働基準法で見ると色々違反があるのだが、どう見ても日本ではないしフィクションなのでいろいろ目を瞑る。

ここではパズーを日本での26歳くらい、新卒4年目くらいのイメージで考えたい。

まず、親方は作中の労働から察するに「鉱山の採掘」そのものというよりは、「鉱山の入口付近の昇降設備の運営」をしているように見える。元は現場作業(採掘)をしていた可能性は高いが、現在は機械関係の保守メンテナンスなどをしているように見える。鉱山の所有権を持っていて、採掘者の上がりの何割かをもらうビジネスモデルかもしれない。まあ総じて、鉱山事業としておく。

パズーはその鉱山事業の、たった一人の従業員だ。

彼らの意思疎通はすごい。親方は言葉少なだが、「いま手が離せねぇ、パズーお前やれ」と仕事を振ってくるものの、「落ち着いてやればできる」とフォローもしており、操作そのものは過去何度も教えていること、パズーを信頼していることが感じ取れる。そしてパズーは、言わずもがな、その期待に応える。

親方の事業経営はどうなのだろうか。奥さん、チビのマッジを扶養しているようなのでそれなりに収入はあるのだろう。まだまだ働き盛りではありそうだが、パズーをいつかの後継として大切に育てている様子がなんとなく見て取れる。肉団子を買い与えるのもそうだし「残業は無しだ」というセリフからも、これは「残業になるかもと伝えていたが、今日はやはり残業無しで定時で上がりで大丈夫である」ということだ。とかく、ワンマン社長は自分が働いているのと同じ労働時間、労働観念を無言の圧力で労働者に押し付けがちだが、こういうアナウンスメントがきちんとできるあたり、とても良い親方である。

そしてパズーの待遇である。

パズーは両親と死別、特に父を「詐欺師扱いされて死んだ」とまで言っている。

その通りであれば経済的に困窮してるはずだが、その割にはものすごい家に住んでいるし、鳩も大量に飼って餌をやり芸を仕込み、トランペットも吹いている。飛行機も作っている。

これは現代日本で言えば、20代前半にして港区のタワマンに住み、趣味はロックバンド(ギター&ボーカル)、週末は高級キャンピングカーで山に出向いて鷹狩り。そんな感じなんじゃないだろうか。

つまり、親方の金払いはめちゃくちゃ良いということである。本当に良い親方である。

この親方にして、パズーも後継として資質抜群だ。

技師としても優秀そうだし、何より恐るべきはその顔の広さ、コミュ力である。肉団子売りからチビのマッジ、機関車を運転してるジジイ、ポム爺さんなど、全員懐柔している。出会ったばかりの同年代異性であるシータが昏睡していることをいいことに持ち帰った挙句「天使かと思った」と第一声を浴びせるエグい距離の詰め方も含め頭抜けたコミュニケーション能力を持つ、すなわちコミュ力モンスターである。彼に継いだらめちゃくちゃ事業拡大しそうである。

■カリスマ経営者ドーラの登場

完璧に思われた、親方のパズーの育成並びに事業継承計画であるが、いま最も勢いのある海賊界隈のベンチャー企業「ドーラ一家」の登場によって暗雲が立ち込める。

どこからどう見ても普通に犯罪者集団なのだが、圧倒的に派手で、最先端の自動車に乗り、肉の食い方も豪快だ。金払いは良さは、カタギの親方は勝てない。陸だけじゃなく飛行機で空も飛ぶし、毎日派手で何か楽しそうだ。

パズーも倫理観はある方なのだが、いかんせん若さである。「シータ」という女子が絡むと心は千々に乱れてしまったのだろう、国家権力に囚われてしまった彼女を再び取り戻すためなら犯罪者集団と分かりながらドーラ一門にあっさり下ってしまうのである。断言して良いが、ドーラに「おばさん、僕も仲間に入れてくれないか。シータを助けたいんだ」と伝えたあの瞬間、パズーは親方のことなど全く考えてない。恋は盲目ということを差し引いても、ドーラのカリスマ性と行動力に惹かれてしまった面も少なからずあるだろう。なんとかしてくれそうだし、実際に何とかなった。パズーの人を見る目は正しかったのだ。
それに現代日本においても海賊が主人公の漫画は大ヒットだ。そういえばその海賊とパズーの声と似ている。パズーが海賊の一味になることは仕方なかったのだ。

ところで、組織としてのドーラ一家である。事業内容は「海賊」。お宝を暴力などで強奪してから転売するというめちゃシンプルな営業形態だが、ドーラの圧倒的な暴力と知略、そしてドーラの夫の機械技術がそれを支えている。
株式会社ドーラ一家のホームページがあるとして、「理念」とかのところに、「暴力」「知略」「機械技術」という毛筆のキーワードが三角形に並んでいると思って欲しい。

そして、作中一番と言って良いほどドーラは元気であるが、技術者の夫も含め2人は老境であり、後継を考えないとならない。

その候補としてたくさんの息子たちはいるのだが、彼らは暴力部分ではドーラの後継たりうるが、知略と機械技術はからっきしである。彼らの誰が継いでもドーラブランドは守られないと私は断言しよう。

そこで、我らがパズーである。

パズーは(株)ドーラ一家の三角形のうち、「機械技術」はかなりの実務経験があり即戦力と言っていい。暴力と知略もかなりの才能を秘めている。ロッククライマー顔負けの握力と度胸。受け取ったバズーカをガンガンにぶっ放す。暴力はバッチリだ。でもって知略はコミュ力でカバーできるだろう。シータか誰かをコンサルで雇えば良い。

悲しいのは、親方である。ほとんど完璧に思えた育成をしたにも関わらず、ポッと出のカリスマ経営者、というかゴリゴリの犯罪者に後継を取られてしまいそうなのである。
悲しいがあと10年待って実子であるマッジを現場に据え、もう10年かけて仕込んでやってほしい。だが果たしてあと20年、親方は働けるだろうか。そしてドーラ一家しかり、実子だからといって継承がうまくいく保証もない。

事業継承の難しさをラピュタから学んでしまった。

■3歳児の感想

「このひとはドロボーなの?」

冒頭、ドーラ一家を悪いやつだと思った3歳児は目を白黒させながらなんとか話についてきていた。

「いいドロボーもいるんだよ」という複雑な善悪を教える羽目になったが、パズーとシータのスピード感溢れる逃亡劇は3歳児を虜にしていた。

ドロボーのおばさんを味方にし、ロボットの手のひらからシータを「すり抜けざまにかっさらう」シーンを、親子2人で固唾を飲んで見守った。

幸せなひとときであった。

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